就労継続支援B型(雇用契約を結ばずに働く場を提供する障害福祉サービス)の開業を検討する起業家・法人担当者向けの記事です。指定基準・開業までの流れ・開業資金・収益構造・請求体制まで、参入判断に必要な情報を一次情報つきでまとめました。
結論から言うと、B型を開業するには法人格の取得と、自治体(指定権者)からの「指定」が必須です。そのうえで開業の成否を分けるポイントは3つあります。第一に、サービス管理責任者を含む人員基準を満たし続けること。第二に、報酬が平均工賃月額と連動するため、工賃を生む生産活動を設計すること。第三に、開業初月から国保連請求(国民健康保険団体連合会への給付費請求)の体制を整えることです。
2026年は、令和8年6月に基本報酬区分の見直しが施行された直後のタイミングです。古い情報のまま事業計画を立てないよう、本文では最新の一次情報リンクを添えて解説します。
記事でわかること
就労継続支援B型の基礎と参入判断
就労継続支援B型は、通常の事業所に雇用されることが困難な障害のある人が対象です。雇用契約を結ばずに、就労や生産活動の機会を提供します(WAM NET:就労継続支援B型(非雇用型))。利用者には賃金ではなく、生産活動の収益から「工賃」を支払います。
まず、類似サービスとの違いを早見表で押さえてください。より詳しい比較は就労継続支援A型とB型の違いで解説しています。
| 項目 | 就労継続支援B型 | 就労継続支援A型 | 就労移行支援 |
|---|---|---|---|
| 雇用契約 | なし | あり(最低賃金以上) | なし |
| 利用者への支払い | 工賃 | 賃金 | 原則なし |
| 主な利用者像 | 雇用契約での就労が難しい人 | 支援があれば雇用で働ける人 | 一般就労を目指す人(原則2年) |
| 事業の性格 | 福祉的就労の場 | 雇用の場+生産事業 | 訓練・就職支援 |
参入判断の観点は2つです。1つ目は市場環境。A型は令和6年度報酬改定後、生産活動の赤字を理由とした閉鎖が相次ぎました。背景は就労継続支援A型の倒産・閉鎖が相次ぐ理由で詳しく解説しています。雇用契約と最低賃金の支払い義務がないB型は、A型からの転換先・移行先としても需要が続いています。
2つ目は自治体の指定方針です。事業所数が多い地域では、新規指定を制限する動きが出始めました。たとえば大阪市は、令和8年8月1日指定分から就労継続支援B型の新規指定を行わないと公表しています(大阪市:事前協議について)。開業予定地の指定権者(都道府県・政令市・中核市)に、新規指定の可否を最初に確認してください。
あわせて、令和7年10月に新サービス「就労選択支援」が始まりました(厚生労働省:令和7年10月からの制度変更)。新たにB型の利用を希望する人は、原則として就労アセスメント(働く力や適性の評価)を経て利用につながる流れです。開業後の利用者確保では、就労選択支援事業所や相談支援事業所との連携が前提になります。
指定基準:人員配置・設備・定員
結論:B型の指定を受けるには、人員・設備・運営に関する基準をすべて満たす必要があります。根拠は「障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第171号)です。条文はe-Gov法令検索で確認できます(B型は第198条~第202条)。
人員配置基準
| 職種 | 配置の基準 |
|---|---|
| 管理者 | 1人。管理業務に支障がなければサービス管理責任者等と兼務可 |
| サービス管理責任者(サビ管) | 利用者60人以下で1人以上。うち1人以上は常勤 |
| 職業指導員・生活支援員 | 合計で常勤換算「利用者数÷10」以上。それぞれ1人以上、いずれか1人は常勤 |
職業指導員と生活支援員の合計は、10対1(利用者10人に職員1人)が最低基準です。報酬上は、7.5対1まで手厚く配置すると単位数の高い「サービス費(Ⅰ)」を算定できます。人件費と報酬のバランスをどちらで組むかは、事業計画の初期に決めておく項目です。
最大の関門はサビ管の確保です。所定の実務経験と研修修了が必要な職種で、採用市場でも慢性的に不足しています。開業後に欠員が続くと減算、最悪の場合は指定取消につながります。リスクの詳細はサビ管欠如減算の仕組みと対処法を参照してください。
設備基準
訓練・作業室、相談室、洗面所、便所、多目的室その他運営に必要な設備が求められます。訓練・作業室は、行う作業に支障がない広さが必要です。1人あたりの面積要件を独自に定める自治体もあります。
物件選びでは、指定基準に加えて用途地域(都市計画法)・建築基準法・消防法の確認が必要です。賃貸契約の前に、図面を持って自治体の担当課と消防署に相談すると手戻りを防げます。既存建物の用途変更や消防設備の追加工事は、費用とスケジュールの両方に響くためです。
利用定員
B型の利用定員は20人以上です。生活介護などと組み合わせる多機能型事業所には、定員の特例があります。定員は基本報酬の単価区分(定員20人以下・21人以上など)にも影響するため、物件の広さ・想定利用者数とセットで決めてください。
開業までの流れとスケジュール
結論:準備開始から指定まで、おおむね6か月~1年を見込みます。法人設立から指定までの標準的な流れは次のとおりです。障害福祉事業全体に共通する手順は障害福祉事業所の立ち上げ方法で詳しく解説しています。
| ステップ | 内容と期間の目安 |
|---|---|
| 1.法人設立 | 株式会社・合同会社・NPO法人など。定款の事業目的に障害福祉サービス事業を明記(2週間~2か月) |
| 2.物件・人員・資金の確保 | 指定基準を満たす物件の選定、サビ管等の採用、資金調達(2~4か月) |
| 3.事前協議 | 指定権者との協議。自治体ごとに期限あり(大阪市は指定月の3か月前) |
| 4.指定申請 | 申請書類の提出・審査・面談や現地確認(1~2か月) |
| 5.指定・開業 | 指定は毎月1日付が一般的。指定後に利用契約とサービス提供を開始 |
スケジュールの運用は自治体で異なります。大阪市の例では、事前協議が指定月の3か月前、申請予約の締切が2か月前の10日頃です(大阪市:新規指定申請の手続き)。締切を1つ逃すと開業が1か月以上ずれるため、開業予定地の手引きで逆算スケジュールを作ってください。申請の流れ・必要書類・行政書士費用の相場は障害福祉サービスの指定申請 完全ガイドで確認できます。
注意点は、指定申請の時点で人員と物件が確定している必要があることです。サビ管の採用が遅れると、家賃だけが発生する空白期間が生まれます。人員確保は最優先で動いてください。
開業資金の目安と内訳
結論:開業資金は「初期費用」と「運転資金」に分けて見積もります。金額は地域・物件・定員・作業内容で大きく変わるため、内訳ごとに自分の計画へ当てはめて積算してください。
| 費目 | 見積もりの考え方 |
|---|---|
| 法人設立費 | 登録免許税など。株式会社はおおむね25万円前後、合同会社は10万円前後 |
| 物件費 | 敷金・保証金・前家賃・内装改修費。トイレ増設やバリアフリー化を含む |
| 設備・備品 | 作業台・工具・パソコン・送迎車両など。生産活動の内容で大きく変動 |
| 採用費・開業前人件費 | 指定申請の準備段階から職員の雇用が始まるため、開業前の給与も計上 |
| 運転資金 | 家賃・人件費の3~6か月分。報酬入金までの立て替えに備える |
特に重要なのが運転資金です。障害福祉サービスの報酬は、サービス提供月の翌月に請求し、入金は原則その翌月です。開業から約2か月間は報酬収入ゼロのまま人件費と家賃を支払うため、ここで資金が尽きる事業者が少なくありません。利用者数が定員に届くまでの助走期間も含め、余裕を持った資金計画が必要です。
開業費用を直接補助する全国共通の助成金は、基本的にありません。自治体独自の補助制度の有無を確認しつつ、融資の活用が現実的です。日本政策金融公庫のソーシャルビジネス支援資金は、障害福祉など社会的課題に取り組む事業者向けの制度です。融資限度額は7,200万円で、設備資金と運転資金に使えます。
収益構造:基本報酬は平均工賃月額で決まる
結論:B型の収入の柱は、利用者の利用日数に応じた基本報酬です。基本報酬は「前年度の平均工賃月額」が高いほど単位数が上がる仕組みのため、工賃実績がそのまま経営力に直結します。
現行の報酬体系は令和6年度(2024年度)改定が土台です。ただしB型では、令和6年度の算定方法見直しで想定以上に高い区分の事業所が増えました。これを受けて令和8年6月、基本報酬区分を細分化する見直しが施行されています(厚生労働省:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について)。平均工賃月額4万8千円以上の上位区分が新設され、区分の刻みも細かくなりました。適用対象となる事業所の要件も定められています(基本報酬区分の見直しについて(厚生労働省資料))。
単位数の水準感も押さえましょう。定員20人以下・7.5対1配置(サービス費(Ⅰ))の場合、見直し後の告示では平均工賃月額4万8千円以上で1日746単位です。1万円未満では526単位まで下がります(令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について)。1単位はおおむね10円(地域区分により割増)です。同じ利用者数でも、工賃実績によって収入に2割前後の差がつく構造だと分かります。なお、開業初年度は工賃実績がないため、区分確定までの取り扱いは指定権者に確認してください。
単純化した月商イメージを試算します。1日の利用者15人、1人600単位、1単位10円なら1日9万円です。月22日開所で約198万円が基本報酬となり、ここに加算が上乗せされます。人件費・家賃・生産活動の経費を引いた残りが利益です。定員に対する利用率が低いと固定費を回収できないため、開業初期は利用者確保が最大の経営課題になります。
主要な加算には次のようなものがあります。体制届を出して初めて算定できるため、開業時にまとめて確認してください。
- 目標工賃達成指導員配置加算:工賃向上を担う専任職員の配置を評価
- 就労移行支援体制加算:一般就労への移行・定着の実績を評価
- ピアサポート実施加算:障害当事者の視点を生かした支援体制を評価
- 食事提供体制加算・送迎加算:食事や送迎の提供体制を評価
なお、平均工賃によらず利用者の生産活動等への参加を一律に評価する報酬体系(サービス費(Ⅲ)・(Ⅳ))を選ぶ道もあります。報酬改定は3年ごとが基本サイクルで、次回の全面改定は令和9年度(2027年度)の予定です。開業後も一次情報の定期チェックを欠かさないでください。
工賃向上と作業(生産活動)の設計
結論:事業計画の中心に「どうやって工賃を生むか」を置いてください。基準省令は、生産活動の収入から必要経費を差し引いた額に相当する金額を工賃として支払うこと、平均工賃を月額3,000円以上とすることを定めています。工賃の原資は給付費ではなく生産活動の稼ぎです。作業設計が甘いと、工賃も報酬区分も上がりません。
全国のB型の平均工賃月額は、令和6年度実績で24,141円です(令和6年度工賃実績・厚生労働省)。前年度の22,649円から伸びており、工賃向上の流れが続いています。年度ごとの推移は厚生労働省の平均工賃実績ページで確認できます。
作業設計のポイントは4つです。
- 単価の低い軽作業だけに頼らず、施設外就労・自主製品・請負作業など複数の収入源を組み合わせる
- 利用者の障害特性に合わせて工程を分解し、無理なく続けられる作業にする
- 地元企業からの受注や農福連携など、地域の需要と結びつけて安定した仕事量を確保する
- 工賃向上計画を作成し、目標工賃達成指導員配置加算の活用も検討する
平均工賃が上がれば利用者の生活が安定し、報酬区分も上がります。利用者・事業所の双方に利益がある投資として、開業時から作業開拓の担当と時間を確保してください。
開業後の国保連請求体制:初月からつまずきやすい
結論:請求体制は開業前に決めておいてください。B型の収入のほぼすべては、国保連への給付費請求で得られます。請求はサービス提供月の翌月1日~10日に行い、請求データとサービス提供実績記録票の整合が求められます。
初月は特にトラブルが起きやすい工程です。受給者証情報の入力ミス、加算の体制届の漏れ、利用者負担上限額管理の調整不足が典型例です。返戻(差し戻し)になると、入金がさらに1か月以上遅れます。運転資金が薄い開業直後には大きな打撃です。請求の流れと注意点は就労継続支援A型・B型の請求の解説で確認できます。
体制の選択肢は3つあります。
- 管理者やサビ管が請求ソフトを使って兼務する:費用は小さいが、属人化と返戻リスクが大きい
- 事務職員を雇用する:安定するが、開業初期には人件費が重い
- 請求代行へ外部委託する:初月から専門ノウハウで処理でき、支援業務に集中できる
どれを選ぶにしても、実績記録の日々の入力・保管ルールだけは開業初日から運用してください。月末にまとめて記録を起こすやり方は、返戻と実地指導の指摘の温床になります。指定日から初回請求・初回入金までの具体的なTODOは開業後はじめての国保連請求チェックリストにまとめています。
よくある質問
個人事業主のままB型を開業できますか?
できません。指定を受けるには法人格が必要です。株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人などが選ばれています。定款の事業目的には「障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業」の記載が必要です。
開業する本人に資格は必要ですか?
経営者自身への資格要件はありません。ただし、サビ管をはじめ基準上の職種を確保できなければ指定は受けられません。自分が要件を満たして兼務するのか、採用するのかを最初に決めてください。
開業資金に使える助成金はありますか?
開設費そのものを補助する全国共通の助成金は、基本的にありません。自治体独自の補助、日本政策金融公庫などの融資、職員雇用に関する助成金の組み合わせで資金計画を立てるのが現実的です。
定員20人ぶんの利用者を最初から集める必要がありますか?
初日から20人が必要なわけではありません。ただし利用率の低い期間が長引くほど赤字が積み上がります。開業前から相談支援事業所・特別支援学校・就労選択支援事業所に周知してください。見学や体験利用を受け入れる態勢があると、立ち上がりが早くなります。
B型開業の実務を支えるサービス
開業直後は、利用者支援と生産活動の立ち上げだけで手一杯になります。収入の生命線である国保連請求は、障害福祉専門の請求代行WITH福祉に任せる選択肢があります。実績記録票をFAXで送るだけで、請求事務の負担を約90%削減できます。毎月約18,000件の請求処理と、約1,000事業所の支援実績があります。請求担当を雇う前の固定費対策としても有効です。
指定申請の書類作成や自治体との協議に不安がある場合は、指定申請の専門家への代行依頼も検討してください。書類不備による差し戻しと開業遅れを防げます。
開業の関門となるサビ管の採用状況や求人相場の把握には、e介護転職のサービス管理責任者求人一覧が参考になります。
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