訪問介護の同一建物減算は廃止へ?2027年度改定の新報酬区分案と事業所が今から備えること

本記事は2026年10月26日時点の公開情報に基づいています。2027年度介護報酬改定の見直し案は検討段階で、内容は今後変わる可能性があります。

この記事は、訪問介護事業所の経営者・管理者・サービス提供責任者の方向けです。とくに、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームに併設・隣接する事業所と、戸建ての利用者を車で回る事業所の両方に関係します。同一建物減算は2027年度改定でどう変わりそうか。自社の報酬はどちらに動きそうか。今から何を準備すればよいか。この3つに答えます。

まず結論:経営者が押さえる3点

  • 厚生労働省は、同一建物減算に代えて「移動コストや提供実態を反映した報酬区分」に見直す案を示しました。2026年10月19日の第271回社会保障審議会介護給付費分科会です。事業所の規模、1回あたりの移動コストの低さ、サービス提供回数の多さに着目するとしています。
  • 根拠になったのは「二極化」のデータです。徒歩で訪問する利用者が95%以上の事業所は、利用者1人あたりの月の訪問回数が中央値66回でした。徒歩が5%未満の事業所は9回で、約7倍の差があります。
  • まだ「検討する」段階で、新しい区分の単位数や線引きは示されていません。委員の意見も割れました。例年の流れどおりなら、年内の審議報告で方向性がまとまり、単位数は2027年1~2月ごろの諮問・答申で決まり、2027年4月に施行される見込みです。

現行の同一建物減算をおさらい|10%・15%・12%の4区分

同一建物減算は、事業所と同じ建物や近くの集合住宅に住む利用者へ訪問するとき、所定単位数を減らす仕組みです。移動の手間が少ない分を報酬に反映する、という考え方です。訪問介護の区分は次のとおりです。

対象となる利用者 減算率
事業所と同一敷地内・隣接する敷地内の建物(同一敷地内建物等)に住む利用者 10%
同一敷地内建物等に住む利用者が、1か月50人以上の場合 15%
上記以外の建物で、その建物に住む利用者が1か月20人以上の場合 10%
正当な理由なく、前6か月の提供総数のうち同一敷地内建物等(50人以上の場合を除く)の利用者への提供が90%以上の事業所 12%(2024年度改定で新設)

区分支給限度基準額の管理では、減算前の単位数を使います。サービスコードの選び方や給付管理票との突合は、訪問介護の請求|サービスコードの選び方・2人派遣・加算と返戻対策で詳しく解説しています。

減算の対象になる建物は、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、一般の集合住宅などです。住宅型有料老人ホームでは登録制の導入も進められており、集合住宅への訪問は制度面で見直しが続いています。登録制の中身は有料老人ホームの「登録制」とはで解説しています。

見直し案の中身|「減算」から「報酬区分」へ

資料1(訪問介護)の論点③「住まいの形態に合わせたサービス提供に係る報酬の在り方」で、厚生労働省は次の現状認識を示しました。

  • 集合住宅等への訪問は、移動等のコストが少なく効率的な場合がある
  • 一方で、地域資源の状況によっては移動距離等を要し、非効率になることがある
  • 戸建てと集合住宅のサービス提供実態の違いを踏まえ、報酬体系の在り方を検討する必要がある

そのうえで対応案は、移動等のコストを踏まえた適切な評価を行う観点から、次の3つに着目するとしました。

  1. 事業所の規模
  2. 1回あたりの移動コストの低さ
  3. サービス提供回数の多さ

この3点をもとに、現行の減算に代えて、移動コストやサービス提供実態をより反映した報酬区分へ見直すことを検討する、という内容です。今の仕組みは「どの建物に住んでいるか」で利用者ごとに単位数を減らします。見直し案は、事業所全体の提供の形(規模・移動・回数)で区分を分ける方向です。

ただし、どの数値で線を引くのか、区分ごとの単位数はいくらか、といった具体案はまだ出ていません。「減算がなくなるから報酬が上がる」とは限らない点に注意が必要です。

データで見る二極化|徒歩の事業所と車の事業所

見直し案の根拠として、令和8年度老人保健健康増進等事業「訪問介護サービスの提供形態に応じた評価のあり方に関する調査研究事業」の速報値(令和8年7月サービス提供分)が示されました。徒歩で訪問する利用者の割合で事業所を分けると、提供の形がはっきり2つに分かれます。

項目(中央値) 徒歩の利用者が95%以上の事業所 徒歩の利用者が5%未満の事業所
利用者1人あたり1か月の訪問回数 66.0回 9.0回
利用者1人あたり1か月の訪問日数 31.0日 9.0日
利用者1人あたり1か月の訪問時間 1,350分 480分
利用者1人あたり1か月の請求単位数 15,027単位 3,339単位
片道の移動時間 1.0分 10.0分(徒歩割合の少ない事業所)
片道の移動距離 0.1km 3.1km(徒歩割合の少ない事業所)

資料のポイントは次のとおりです。

  • 徒歩の利用者が5%未満の事業所が69.5%、95%以上の事業所が19.1%で、この2つで全体の約9割を占める
  • 徒歩が95%以上の事業所の利用者は、有料老人ホーム58.9%、サービス付き高齢者向け住宅29.5%。同一・隣接敷地内に住む割合は83.9%
  • 請求単位数の中央値は約4.5倍の差(15,027単位と3,339単位)
  • 徒歩が95%以上の事業所の利用者では、夜間・早朝加算の算定が47.8%、深夜加算が24.1%

減算の有無と経営の関係も示されました。令和6年度決算の収支差率(介護事業経営調査委員会の資料)は、訪問介護全体で9.6%です。10%減算ありの事業所は11.5%、減算なしは10.0%、12%減算ありは7.7%でした。回答数は100前後と少なく、資料は因果関係までは示していません。ただ、10%減算を受けていても収支差率が全体を上回る事業所がある点は、見直し案の背景の一つとみられます。

分科会での賛否|「質で評価すべき」との反対も

移動コストを報酬に反映する方向には、多くの委員が必要性を認めました。一方で、集合住宅の利用者の評価を下げることには慎重な意見も出ています。報道をもとに主な意見を整理します。

立場 主な意見
賛成・前向き 移動負担や地域特性を報酬に反映すべき(全国老人保健施設協会)。中山間地域などでの移動負担は大きい(全国健康保険協会)。頻回訪問はケアプラン上の必要性を検証すべき(健康保険組合連合会)
慎重・反対 住まいの形態で同じサービスの単価が変わるのは望ましくない。質で評価すべき(日本医師会)。集合住宅にも専門的支援が必要な利用者がいる。基本報酬の引き上げを(日本介護福祉士会)。入居者が退去を迫られないよう配慮と実態調査を(認知症の人と家族の会)
折衷案 サービスへの評価と移動時間への評価を分けて考えてはどうか(分科会長代理)。集合住宅というだけで一律に評価を下げるべきではない(日本慢性期医療協会)

中山間地域の戸別訪問型の事業所については、別の論点②で、移動コストへの対応を含めて経営の予見性を高める報酬設計をどう考えるかが問われました。対応案は示されておらず、別途、分科会で説明・議論を行う予定とされています。中山間地域の人員基準の特例は、中山間・人口減少地域の「特定地域サービス」で整理しています。

同じ資料で示された訪問介護のほかの見直し案

  • 初回加算:サービス提供責任者が初回のサービスに同行する場合だけでなく、新たに訪問介護計画を作るために利用者宅でアセスメントした場合も評価する案(初回加算の算定率は52.0%)
  • サービス提供責任者のオンライン確認:訪問介護員の訪問中に、サービス提供責任者がオンラインで利用者と面談・状況確認した場合の評価を検討する案
  • 地域での協働:同一法人以外の定期巡回・随時対応型訪問介護看護と連携して、日中の随時訪問を行う場合の評価を検討する案

分科会では、サービス提供責任者の負担も話題になりました。委員の一人が、管理者を兼ねるサービス提供責任者の約75%が所定労働時間内に業務を終えられないという日本介護クラフトユニオンの調査を紹介しています(報道による)。サービス提供責任者の役割はサービス提供責任者とはもあわせてご覧ください。

自社はどちらの型か|3つの数字で確かめる

見直し案は、事業所の規模・移動コスト・提供回数に着目しています。具体的な線引きはまだですが、次の3つの数字を今のうちに出しておくと、案が出たときにすぐ当てはめられます。

確かめる数字 出し方 見直し案との関係
徒歩(同一・隣接敷地内)で訪問する利用者の割合 利用者ごとに主な訪問手段と住まいを一覧にする 資料の区分(95%以上/5%未満)に近いかどうか
利用者1人あたり1か月の訪問回数・請求単位数 直近3か月の実績記録票・請求データから算出 中央値66回・15,027単位と9回・3,339単位のどちらに近いか
1回あたりの移動時間・移動距離 訪問ルートの記録や運転日報から平均を出す 「1回あたりの移動コストの低さ」の評価

集合住宅に併設・隣接する事業所は、減算がなくなっても、新しい区分で単位数が下がる可能性があります。同一建物の利用者が多い場合は、2027年度の収入を「現行どおり」「1割減」「2割減」の3通りで試算しておくと、職員の配置や処遇改善の計画を立てやすくなります。

戸建ての利用者を車で回る事業所は、移動コストが評価される方向で、現時点では追い風になりうる案です。ただし、移動の実態を示す記録が求められる可能性があります。移動時間や距離を記録する仕組みを整えておくと安心です。

今からやること|審議報告までの4ステップ

  1. 利用者の住まいと訪問手段を一覧にする:同一敷地内建物等、その他の集合住宅、戸建てに分け、徒歩・自転車・車の別を記録します。
  2. 3つの数字を出す:上の表のとおり、徒歩の割合、1人あたりの訪問回数・単位数、1回あたりの移動時間を出します。
  3. 収入の感度を試算する:同一建物の利用者分の単位数が1割・2割動いた場合の月の収入差を出しておきます。
  4. 年末の審議報告を確認する:区分の線引きと単位数の方向が見えたら、試算を差し替えます。単位数が示される答申(例年どおりなら2027年1~2月ごろ)の後に、請求ソフトのマスタ更新と重要事項説明書の見直しを行います。

改定全体の流れは【2027年度】介護報酬改定はどうなる?で解説しています。訪問介護の経営環境が厳しい背景は、介護倒産が過去最多176件(2025年)のデータも参考になります。

よくある質問(FAQ)

同一建物減算は2027年4月に廃止されるのですか?

決まっていません。第271回分科会で示されたのは、減算に代えて報酬区分を見直すことを「検討する」という案です。例年の流れどおりなら、年内の審議報告で方向性がまとまり、単位数を含む中身は2027年1~2月ごろの諮問・答申で決まる見込みです。それまでは現行の10%・15%・12%の減算で請求します。

減算がなくなれば、集合住宅への訪問の報酬は上がりますか?

そうとは限りません。見直し案は「1回あたりの移動コストの低さ」と「提供回数の多さ」に着目するとしています。移動が少なく回数の多い事業所には、別の形で低い単位数が設定される可能性もあります。具体的な単位数が出るまでは、下がる場合も含めて試算しておくのが安全です。

12%減算を受けている事業所はどうなりますか?

12%減算も含め、現行の減算全体を報酬区分に置き換える方向で検討されています。12%減算ありの事業所の収支差率は7.7%で、訪問介護全体の9.6%を下回っていました。新しい区分でどう扱われるかは、今後の資料で確認が必要です。

訪問看護や訪問入浴の同一建物減算も変わりますか?

今回の見直し案は、資料1(訪問介護)の論点として示されたものです。ほかの訪問系サービスの同一建物減算の扱いは、それぞれのサービスの資料と今後の議論で確認が必要です。なお、居宅介護支援の同一建物減算を介護予防支援にも設ける案は、同じ日の資料6(居宅介護支援)で示されています。

まとめ

2027年度改定に向けて、訪問介護の同一建物減算(10%・15%・12%)に代えて、事業所の規模・1回あたりの移動コスト・提供回数を反映した報酬区分に見直す案が示されました。徒歩で回る事業所と車で回る事業所では、利用者1人あたりの訪問回数が中央値66回と9回で、約7倍の差があります。

ただし、線引きと単位数はまだ示されておらず、委員の意見も割れています。今できるのは、利用者の住まいと訪問手段の一覧づくり、3つの数字の把握、収入の感度試算です。年末の審議報告で方向が見えたら、試算を差し替えて備えましょう。

報酬の見直しが続く訪問介護では、経営の土台は人材です。移動の少ない集合住宅型でも、戸建てを回る地域型でも、ヘルパーとサービス提供責任者の確保が収支を左右します。人材採用にお困りの事業所様は、e介護転職への求人掲載をご検討ください。介護業界専門の求人サイトで、地域の求職者に求人を届けられます。

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出典(一次資料)