この記事は、就労継続支援A型(利用者と雇用契約を結び、最低賃金以上を支払う就労支援)への参入を検討する起業家や法人の新規事業担当者向けです。「閉鎖が相次ぐA型に今から参入して大丈夫か」を判断したい方に向けて書いています。
結論から言うと、A型の開業は2026年9月時点でも制度上は可能です。ただし、指定の段階で「生産活動だけで賃金を払える事業計画」を根拠書類つきで示し、開業初年度から生産活動収支を黒字にすることが条件です。福祉報酬で人件費をまかない、生産活動は赤字でも成り立つという旧来のモデルは通用しません。
本記事では、廃止・解雇の現状を厚生労働省のデータで確認し、厳しくなった理由、指定のハードル、必須の事業設計、B型との比較、収支、指定申請の流れを整理します。撤退ラインと失敗パターンも率直に書きます。
記事でわかること
A型の現在地:事業所数はピークから減り、令和6年度は解雇が急増した
厚生労働省が障害者部会に示した国保連データでは、A型事業所数は令和3年度の3,596か所から4,634か所のピークまで増えました。その後、令和7年6月公表の同資料では4,371か所に減っています。利用者数も9万106人のピークから8万4,808人に減りました。同資料にデータの基準月の記載はありません。
背景にあるのが、令和6年度報酬改定後の大規模な廃止と解雇です。令和6年度の障害者の解雇者数は9,312人に上り、そのうちA型利用者は7,292人でした。
令和7年度の解雇者数は3,692人まで落ち着きました。ただし厚生労働省は、同年度の障害者の就職件数が減った理由に「A型事業所への就職件数の減少」を挙げており、縮小基調は続いています。
令和5年3月末時点でA型3,715か所のうち1,882か所(50.7%)は、生産活動収支が賃金総額を下回る「指定基準未充足」でした。厚生労働省は解雇が多発した事業所の「約9割は生産活動収支が赤字」と分析しています。
半数が基準を満たせず淘汰されている。これが参入判断の出発点です。
| 指標 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| A型事業所数 | ピーク4,634か所から4,371か所へ | 令和7年6月公表資料 |
| A型利用者の解雇者数 | 7,292人(障害者全体9,312人) | 令和6年度 |
| 障害者の解雇者数 | 3,692人(前年度比60.4%減) | 令和7年度 |
| 生産活動収支が賃金総額未満の事業所 | 1,882か所(50.7%) | 令和5年3月末 |
閉鎖の構造要因はA型の倒産・閉鎖はなぜ続くのかで分析しています。本記事は参入判断に絞ります。
なぜ厳しくなったのか:令和6年度改定のスコア方式と減点ルール
直接の理由は、令和6年度改定でスコア方式が「生産活動収支と労働時間を重く評価する」形に組み替えられたことです。
評価項目と配点:赤字は減点、経営改善計画書の未提出は50点減
A型の基本報酬は7項目の合計点で決まります。厚生労働省の評価方法通知(令和7年4月1日適用)による配点は次のとおりです。
| 評価項目 | 配点の幅 | 参入時のポイント |
|---|---|---|
| 労働時間(1日平均) | 5点~90点 | 7時間以上で最高点 |
| 生産活動(過去3年度の収支) | マイナス20点~60点 | 黒字が続くほど高く、赤字は減点 |
| 多様な働き方 | 0点~15点 | 就業規則等の制度整備で加点 |
| 支援力向上の取組 | 0点~15点 | 研修・第三者評価などで加点 |
| 地域連携活動 | 報告書の公表で算定 | 活動内容と関係事業者の意見を公表 |
| 利用者の知識・能力向上 | 0点または10点 | 令和6年度新設 |
| 経営改善計画 | マイナス50点または0点 | 提出義務があるのに未提出で50点減 |
令和6年度改定で、生産活動収支が賃金総額を下回った年度は減点される仕組みに変わりました。減点は最大でマイナス20点です。
点数は報酬に直結します。基本報酬の単位数はスコアの区分ごとに定められ、上位の区分と下位の区分では1日あたりの単位数に大きな差がつきます。自分の定員・人員配置・スコア区分に当たる単位数は、厚生労働省の報酬算定構造で確認してください。
スコアの届出と公表の期限・様式は指定権者ごとに異なります。採点基準の詳細と自己採点の手順はA型のスコア表の見方と自己採点にまとめています。
経営改善計画書:猶予は原則1年、改善しなければ指定取消の検討へ
指定基準第192条第2項は、生産活動の収入から必要経費を控除した額が「利用者に支払う賃金の総額以上」となることを義務づけています。満たせない事業所は、指定権者に経営改善計画書を提出しなければなりません。
厚生労働省の留意事項通知(障障発0331第2号・令和7年3月31日)では、経営改善の猶予期間は原則1年です。収入の増加や経費の減少など改善の実績がある場合に限り2年目の計画が認められます。3年目以降は、指定権者だけで判断が難しいときに自立支援協議会などの意見を聴いて判断するとされています。
改善が見込まれなければ、勧告・命令を経て指定の取消または停止を検討します。計画書を期日までに出さない場合はスコアで50点減点され、指定権者の指導の対象にもなります。書き方はA型の経営改善計画書の書き方を参照してください。
令和8年6月施行の改定でA型はどうなったか
令和8年度報酬改定では、A型の基本報酬とスコア方式の再設計は行われていません。A型に関わる改定は就労移行支援体制加算の見直し(令和8年4月施行)だけです。一方、B型・グループホーム・児童発達支援・放課後等デイサービスでは、令和8年6月1日以降の新規指定事業所の基本報酬が1.2%から2.8%引き下げられました。
A型は対象外ですが、新規参入を抑制する方向性が持ち込まれたこと自体が次期改定を占う材料です。全体像は令和8年6月施行の報酬改定を参照してください。
指定のハードル:令和7年11月のガイドラインで審査が厳格化
厚生労働省は令和7年11月28日、「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」を指定権者に通知しました。人員・設備の形式要件を満たせば指定される時代は終わり、「生産活動で賃金を払えるか」を根拠書類で確認する運用に変わっています。
- 事業計画書に、事業の目的と法人の理念、支援員の人員体制と研修計画、利用定員の根拠、地域の関係機関との連携体制を記載させる。
- 収支予算書で「利用者の賃金を支払うことができる生産活動収入が見込まれるか」を確認する。
- 取引予定先の名称・契約内容、複数取引先の確保状況を、財務諸表、口座残高証明書、業務委託契約書や確約書で確認する。
- 指定希望者は開所予定地の市区町村に開所の意向と事業計画を事前に説明し、指摘事項を改善したうえで議事録等を添えて申請する。
「作業は開業後に探す」「取引先は未定だが福祉報酬で回せる」という計画は、申請の段階で通りません。確約書や覚書を申請前にそろえてください。
総量規制と事前協議は自治体差が大きい
障害者総合支援法第36条第5項は、障害福祉計画の必要量に達している場合などに都道府県が指定をしないことができると定めています。対象は施行規則で生活介護・A型・B型とされ、A型も法律上は総量規制の対象です。
実際の運用は分かれており、A型を対象から外している自治体もあります。事前協議の要否と総量規制の有無は、開業予定地の指定権者の手引きで確認してください。全体像は障害福祉サービスの総量規制で整理しています。
スコア表と経営改善計画書は開業前から設計する
生き残るA型は、スコア表を「開業前に事業を設計する仕様書」として使います。開業前に決めることは3つです。
第1に労働時間です。単一の項目としては最も配点が大きく、1日平均7時間以上で90点、6時間以上7時間未満で80点、4時間以上4時間30分未満では40点です。短時間中心の設計は点が伸びず生産性も出しにくいため、利用者像と生産活動の中身に合わせて最初に決めてください。
第2に初年度からの黒字です。生産活動の配点は過去3年度の収支で判定され、初年度の赤字は3年目まで採点に残ります。「立ち上げ期だから赤字はやむを得ない」という前提は、スコア上も指定基準上も許容されていません。
第3に経営改善計画書の様式です。生産活動の収入・経費・賃金総額の内訳と改善策の欄は、開業前の事業計画の検証項目そのものです。指定権者の様式を先に読み、「この計画なら出さずに済むか」を確認してください。
それでも開業するなら:生産活動収支が賃金を上回る設計が絶対条件
A型の収益構造は他の障害福祉サービスと決定的に違います。利用者の賃金は生産活動の収入から払い、福祉報酬(訓練等給付費)から補填してはいけません。
最低賃金の上昇圧力:全国加重平均は1,177円へ
令和8年度の地域別最低賃金は、2026年9月3日に全都道府県で改定額が答申されました。全国加重平均は1,177円で、前年度の1,121円から56円の引上げです。最高は東京都の1,280円、最低は1,085円でした。答申額は労働局での異議申出の手続を経て決定され、令和8年10月1日から12月2日にかけて順次発効する予定です。
A型では最低賃金の上昇がそのまま賃金総額の増加になります。利用者20人が1日4時間・月22日働く場合、時給1,121円なら賃金総額は月約197万円、1,177円なら約207万円で、年間約118万円増えます。
この増分を粗利で吸収できなければ翌年度は赤字です。最低賃金は毎年上がる前提で計画を組んでください。
生産活動の設計:福祉報酬に頼らない粗利を作れるか
- 母体法人に本業があり、その業務の一部をA型で担える(自社内需要で最低限の売上を確保できる)。
- 時給換算で最低賃金の2倍以上の単価になる作業を、利用者の能力に合わせて切り出せる。
- 取引先を3社以上に分散でき、申請前に確約書や覚書を取り交わせる。
母体に本業がなく「利用者を集めてから作業を考える」参入は、廃止事業所に共通するパターンです。生産活動を設計できないならB型を検討すべきです。
撤退ラインと失敗パターン
撤退ラインは「開業12か月時点で生産活動収支が賃金総額を下回っている」場合に置くことを勧めます。ここで赤字なら翌年度に計画書の提出義務が生じ、改善できなければ減点、報酬低下、指定取消の検討、利用者の解雇という最悪の形で終わります。
よくある失敗は次の3つです。
- 集客を優先して定員を埋め、作業量が追いつかず「仕事のない時間」に賃金を払う。
- 取引先が1社しかなく、受注が減ると労働時間を削るしかなくなり、スコアも落ちる。
- 計画書に「翌年度に売上2倍」といった実現性のない数字を書き、指定権者の信頼を失う。
本当にA型か:B型・就労選択支援との比較で決める
| 比較軸 | A型 | B型 |
|---|---|---|
| 利用者との関係 | 雇用契約。最低賃金以上の賃金 | 雇用契約なし。工賃を支払う |
| 基本報酬の決まり方 | スコア方式 | 平均工賃月額の区分(令和8年6月に基準額を3千円引上げ) |
| 生産活動が赤字の場合 | 指定基準違反。計画書提出、減点、指定取消の検討 | 報酬区分が下がるが基準違反ではない |
| 令和8年6月の新規指定抑制 | 対象外 | 新規指定分は基本報酬の1000分の984 |
B型は雇用契約がなく、生産活動が振るわなくても指定基準違反にはなりません。生産活動の設計に自信がなければB型のほうが持続しやすいケースが多いです。収益性は同日公開の就労継続支援B型は儲かるのか、制度比較はA型とB型の違いを参照してください。
もう1つが、就労を希望する人の適性を事前に評価する就労選択支援です。対象は段階的に広げられる予定で、A型の新規利用者が加わる時期は指定権者の案内で確認してください。対象に入れば、就労選択支援事業所との関係づくりが集客の前提になります。
開業資金と収支モデル:福祉報酬と生産活動を分けて考える
A型の収支は、福祉報酬で職員人件費と施設費をまかなう「福祉会計」と、生産活動の売上で賃金をまかなう「生産活動会計」の2本立てです。
先に組むのは生産活動会計です。利用者20人が1日4時間・月22日働き、時給1,177円なら賃金総額は月約207万円、年間約2,485万円になります。売上から必要経費を引いた額がこれを上回る必要があり、粗利率5割なら年間約5,000万円の売上が要ります。
取引先ベースでこの売上を積み上げられるかが参入可否の分かれ目です。
福祉報酬側は「1日あたりの単位数×1単位の単価×1日平均利用者数×月間開所日数」で概算します。単位数はスコアの区分と定員・人員配置で決まり、単価は地域区分で変わります。自分の条件に当たる単位数は厚生労働省の報酬算定構造で確認し、上下のスコア区分でも試算してください。
この報酬から、管理者兼サービス管理責任者(サビ管)1人、職業指導員・生活支援員3人程度の人件費と家賃などを払います。
開業資金で特に大きいのは運転資金です。福祉報酬はサービス提供月の翌々月入金で、生産活動の売掛金の回収も遅れがちです。開業から3か月分以上の職員人件費と利用者賃金を現金で持ってください。
資金調達では日本政策金融公庫の融資制度が使えます。制度の種類と必要書類は同日公開の障害福祉事業の開業資金で扱っています。
指定申請の流れとスケジュール
法人設立から指定まで半年から1年かかるのが一般的です。事前協議で取引先の根拠書類まで見られるため、準備期間はさらに延びます。
| 段階 | 主な作業 | 目安期間 |
|---|---|---|
| 法人設立・事業計画 | 法人格の取得、生産活動の設計、取引先の確約書 | 2か月~4か月 |
| 物件・人員の確保 | 用途地域と消防の確認、サビ管・職業指導員・生活支援員の採用 | 2か月~4か月 |
| 事前協議・指定申請 | 指定権者との協議、申請書類の提出、審査 | 2か月~3か月 |
| 指定・開業 | 指定日は指定権者の定めによる。電子請求の準備、利用契約 | 指定月に開業 |
指定基準では、職業指導員と生活支援員の総数を常勤換算で利用者数の10分の1以上とし、それぞれ1人以上を置きます。このほかに管理者とサビ管が必要です。サビ管は実務経験と研修修了が要件のため、採用の可否が指定時期を左右します。
書類一覧は指定申請 完全ガイド、法人格の選び方は同日公開の障害福祉事業の法人格を参照してください。
開業後の国保連請求では、労働時間がスコアの採点根拠になるため、初月から実績記録票と勤怠を正確に残してください。手順は開業後はじめての国保連請求チェックリストと就労継続支援A型・B型の請求で確認できます。
よくある質問
A型の新規指定は今も受け付けているのか
受け付けています。ただし令和7年11月のガイドライン以降、指定権者は収支予算と取引先の根拠書類で「生産活動で賃金を払えるか」を確認します。総量規制と事前協議の要否も確認してください。
開業初年度は生産活動が赤字でも仕方ないのでは
認められていません。指定基準第192条第2項は生産活動収支が賃金総額以上であることを求めており、下回った年度は翌年度に経営改善計画書の提出義務が発生します。スコアでも初年度の実績は3年目まで残ります。
スコアが低いと指定が取り消されるのか
スコアの低さ自体で直ちに取消にはなりません。ただし赤字が続き、計画書を出しても改善が見込まれない場合は、勧告・命令を経て指定の取消または停止が検討されます。計画書を期日までに出さない場合は50点減点され、指導の対象になります。
最低賃金が上がる中で賃金総額を抑える方法はあるか
賃金引下げや労働時間の削減で収支を合わせる方法は、厚生労働省が「不当な改善」として指定権者に確認を求めている行為です。労働時間の短縮はスコアも下げます。取るべき手段は、単価改定、高付加価値の作業への転換、取引先の分散です。
まとめ:生産活動で賃金を払える根拠があれば今からでも可能
A型の開業は2026年9月時点でも制度上は可能です。しかし、令和6年度改定のスコア方式、令和7年11月の新規指定ガイドライン、毎年上がる最低賃金が重なり、「福祉報酬で回すA型」は成り立たなくなりました。参入できるのは、母体事業や確約済みの取引先で、開業初月から賃金総額を上回る生産活動収支を出せる法人だけです。
その根拠を申請前に積み上げられないなら、B型を含めて事業形態を選び直してください。参入するなら、スコア表と計画書の様式を開業前の設計図として使い、開業12か月時点の生産活動収支を撤退ラインに置いて臨むことを勧めます。
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- 就労継続支援B型の開業ガイド
- 障害福祉事業所の立ち上げ方法
指定申請と請求事務は外に出し、生産活動の設計に集中する
A型の経営者が時間を使うべきなのは、取引先の開拓と生産活動の設計です。指定申請の書類作成は指定申請の代行サービスに任せると、ガイドライン対応の書類を短期間でそろえられます。
開業後の国保連請求は、障害福祉専門の請求代行WITH福祉という選択肢があります。実績記録票をFAXで送るだけで請求事務の負担を約90%削減でき、毎月20,000件以上の請求処理、約1,200事業所、全国47都道府県に対応しています。返戻による入金遅れを防ぐ意味でも開業月からの利用を検討してください。
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参考(一次情報)
- 就労継続支援A型の状況について(社会保障審議会障害者部会・令和7年6月)|厚生労働省
- 就労継続支援A型の状況について(社会保障審議会障害者部会・令和6年11月)|厚生労働省
- 令和7年度 障害者の職業紹介状況等|厚生労働省
- 厚生労働大臣が定める事項及び評価方法に関する留意事項(令和7年4月1日適用)|厚生労働省
- 就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について(障障発0331第2号・令和7年3月31日)|厚生労働省
- 指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン(令和7年11月28日)|厚生労働省
- 令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項|厚生労働省
- 全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました(令和8年9月3日)|厚生労働省
- 障害福祉サービス費等の報酬算定構造(令和8年6月施行分)|厚生労働省
- 指定障害福祉サービス基準(第186条・第192条)|厚生労働省
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