この記事は、児童発達支援(未就学の障害児を対象にした通所支援。以下、児発)で新規参入を検討する起業家や法人の新規事業担当者に向けて書いています。放課後等デイサービス(放デイ)との同時開設(多機能型)を考えている方も対象です。
結論から言うと、児発の開業は「法人格の取得→人員・物件の確保→指定権者(都道府県・政令市など)の指定」の順で進みます。成否を分けるのは、児童発達支援管理責任者(児発管)を申請前に確保できるかどうかです。さらに2026年(令和8年)6月以降の新規指定には、基本報酬を所定単位数の98.8%に調整する特例が入りました。
本記事では、サービス像、指定基準、児発管の確保、多機能型、資金と収支、指定申請、国保連請求の順に解説します。数値と要件はこども家庭庁・厚生労働省・e-Gov法令検索などの一次情報で確認しました。
記事でわかること
児童発達支援とは:参入者目線で見たサービス像
未就学児を対象にした療育の入口
児発は、児童福祉法に基づく障害児通所支援のひとつです。就学前の障害児(受給者証を持つ子ども)に、日常生活の基本動作や集団生活への適応に向けた支援を行います。障害者手帳がなくても市町村が必要と認めれば受給者証が交付されるため、「発達が気になる」段階の子どもも対象です。
事業所の形態は「児童発達支援センター」と「センター以外の事業所」の2種類です。新規参入で一般的な後者を前提に解説します。
市場規模と総量規制
こども家庭庁の資料によると、令和6年3月の国保連実績で児発の事業所数は12,785か所、一月平均の利用実人数は195,814人です。放デイ(21,411か所・345,741人)の約6割の規模で、平成24年度からの伸びも児発5.7倍に対し放デイ11.1倍です。
ただし児発も、児童福祉法第21条の5の15第5項に基づく「総量規制」の対象です。障害児福祉計画の見込量に達している地域では、都道府県が指定をしないことができます。
物件契約の前に指定の見込みを確認してください。方法は障害福祉の総量規制と確認方法で解説しています。
放デイとの違い(経営目線の早見表)
児発と放デイは同じ省令で規定され、人員・設備の考え方はほぼ共通です。違いは対象年齢・利用時間帯・基本報酬の3点です(比較は放デイと児童発達支援の違い)。
| 項目 | 児童発達支援 | 放課後等デイサービス |
|---|---|---|
| 対象 | 未就学の障害児 | 就学中の障害児(小学生~高校生) |
| 主な利用時間帯 | 平日の日中 | 放課後・学校休業日 |
| 基本報酬(定員10人以下・区分2) | 928単位/日 | 609単位/日(授業終了後) |
| 令和8年6月以降の新規指定の特例 | 所定単位数の98.8% | 所定単位数の98.2% |
児発は日中に支援するため支援時間を長く設定しやすく、基本報酬も高めです。一方で保護者の送迎が前提になりやすく、利用頻度は放デイより低めです。多機能型が選ばれる理由はここにあります。
児童発達支援の指定基準:人員・設備・定員
人員基準(センター以外の事業所)
根拠は「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第15号。以下、指定基準)第5条です。
児童指導員または保育士は、障害児が10人までは2人以上、10人を超えると5人ごとに1人を加えます。うち1人以上は常勤です。
児発管は1人以上で、専任かつ常勤が求められます。
| 職種 | 配置数 | 常勤・専任の要件 |
|---|---|---|
| 管理者 | 1人 | 支障がなければ兼務可(自治体差あり) |
| 児童発達支援管理責任者 | 1人以上 | 専任かつ常勤 |
| 児童指導員または保育士 | 10人まで2人以上。10人超は5人ごとに1人追加 | うち1人以上は常勤 |
| 機能訓練担当職員等 | 機能訓練を行う場合に配置 | 加算要件に応じて配置 |
設備基準と定員
指定基準第9条は「発達支援室のほか、指定児童発達支援の提供に必要な設備及び備品等」を求めています。令和6年度の改正で「指導訓練室」は「発達支援室」に名称が変わりました。
省令はセンター以外の事業所の面積を定めていません。指定権者によっては、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第62条のセンターの面積(発達支援室は児童1人につき2.47平方メートル以上)を目安として求めます。相談室・事務室・トイレも多くの自治体が求めます。
利用定員は指定基準第11条により10人以上が原則で、主として重症心身障害児を受け入れる場合に限り5人以上とできます。定員10人なら発達支援室は25平方メートル前後が目安ですが、面積や静養スペースの扱いは自治体差があるため指定権者の手引きで確認してください。
物件で見落としやすい法令
建築基準法上の用途は「児童福祉施設等」に当たり、床面積が200平方メートルを超えるテナントは用途変更の確認申請が必要です。消防法上の自動火災報知設備や消火器、避難経路の確保も求められます。
未就学児は避難に介助が必要で、2階以上の物件は消防署との協議が厳しくなりがちです。契約前に建築士と消防署へ相談してください。
児発管の確保が最大の関門
児発管の要件と研修の流れ
児発管は個別支援計画の作成とモニタリングを担う責任者で、不在では指定を受けられません。要件は「実務経験」と「研修修了」の両方です。
実務経験の型は主に3つです。相談支援業務または保育士など有資格者の直接支援業務なら通算5年以上、資格のない直接支援業務なら8年以上です。医師や看護師などの国家資格に基づく業務は5年以上です。いずれも高齢者への支援を除いた期間、つまり障害児者や児童への支援が3年以上必要です。
研修は「基礎研修→OJT2年以上→実践研修→5年ごとの更新研修」の流れです。令和5年6月30日の国通知により、一定の条件でOJTは6か月以上に短縮できます。条件は、基礎研修の受講開始時に実務経験要件を満たし、配置済みの児発管の下で個別支援計画の原案作成を10回以上行うことです。
この特例を使うには、業務開始から10日以内に指定権者へ届け出る必要があり、さかのぼりは認められません。要件の詳細とサビ管(サービス管理責任者)との違いは児発管とサビ管の違いで整理しています。
採用の難しさと現実的な確保策
児発管は研修の定員が限られ、実践研修まで修了した人材は放デイ・児発の双方で取り合いになっています。新規開設では、開業予定の3~6か月前に内定を得ることを最初の目標にしてください。確保策は、求人媒体での早期募集、自社の基礎研修修了者をOJT特例で育てること、多機能型で児発管を共通化することの3つです。
児発管がいない場合の減算リスク
児発管が退職して欠員になると「児童発達支援管理責任者欠如減算」の対象です。欠如が生じた月の翌々月から減算が始まり、減算適用月から5か月未満は所定単位数の70%、連続して5か月以上になると50%まで下がります。月200万円の基本報酬なら、月60万円から100万円が消える計算です。
やむを得ない事由があればみなし配置の経過措置もありますが、届出と期限管理が必要です。詳しくは児発管がいない・退職した場合の対応を参照してください。
多機能型(児発+放デイ)で開設するメリットと注意点
定員と人員の特例
多機能型事業所とは、児発と放デイなど複数の通所支援を一体的に行う事業所です。指定基準第82条により、利用定員は全事業を通じて10人以上でよく、児発5人・放デイ5人でも指定を受けられます。従業者も第80条により多機能型事業所として読み替えられ、児発管は事業所全体で1人以上を置けば足ります。
設備も第81条により、支障がない範囲で兼用できます。1つの発達支援室を午前は児発、放課後は放デイで使う運用が典型です。
メリット:稼働時間帯の分散と児発管の共通化
多機能型にすると、同じ物件と職員で日中と放課後の両方に報酬が発生し、固定費を使い切れます。児発管を1人で済ませられる点も、採用難の中では大きな利点です。
注意点:定員の配分と減算の連動
注意点は3つです。1つ目は定員の配分で、児発と放デイの内訳は届け出た数で管理され、超過は減算対象になります。2つ目は、児発管が欠けると両方に欠如減算がかかることです。
3つ目は、支援プログラムや自己評価の公表を児発・放デイそれぞれで行う点です。放デイ側の手続きは放課後等デイサービスの開業ガイドと放デイの人員配置基準と加算を参照してください。
令和6年度・令和8年度改定で変わった児発の運営ルール
5領域の総合的支援と支援プログラムの公表義務
令和6年度改定で、児発は5領域をすべて含めた総合的な支援が基本になりました。5領域とは「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」です。指定基準第26条の2は、事業所ごとに支援プログラムを策定し、インターネットなどで公表することを義務づけています。こども家庭庁の手引きは、公表方法と内容の都道府県への届出も求めています。
未公表の場合は「支援プログラム未公表減算」として、令和7年4月1日から所定単位数の85%算定になります。新規開設では指定と同時に公表と届出を済ませます。5領域の考え方は放デイのガイドライン5領域で解説しています。
基本報酬の時間区分と主な加算
基本報酬は個別支援計画に定めた支援時間で3区分です。センター以外・定員10人以下の児発では、区分1(30分以上1時間30分以下)が901単位、区分2(1時間30分超3時間以下)が928単位です。
区分3(3時間超5時間以下)は980単位になります。1単位は原則10円で、地域区分により上乗せがあります。
主な加算は、専門的支援体制加算(49~123単位/日)と専門的支援実施加算(150単位/回・原則月4回、利用日数等により最大6回)です。児童指導員等加配加算(常勤専従・経験5年以上で75~187単位/日など)も上乗せになります。全体像は放デイ・児発の加算一覧にまとめています。
令和8年6月施行:新規指定の報酬特例と処遇改善加算の拡充
令和8年度の臨時的な報酬改定で、令和8年6月1日以降に新規指定を受けた児発の基本報酬は所定単位数の1000分の988(98.8%)になりました。放デイは1000分の982(98.2%)です。
次期報酬改定までの臨時的な措置で、既存事業所には及びません。サービスが不足する地域や重度の障害児を受け入れる事業所などには、従前の単価を適用する配慮措置があります。対象の線引きは告示で確認してください。
同じく令和8年6月から処遇改善加算が拡充されました。加算率と要件はサービス種別で異なります。詳細は令和8年6月施行の報酬改定と処遇改善加算の解説を参照してください。
開業資金と収支モデル
開業資金の内訳(一例)
児発の開業資金は物件の規模と職員数で大きく変わります。定員10人のテナント開設では、法人設立費、保証金と内装工事費、消防設備、送迎車両、備品、指定申請の外注費に、初回入金までの人件費と家賃が加わります。
合計で1,000万円から2,000万円台になるケースが多く、内装や車両の有無で幅が出ます。費目別の考え方は障害福祉事業の開業資金と補助金・融資で解説しています。
融資では、日本政策金融公庫のソーシャルビジネス支援資金が使われています。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(据置5年以内)です。
金利や条件は変動するため、申込時点で確認してください。開設費を賄う全国共通の補助金は原則ありません。
月次収支の試算例
次の表は、定員10人・区分2(928単位)・1単位10円・営業日22日・加算なしで、新規指定の特例(98.8%)を反映して売上を試算したものです。実際の売上は加算の取得状況と地域区分で変わります。
| 稼働率 | 1日平均利用者 | 月間延べ利用 | 基本報酬の売上(試算) |
|---|---|---|---|
| 50% | 5人 | 110人 | 約101万円 |
| 70% | 7人 | 154人 | 約141万円 |
| 90% | 9人 | 198人 | 約181万円 |
支出は、児発管・管理者・保育士または児童指導員2人以上の人件費が最大です。未就学児は毎日利用するとは限らず、定員を埋めるには登録児童を定員の2~3倍確保するのが一般的です。稼働率50%前後が半年続いても耐えられる運転資金が要ります。
撤退リスクと失敗パターン
児発で撤退に至る典型は3つです。1つ目は児発管の退職で欠如減算が続き、資金が尽きるケース。2つ目は保育所・幼稚園や市町村との連携が弱く、登録児童が集まらないケースです。3つ目は多機能型で放デイ側に人員を寄せすぎ、児発の単価が落ちるケースです。
指定申請の流れとスケジュール
法人格の取得から指定までの標準スケジュール
児発の指定は法人格が前提です。定款の事業目的に「児童福祉法に基づく障害児通所支援事業」を入れておきます。法人格の選び方は障害福祉事業の法人格の選び方を参照してください。
申請の受付時期は指定権者ごとに異なります。たとえばさいたま市は事業開始の2か月前からの事前相談を求め、毎月10日締切で翌月1日付の指定です。指定日を毎月1日とする運用が多いものの、自治体差があるため必ず手引きで確認してください。
| 時期の目安 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 開業6~8か月前 | 事前相談、総量規制の確認、児発管の確保開始 | 物件契約前に指定の見込みを確認 |
| 開業4~6か月前 | 法人設立、物件の内定、建築・消防の確認 | 用途変更・消防設備の要否を確定 |
| 開業3~4か月前 | 事前協議、市町村意見書、内装工事、職員採用 | 児発管の実務経験証明書を取り寄せ |
| 開業2か月前 | 指定申請書の提出、運営規程・重要事項説明書の整備 | 締切日は自治体で異なる |
| 開業1か月前~当月 | 現地確認、指定通知、電子請求の準備、支援プログラム公表 | 指定日は原則毎月1日 |
必要書類と申請代行の使いどころ
主な書類は、指定申請書、市町村意見書、体制届、運営規程、重要事項説明書、児発管の実務経験証明書と研修修了証、平面図です。一覧は指定申請 完全ガイドにまとめています。本業の準備に集中したいなら、行政書士などへの委託も選択肢です。
開業後の国保連請求:初月で失敗しないために
児発の報酬は、国民健康保険団体連合会(国保連)へ電子請求します。サービス提供月の翌月10日までに請求し、支払いはその翌月です。開業月の売上が入金されるのは早くても2か月後で、この遅れが運転資金の必要額を決めます。
請求には、電子請求受付システムの利用申請、受給者証の登録、実績記録票の保護者確認が必要です。児発は支援時間区分の誤りや受給者証の更新漏れで返戻(差し戻し)が起きがちです。
初回請求の準備は開業後はじめての国保連請求チェックリストで確認できます。児発管が請求まで抱えると支援の質に響きます。内製か外注かを開業時点で決めておいてください。
よくある質問
児童発達支援の開業に資格は必要ですか?
開設者本人に資格は不要です。ただし事業所には児発管1人以上と、児童指導員または保育士2人以上(定員10人の場合)が必要です。児発管は実務経験と研修修了の両方が要り、経営者が自分で兼ねるのは現実的ではありません。
定員10人未満で開業できますか?
原則できません。指定基準第11条により利用定員は10人以上です。
例外は主として重症心身障害児を受け入れる事業所で、5人以上とできます。多機能型なら児発と放デイの合計で10人以上あればよく、児発5人・放デイ5人も可能です。
児発管が見つからない場合、先に指定だけ取れますか?
取れません。児発管の配置は指定の要件で、申請時に実務経験証明書と研修修了証を提出します。
基礎研修のみ修了した職員のみなし配置は、既存事業所で欠員が出た場合の経過措置です。新規指定では実践研修修了者の確保が前提です。
令和8年6月以降の新規指定はどのくらい不利になりますか?
基本報酬が所定単位数の98.8%になるため、月150万円の基本報酬なら約1.8万円の減額です。次期報酬改定まで続き、既存事業所には適用されない点を踏まえて収支計画に反映してください。
まとめ:児発の開業は「児発管の確保」と「指定の見込み」から逆算する
児発の開業は、法人格の取得、人員・設備の準備、指定権者への申請の順で進みます。最大の関門は児発管の確保で、申請の3~6か月前には内定を得ておく必要があります。定員や人員配置の細部は、自治体の手引きで確認してください。
2026年時点では、支援プログラムの公表義務(未公表は85%算定)と、令和8年6月以降の新規指定の報酬特例(98.8%)を事業計画に組み込みます。多機能型は児発管の共通化と稼働時間帯の分散という利点があり、採用難の中で有力な選択肢です。入金が2か月遅れる構造も踏まえ、請求体制を開業前に整えてください。
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参考(一次情報)
- 児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準|e-Gov法令検索
- 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(第62条・発達支援室の面積)|e-Gov法令検索
- 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(障害児関係)|こども家庭庁
- 児童発達支援等における支援プログラムの作成及び公表の手引き|こども家庭庁
- 指定通所支援に要する費用の額の算定基準の実施上の留意事項(人員基準欠如減算ほか)|こども家庭庁
- 令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
- こども施策及び障害児支援施策の最近の動向について|こども家庭庁
- サービス管理責任者等基礎研修修了者のOJTの取扱いについて|群馬県
- 事業者指定の手続(障害児通所支援)|さいたま市
- ソーシャルビジネス支援資金|日本政策金融公庫
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