中山間地・人口減少地域の「特定地域サービス」とは|人員配置基準緩和と月額包括報酬を解説

2027年4月から、中山間地・人口減少地域の介護事業所を対象に「特定地域サービス」が始まる予定です。人員配置基準(職員の最低配置人数のルール)の緩和や、月単位の包括報酬を選べる特例的な仕組みです。2026年7月23日の第261回社会保障審議会・介護給付費分科会で、制度設計の議論が始まりました。

本記事では、分科会の資料と議論をもとに、制度の3つの柱を整理します。あわせて、施設長・管理者が今から準備できることも解説します。まだ議論が始まった段階のため、内容は今後変わる可能性があります。その点も含めて確認していきましょう。

特定地域サービスとは|2027年4月開始予定の特例的な仕組み

特定地域サービスとは、中山間地・人口減少地域でも介護サービスを維持するための特例的な仕組みです。人員配置基準の緩和などを、条件付きで可能にする内容が検討されています。

なぜ今、制度化されるのか

中山間地・人口減少地域では、支え手となる現役世代が急減しています。介護人材の確保が極めて難しくなる一方、85歳以上の高齢者の比率は高まります。このままでは、サービスの提供体制そのものを維持できない地域が出かねません。現行の基準どおりの運営が難しい地域でも事業を続けられるよう、特例的な枠組みが必要とされています。

根拠は2026年6月成立の改正法

2026年6月に「社会福祉法等の一部を改正する法律」が成立しました。この法律に基づき、2027年4月から特例的な仕組みを実施できるようになる予定です。具体的な基準や報酬のあり方は、介護給付費分科会で今後詰められていく見込みです。制度の柱は次の3つです。

内容
(1)人員配置基準の柔軟化 やむを得ない場合に、条件付きで基準の緩和等を可能にする
(2)包括的な評価の選択 出来高報酬と月単位の定額報酬を選択可能にする
(3)事業としての実施 市町村が事業者に委託してサービスを提供する

柱(1)人員配置基準の柔軟化|緩和には前提条件がある

人員配置基準の緩和は、無条件では認められない見込みです。都道府県・市町村が人材確保やICT活用などの施策を講じることが前提です。それでもなお、サービス維持のためやむを得ない場合に限り緩和が可能になります。さらに、事業所側には次の3つが要件になる見込みです。

  • 職員の賃金改善に向けた取り組み
  • ICT機器(見守りセンサーや記録ソフトなど)の活用
  • サービス・事業所間の連携

つまり「人が足りないから減らしてよい」という単純な話ではありません。職員の処遇と生産性、地域の連携をセットで求める設計が検討されています。

対象として検討されているサービス

対象サービスは、在宅系から施設系まで幅広く検討されています。

  • 訪問系:訪問介護/訪問入浴介護
  • 通所・短期系:通所介護/短期入所生活介護
  • 施設系:介護老人福祉施設(特養)/介護老人保健施設(老健)/介護医療院/特定施設入居者生活介護
  • その他:福祉用具貸与/居宅介護支援

これらは現時点の検討対象です。対象範囲は今後の議論で変わる可能性があります。

柱(2)月額包括報酬|出来高との選択制を検討

訪問介護などで、報酬の受け取り方を選べる仕組みが検討されています。現行の「1回当たりの出来高報酬」と「月単位の定額報酬(包括報酬)」の選択制です。

中山間地・人口減少地域では、そもそも利用者が少ない状況です。そのため、1回のキャンセルが経営に大きな影響を及ぼします。月単位の包括報酬なら、利用回数に左右されず収入を見通せます。小規模な事業所ほど、経営の安定につながる可能性があります。

委員から出ている懸念と意見

一方で、包括報酬には副作用の懸念も指摘されています。

  • 事業者側が、サービス提供を過少に抑えてしまうおそれ
  • 利用者側が、サービスを過剰に利用してしまうおそれ

そのため委員からは「利用回数に応じた段階的な報酬区分」を求める声が多く出ています。他方で「複雑な報酬区分にすべきではない」との意見もあります。また、移動コストを報酬に組み込むべきという指摘も出ています。どのような区分に落ち着くかは、今後の論点です。

柱(3)保険給付でなく「事業」として実施する仕組み

3つ目の柱は「特定地域居宅サービス等事業」です。介護サービスを保険給付ではなく、市町村の事業として実施する仕組みです。市町村が介護保険財源から事業費(委託費)を事業者に支払い、事業者がサービス提供を受託します。

この仕組みでは、複数の自治体をまたいだ展開も想定されています。訪問介護事業者が通所介護もあわせて実施する形も例示されています。利用者が少ない地域でも、複数のサービスや地域を束ねることで、事業として成り立たせやすくする狙いがあります。

7月23日の分科会で出た主な意見

7月23日の会合では、主に柱(1)と柱(2)についてキックオフ論議(初回の方向性の議論)が行われました。委員からは次のような意見が出ています。

  • 1事業所だけでなく、地域全体で人員配置を考えるべき
  • ICTは人力の完全な代替にならないため、質の検証もセットで行うべき
  • 夜間の緊急対応の観点から、人員配置の緩和は慎重にすべき
  • スタッフの労働時間が増えていないかをチェックする仕組みが必要

いずれも「緩和ありき」ではなく、ケアの質と職員の負担への目配りを求める内容です。自施設での活用を考えるときも、この視点は欠かせません。

今後のスケジュール|まだ確定事項ではない点に注意

実施は2027年4月からの予定です。ただし、制度の細部はまだ確定していません。今回の会合は議論の入口であり、基準や報酬はこれから詰められます。

また、介護報酬の水準は2027年度の予算編成(介護報酬改定率)と密接に関連します。そのため、介護給付費分科会だけでは決められません。年末にかけての予算編成の動きも、あわせて追っていく必要があります。

施設長・管理者が今から準備すべきこと

制度の確定を待つのではなく、要件になる見込みの項目から逆算して準備するのが現実的です。特に次の3点は、人員配置基準緩和の前提条件に直結します。

(1)賃金改善の取り組みを記録に残す

職員の賃金改善に向けた取り組みが、緩和の要件になる見込みです。処遇改善加算の算定状況や、賃金規程の見直し履歴を整理しておきましょう。「何を・いつ・どう改善したか」を書類で示せる状態が理想です。日々の取り組みを記録する習慣が、そのまま制度対応の準備になります。

(2)ICT機器の導入を検討・試行する

ICT機器の活用も要件になる見込みです。見守りセンサーや介護記録ソフトなど、自施設に合う機器の情報収集を始めましょう。補助金の活用も含め、小さく試して効果を確かめる進め方が現実的です。ただし委員の指摘のとおり、ICTは人力の完全な代替にはなりません。導入時は、ケアの質と職員の労働時間の変化もあわせて確認しましょう。

(3)近隣事業所・自治体との連携体制を整理する

サービス・事業所間の連携も要件になる見込みです。近隣事業所との協力関係や、自治体との協議ルートを棚卸ししておきましょう。介護BCP(業務継続計画)で整理した連携先の枠組みは、平時の連携体制づくりにも応用できます。

また、人材確保が難しい地域では、経営環境の変化も速く進みます。介護倒産が過去最多となった2025年の動向と経営の打ち手も、あわせて確認しておくと判断材料になります。

(4)続報を確認するルートを決めておく

制度の細部は、今後の分科会で段階的に固まっていく見込みです。厚生労働省の分科会資料や業界ニュースを、月1回確認する習慣をつけましょう。担当者と確認のタイミングを決めておくと、見落としを防げます。対象地域の要件や報酬水準など、経営判断に関わる情報はこれから出てきます。「知らないうちに決まっていた」という事態を避けることが大切です。

まとめ|議論の行方を追いながら、要件を先取りする

特定地域サービスは、2027年4月開始予定の特例的な仕組みです。柱は「人員配置基準の柔軟化」「月額包括報酬の選択」「事業としての実施」の3つです。人員配置基準の緩和には、賃金改善・ICT活用・事業所間連携が要件になる見込みです。ただし現時点では議論が始まった段階であり、確定事項ではありません。分科会の続報を追いつつ、要件の先取り準備を進めていきましょう。

人員配置基準が緩和されても、人材確保の必要性がなくなるわけではありません。むしろ賃金改善や連携の要件を満たすには、採用力の底上げが土台になります。介護・障害福祉に特化した求人サイト「e介護転職」は、地方の施設の採用活動も支援しています。

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出典:GemMed「中山間地・人口減少地域における『人員配置基準を緩和した介護保険サービス』の報酬設定論議を開始」(2026年7月24日)第261回社会保障審議会介護給付費分科会資料(厚生労働省)