介護倒産が過去最多176件(2025年)|訪問介護が生き残る経営の打ち手

※本記事は2026年6月17日時点の公開情報に基づきます。倒産件数は集計主体・定義により異なります。出典元もあわせてご確認ください。

2025年(暦年)の介護事業者の倒産が、過去最多を更新しました。なかでも訪問介護の苦境が件数を押し上げています。背景には人手不足、物価高、報酬改定といった構造的な要因があり、規模の小さい事業所ほど影響を受けやすい状況です。この記事では、まず数字を出典と集計基準つきで整理し、そのうえで小規模事業所が検討しうる現実的な打ち手を「一例」として紹介します。

まず結論(おさえておきたい3点)
  • 東京商工リサーチ(TSR)調べで、2025年の介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産は176件(前年比2.3%増)と過去最多。とくに訪問介護が91件と突出しています(負債1,000万円以上が対象)。
  • 倒産以外で事業を止めた「休廃業・解散」も653件(TSR調べ)と過去最多。倒産と合わせると、市場からの退出はさらに広がっています。
  • 主因は人手不足・物価高・公定価格(介護報酬)の制約の重なり。資本金500万円未満・従業員10人未満といった小・零細事業者が大半を占めます。対策は急がず、まず自事業所の足元(加算の取得状況など)の点検から検討するのが現実的です。

2025年の倒産は何件だったのか(出典と集計基準)

倒産件数は調べる会社(集計主体)と、その集計基準によって数字が変わります。同じ「介護の倒産」でも、対象とする業種の範囲・負債額の基準・期間が異なるためです。代表的な2社の数字を、基準とあわせて整理します。

東京商工リサーチ(TSR):176件

TSRによると、2025年の「老人福祉・介護事業」の倒産は176件(前年比2.3%増)で、2年連続の過去最多。コロナ禍前の2019年(111件)と比べると約6割増です。集計基準は2000年以降・負債1,000万円以上の倒産。業種別では訪問介護が91件、通所・短期入所が45件、有料老人ホームが16件などとなっています。

帝国データバンク(TDB):139件

一方、TDBの「老人福祉事業者」倒産は139件(前年比0.7%減)。過去最多だった2024年の140件と同水準で、こちらは「高止まり」という表現です。集計基準は2000年以降・負債1,000万円以上・法的整理による倒産。業態別では通所介護(デイサービス)が49件で最多、次いで訪問介護が43件でした。

同じ年の介護倒産でも、TSRは176件、TDBは139件と数字が異なります。これは集計対象(業種区分)や数え方の違いによるものです。 どちらが正しい・誤りという話ではなく、本記事ではそれぞれ「○○調べ」と帰属したうえで、複数の数字を併記しています。1社のデータだけを根拠に断定的に語らない点が大切です。

なぜ訪問介護が突出しているのか

TSR調べでは、訪問介護の倒産は91件(前年比12.3%増)で3年連続の過去最多。倒産以外の「休廃業・解散」(653件・過去最多)でも、訪問介護が465件と全体の7割前後を占めています。理由として、報道や各調査では次のような構造要因が挙げられています。

  • ヘルパーの人手不足:訪問介護はもともと有効求人倍率が高く、担い手の高齢化も進む分野です。TSR調べでは2025年の介護倒産のうち「人手不足」倒産が29件(前年比45.0%増)と最多を更新しました。
  • 運営コストの上昇:ガソリン代をはじめ、訪問にかかる移動・物件・光熱費などの上昇が資金繰りを圧迫しています。
  • 公定価格の制約:介護報酬は公定価格のため、コストや賃金が上がっても事業所の判断で価格に転嫁できません。2024年度改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられた影響を指摘する声もあります。
  • 小規模性:TSR調べでは、倒産した事業者の8割前後が負債1億円未満・従業員10人未満。経営体力の小さい事業所ほど、外部環境の変化を吸収しきれない傾向がうかがえます。

ただし、これらは集計・報道に基づく一般的な傾向であり、個々の事業所の事情はさまざまです。特定の1社の事例を一般化して語ることは避け、あくまで全体の流れとして捉えるのが適切です。

生き残るための経営の打ち手(あくまで一例)

ここで紹介するのは「こうすれば必ず生き残れる」という答えではなく、議論や各種調査で語られている検討材料の一例です。自事業所の状況に合うかどうかは、後述の専門家にも相談しながら判断することをおすすめします。

1. 加算の取りこぼしを点検する

  • 処遇改善加算をフルに取れているか。2024年度に一本化された「介護職員等処遇改善加算」は、区分によって取得できる率が変わります。要件(職場環境等要件など)を満たせていないために上位区分を取り逃していないか、点検する余地があります。
  • 算定している各種加算の要件・記録が現状と合っているかを確認する。実地指導や報酬改定の際に慌てないためにも、棚卸しは有効とされています。

2. ICT・生産性向上で「事務とムダ」を減らす

  • 記録・請求・シフト管理などのICT化で、間接業務の時間を削減する。国や自治体には介護テクノロジー(ICT・介護ロボット)導入の補助制度があり、活用を検討する価値があります。
  • 生産性向上の取り組み自体が、一部の加算要件や評価につながる場合があります。やみくもなコスト削減ではなく、業務の見直しとして取り組む視点が語られています。

3. 協働化・大規模化を視野に入れる

  • 近隣事業所との共同購入・共同研修・人材の融通など、ゆるやかな協働から始める方法。
  • 事業譲渡やグループ化(大規模化)による経営基盤の安定。国の議論でも、協働化・大規模化は持続可能性を高める方向として取り上げられています。ただし統合は条件交渉や手続きが伴うため、専門家の関与が前提になります。

4. 資金繰りと経営数値を「見える化」する

  • 毎月の資金繰り表と、サービス別・加算別の収支の把握。赤字の事業所では、どのサービスがどれだけ収益・費用を生んでいるかが見えていないケースもあるとされます。
  • 介護報酬は入金までに時間差があるため、運転資金の余裕を意識する。早めの資金相談が選択肢を広げます。

「危機」を正しく受け止めるために

倒産・休廃業の件数が過去最多というニュースは強い言葉で語られがちですが、過度に不安を煽る必要はありません。高齢化が進むなかで介護需要そのものが急減することは考えにくく、課題は「需要に対して、いかに人材を確保し、コスト上昇に耐えられる経営体制を整えるか」にあります。

同時に、これは個々の事業所の努力だけで解決できる問題でもありません。報酬や人件費支援といった制度面の動き(2026年6月の臨時改定や2027年度の通常改定に向けた議論など)も、経営判断の前提として押さえておくとよいでしょう。

財務・資金繰り・事業承継・労務といった経営判断に関わる事柄は、税理士・社会保険労務士・中小企業診断士など専門家への相談をおすすめします。本記事は情報提供を目的としたもので、特定の対応を推奨・助言するものではありません。

まとめ

2025年の介護事業者の倒産は、TSR調べで176件と過去最多、訪問介護が突出しました(TDB調べでは139件で高止まり)。数字は集計主体・基準で異なるため、出典とあわせて読むことが大切です。背景は人手不足・物価高・公定価格の制約という構造要因の重なりで、小規模事業者ほど影響を受けやすい状況です。打ち手としては、加算の取りこぼし点検、ICT・生産性向上、協働化・大規模化、資金繰りの見える化などが「一例」として挙げられます。まずは慌てず、自事業所の足元の点検と、専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。

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