この記事は、施設のBCP(業務継続計画)づくりを任された介護管理者・主任に向けた内容です。BCPとは何か、いつから義務化されたのか、何を盛り込めばよいのかが分かります。
介護の現場は、大地震や水害、新型感染症の流行など、さまざまな緊急事態に直面します。利用者の多くは、支援がなければ生活が成り立ちません。だからこそサービスを止めにくいのが介護の特性です。そこで欠かせないのがBCPです。この記事では、福祉施設のBCPの基本から義務化、作り方、2種類の計画の違いまでを、2026年7月時点の最新情報で解説します。
記事でわかること
この記事でわかること
- BCP(業務継続計画)とは何か、防災マニュアルとの違い
- 2024年4月からの完全義務化と業務継続計画未策定減算の内容
- 感染症BCPと自然災害BCPという2種類の計画
- BCPに盛り込む内容と、作り方の基本的な流れ
- 厚生労働省のガイドライン・ひな形の活用方法
- 介護職員・施設にとってBCPに取り組む意義
BCP(業務継続計画)とは
BCPとは、緊急時にも重要な業務を止めず、止まっても早く再開するための計画です。「Business Continuity Plan」の略で、日本語では業務継続計画と呼びます。地震や水害、感染症の流行、大規模なシステム障害などを想定し、平常時から備えておきます。
介護・福祉の現場には、サービスを止めにくいという特性があります。食事や排泄、服薬、医療的ケアは、緊急時でも一定の継続が必要だからです。そのため、限られた人員や物資のなかで「何を優先して続けるか」を事前に決めておくことが、BCPの大きな目的です。
防災マニュアルとの違い
BCPは、従来の防災マニュアルとは目的が異なります。防災マニュアルは主に「身の安全の確保」や「被害を出さないこと」に焦点を当てます。一方BCPは「被害を受けたあとも、いかに業務を続け、早く立て直すか」に重点を置きます。両者は対立しません。防災対策を土台にしつつ、事業継続の視点を加えたものがBCPだと理解するとよいでしょう。
介護・福祉施設におけるBCPの義務化
介護分野のBCPは、すべての介護サービス事業所に策定が義務づけられています。2021年度(令和3年度)の介護報酬改定で決まりました。求められるのは、業務継続に向けた計画の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施の3つです。
この義務化には3年間の経過措置が設けられ、2024年(令和6年)4月から完全義務化されました。つまり、現在ではほぼすべての介護サービス事業所が、BCPの策定・研修・訓練を求められています。出典は厚生労働省の介護報酬改定関連資料です。
業務継続計画未策定減算とは
BCPを策定していない事業所は、介護報酬を減らされます。これを業務継続計画未策定減算(BCP未策定への罰則的な報酬カット)といいます。減算率はサービス類型によって異なり、おおむね次のとおりです。なお制度は改定で変わることがあるため、最新の単位数や要件は必ず公式情報で確認してください。
| サービス類型 | 減算の目安 | 減算が始まった主な時期 |
|---|---|---|
| 施設系・居住系サービス | 所定単位数の3%減算 | 2024年4月~ |
| 訪問系・福祉用具貸与・居宅介護支援など | 所定単位数の1%減算 | 2025年4月~ |
施設系・居住系サービスでは、2024年4月から減算が始まりました。訪問系サービスや福祉用具貸与などは経過措置の後、2025年(令和7年)4月から適用が拡大されています。2026年7月時点では経過措置がすべて終了しており、未策定のままでは全サービス類型で減算の対象になります。減算は金銭面の不利益にとどまりません。利用者や家族への安全管理の姿勢を示すものでもあるため、早めの策定が望まれます。
感染症BCPと自然災害BCPの2種類
介護・福祉施設のBCPは、大きく2種類に分かれます。感染症に係る業務継続計画(感染症BCP)と、災害に係る業務継続計画(自然災害BCP)です。想定するリスクや必要な備えがそれぞれ異なります。
| 項目 | 感染症BCP | 自然災害BCP |
|---|---|---|
| 主な想定 | 新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染拡大 | 地震/風水害/土砂災害など |
| 業務への影響 | 職員の感染・濃厚接触による人員不足、利用者の隔離対応 | 建物の損壊/停電・断水/交通遮断による出勤困難 |
| 重視する備え | 防護具の備蓄/ゾーニング/応援体制/衛生管理 | 飲料・食料・燃料の備蓄/安否確認/避難・代替手段の確保 |
2つは別々に作ることもできます。ただし職員の参集基準や連絡網など、共通する部分も多くあります。厚生労働省のガイドラインでも、一体的に整理して作成してよいとされています。施設の実情に合わせて、無理のない形でまとめましょう。
BCPに盛り込む内容
BCPには、緊急時の混乱のなかでも判断・行動できるよう、具体的な項目を盛り込みます。主な構成要素は次のとおりです。
| 構成要素 | 主な内容 |
|---|---|
| 平常時の対応 | 役割分担/備蓄品の管理/マニュアル整備/職員教育 |
| 緊急時の体制 | 指揮命令系統/責任者の決定/意思決定の流れ |
| 職員の参集基準 | どの状況で誰が出勤するか/出勤率ごとの想定 |
| 優先業務の選定 | 限られた人員で最低限続けるべき重要業務の整理 |
| 備蓄 | 飲料・食料・医薬品・防護具・燃料などの確保 |
| 連絡網・関係機関連携 | 職員・家族・自治体・医療機関などとの連絡体制 |
| 研修・訓練・見直し | 定期的な研修と訓練の実施/計画の継続的な更新 |
とくに大切なのが優先業務の選定です。人手や物資が限られる緊急時には、すべての業務を平常どおり続けられません。そこで、利用者の生命に直結する業務を最優先とします。さらに職員の出勤率ごとに「何を続け、何を縮小するか」を整理しておくと、現実的なBCPになります。
研修・訓練の頻度は、サービス類型によって基準が異なります。入所系サービスでは年2回以上、通所系・訪問系サービスでは年1回以上が目安です。詳細は厚生労働省や自治体の通知で確認しましょう。
BCPの作り方の流れ
BCPは、次の流れで作成・運用します。一度に完璧を目指す必要はありません。まず形にして、訓練を通じて改善していく姿勢が大切です。
- 方針・体制を決める(責任者や推進担当者を決定する)
- 自施設のリスクと業務を洗い出す(地域の災害リスク/優先業務の整理)
- 計画書を作成する(平常時の備え/緊急時の対応を文書化)
- 研修で全職員に内容を周知する
- 訓練(シミュレーション)で実効性を検証する
- 結果をふまえて定期的に見直す
ゼロから作成するのが難しい場合は、厚生労働省のガイドラインとひな形(参考様式)を活用すると効率的です。厚生労働省は、自然災害用と新型コロナウイルス感染症用の2つの業務継続ガイドラインを公開しています。それぞれにひな形と研修動画もそろっています。ひな形は任意の様式に編集してよく、自施設の実情に合わせて項目を追加・修正できます。なお、ひな形は改訂されることがあるため、利用時には最新版を確認してください。
介護職員・施設にとってBCPに取り組む意義
BCPは「義務だから作る」だけのものではありません。緊急時に職員が迷わず動ける状態にしておくことには、大きな価値があります。利用者の安全を守ると同時に、職員自身の安全や負担の軽減にもつながるからです。誰が何をするかが決まっていれば、混乱のなかでも落ち着いて対応できます。
また、災害や感染症への備えが整った施設は、利用者や家族からの信頼を得やすくなります。職員にとっても「安心して働ける職場」になります。BCPの策定・運用を通じて施設全体の危機対応力が底上げされることは、長期的に見て運営の大きな強みです。
近年は、記録や情報共有を効率化するICTの活用も進んでいます。日々のケアの質を高める取り組みとあわせて理解を深めたい方は、科学的介護(LIFE)の記事や、現場のデジタル化を扱った介護AIの記事もあわせてご覧ください。施設運営や管理者の役割に関心がある方は、管理者の仕事に関する記事も参考になります。
自施設のBCPを点検する10項目チェックリスト
結論として、BCPは「作って終わり」ではなく、毎年点検して使える状態に保つことが大切です。管理者が自施設の計画を見直すとき、次の10項目で抜けを確認してください。1つでも「いいえ」があれば、そこが優先的な改善点です。
- 感染症BCPと自然災害BCPの両方を策定し、最新の状態に更新しているか
- 緊急時の責任者と代行者(不在時に判断する人)を氏名で決めているか
- 出勤率が5割/3割に落ちた場合に「続ける業務/止める業務」を整理しているか
- 飲料・食料・医薬品・防護具・燃料の備蓄量と保管場所、点検担当を決めているか
- 職員・家族・自治体・協力医療機関の連絡網が最新で、全職員が参照できるか
- 入所系は年2回以上、通所・訪問系は年1回以上の研修・訓練を実施し記録しているか
- 新入職員が入ったとき、誰がBCPの内容を伝えるか決まっているか
- 近隣施設や法人内での応援体制(人員の融通)を話し合っているか
- 訓練で出た課題を次の計画見直しに反映する流れがあるか
- 未策定減算の対象でないか、自施設のサービス類型で確認したか
このチェックは、部下に研修で説明するときの土台にもなります。「うちはこの項目がまだ弱い。だから今期はここを固める」と具体的に語れれば、現場は動きやすくなります。減算回避という守りだけでなく、緊急時に職員と利用者を守る職場づくりが、人材定着にもつながります。最新の要件は厚生労働省 介護・高齢者福祉のページで確認してください。
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まとめ
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BCP(業務継続計画)は、緊急時にも介護サービスを続け、早く再開するための計画です。2021年度の介護報酬改定で、全介護サービス事業所に策定・研修・訓練が義務づけられました。3年間の経過措置を経て、2024年4月から完全義務化されています。未策定の場合は業務継続計画未策定減算の対象です。計画には感染症BCPと自然災害BCPの2種類があります。平常時の備えから優先業務の選定、研修・訓練・見直しまでを盛り込みましょう。厚生労働省のガイドラインやひな形を活用し、自施設に合った実効性のある計画を整えていきましょう。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」(ガイドライン・ひな形・研修動画の一覧)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」(感染症BCPの原典)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(自然災害BCPの原典)
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