身寄りのない高齢者の支援が第二種社会福祉事業に|改正社会福祉法の中身・施行時期とケアマネ・介護事業所の役割はどう変わるか

本記事は2026年9月25日時点の公開情報に基づいています。新しい事業の施行日は政令で定められる予定で、制度の細部は今後変わる可能性があります。

この記事は、居宅介護支援事業所・訪問介護・通所介護・介護施設の管理者やリーダー職、ケアマネジャーの方に向けた内容です。頼れる身寄りがいない利用者の入院手続きや亡くなった後の対応を、現場が「仕方なく」引き受けている実態を国が正面から認め、法律上の受け皿をつくりました。何が決まり、何がまだ決まっていないのか、自事業所の線引きをどう考えるかを1本で整理します。

まず結論:管理者が押さえるべき3点

  • 2026年6月25日に「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第51号)が公布されました。頼れる身寄りがいない高齢者などへの日常生活支援・入院入所などの手続支援・死後事務支援を行う事業が、第二種社会福祉事業に位置付けられます。資力の要件に当てはまる人は無料または低額で利用できる仕組みです。
  • この部分の施行は「公布後2年以内の政令で定める日」です。改正法の原則の施行日(2027年4月1日)とは別で、2026年9月時点では日付が決まっていません。厚労省の予算資料では「2028年度(令和10年度)施行予定」とされています。
  • 新しい事業は身元保証人の代わりになる制度ではありません。一方で、地域包括支援センターの相談対象に「頼れる身寄りがいない高齢者等」が明確化されるなど、相談をつなぐ先ははっきりします。ケアマネジャーが1人で抱え込む前提を、地域の役割分担に置き換えていく段階に入りました。

なぜ法改正が必要だったのか|数字で見る背景

背景は単身の高齢者世帯の増加です。厚生労働省の資料によると、単身高齢世帯は2020年の738万世帯(13.2%)から2040年には1,041万世帯(18.6%)に増える見込みです。入院時の手続き、緊急連絡先、費用の支払い、亡くなった後の葬儀や家財の処分。家族や親族が担ってきたこれらを、頼める相手がいない人が増えています。

これまでも、認知症などで判断能力が十分でない人には「日常生活自立支援事業」(福祉サービス利用援助事業。社会福祉協議会が実施)がありました。ただし対象は判断能力が不十分な人に限られ、実利用者は近年約5万6千人で横ばいです。担い手の不足も指摘されていました。専門員が「ニーズに対して不十分」と答えた社協は37.3%、生活支援員では49.4%です(令和6年度の全国社会福祉協議会の調査。厚労省資料より)。

厚労省の法案説明資料には、居宅介護支援事業所が「やむを得ず実施せざるを得ない法定外業務(いわゆるシャドウワーク)」という表現がそのまま登場します。ケアマネジャーが業務の範囲を超えて支えている現状を、国が制度上の課題として認めた形です。

改正法で新設される事業の中身|対象・支援内容・利用料

新しい事業は、既存の福祉サービス利用援助事業を拡充・発展させたものです。法律上の名称は「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」で、第二種社会福祉事業に位置付けられます。厚労省の概要資料をもとに、ポイントを表にまとめました。

項目 内容
対象者 頼れる身寄りがいない高齢者等 + 判断能力が不十分な者
日常生活支援 福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理、書類等の預かり(従来の福祉サービス利用援助事業と同様。通帳や年金証書などを想定)
入院入所等の手続支援 入退院・入退所の手続支援、緊急連絡先の提供、費用の支払代行
死後事務支援 葬儀・納骨・家財処分の契約手続の支援、行政官庁への届出などを事前に準備
利用料 利用者のうち一定割合以上に無料または低額で提供する事業として位置付け。資力の要件に該当する人は無料または低額
施行時期 公布(2026年6月25日)後2年以内の政令で定める日。厚労省の2027年度概算要求資料では「令和10年度施行予定」と記載

法案作成の前段階(2025年9月の社会保障審議会福祉部会)では、制度設計の考え方として次の案が示されました。

  • 事業内容は「日常生活支援」に加えて、「入院入所等の手続支援」と「死後事務支援」の少なくとも一方を実施する
  • 実施主体に制限を設けず、都道府県知事への届出制とする
  • 都道府県社協・指定都市社協は、現行の日常生活自立支援事業と同様に新事業を実施する
  • 「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(2024年6月)の遵守が望ましい
  • 葬儀・納骨・家財処分の実費は利用者が負担する

これらは制度設計の段階の考え方です。最終的な運用は今後の政省令や通知で確定します。

身元保証の代わりにはならない|施設・病院側の運用が問われる

誤解しやすい点を先に押さえます。新しい事業は、入退院や入所の「手続き」を支援し、緊急連絡先を提供し、費用の支払いを代行する仕組みです。身元保証人や連帯保証人そのものを引き受ける制度ではありません。

利用者にとって切実なのは「入院や入所のときに身元保証人を求められたらどうするか」です。この点について厚生労働省は、身元保証人等がいないことのみを理由に入所を拒むことは、介護保険施設等の運営基準(正当な理由なくサービスの提供を拒んではならない)に違反するとの考え方を示しています(平成30年8月30日 老高発0830第1号ほか)。医療機関についても、身元保証人等がいないことのみを理由に医師が入院を拒むことは医師法第19条第1項に抵触するとされています(平成30年4月27日 医政医発0427第2号)。新しい事業が始まっても、身寄りのない人をどう受け入れるかは、施設や医療機関側の運用の整理が引き続き必要です。入所時に求めている書類や保証の内容を、この機会に一度棚卸ししてください。

相談の受け皿はどう変わるか|地域包括支援センター・地域ケア会議・ケアマネの位置付け

改正法は、新しい事業の創設とあわせて相談体制の整備も盛り込んでいます。介護保険の側で事業所に関係が深いのは次の3点です。介護保険法の改正部分は、原則の施行日である2027年4月1日から動き出す見込みです(条文ごとに施行日が異なるため、自治体の案内で確認してください)。

  • 地域包括支援センターの総合相談支援事業の相談対象として、頼れる身寄りがいない高齢者等からの相談対応を明確化する。「どこに相談すればよいか分からない」ケースの一次的な受け皿がはっきりします。
  • 地域ケア会議の実施を地域包括支援センターに委託できることを明記し、障害や生活困窮など他分野の会議・関係主体との連携を進める。個別ケースの検討を圏域ごとの体制づくりにつなげる狙いです。
  • 介護予防・日常生活支援総合事業の介護予防ケアマネジメント(第一号介護予防支援事業)を、居宅介護支援事業所が市町村から委託を受けて直接実施できるようにする。地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の役割分担を進める見直しです。

あわせて、生活困窮者自立相談支援事業や障害者相談支援事業の対象としても、身寄りのない人からの相談対応が明確化されます。判断能力が不十分な人向けには、「地域権利擁護相談支援センター」を市町村が設置できるようになります(2027年4月に法定化予定)。相談の入口が介護・障害・困窮の3分野で整理される形です。

地域包括支援センターの役割や仕組みは、地域包括支援センターとは?役割と運営体制の記事で整理しています。

2027年度の概算要求でも「身寄りのない高齢者」が明記された

法改正と並行して、予算面の手当ても動いています。厚労省社会・援護局が2026年8月に提出した2027年度(令和9年度)概算要求では、「日常生活自立支援事業の体制整備、頼れる身寄りがいない高齢者等の課題に対応するための取組の推進」として55億円が要求されました(2026年度当初予算は38億円)。新事業の開始を見据え、身寄りのない高齢者への定期的な見守りと、入退院・入退所の手続支援や死後事務の試行的な事業を行う内容です。この資料の中で、新事業は「令和10年度施行予定」と記載されています。

老健局の2027年度概算要求でも、介護予防・日常生活支援総合事業等の推進の中で、頼れる身寄りがいない高齢者等に係る地域での課題解決の取組を推進すると明記されています。いずれも要求段階で、年末の予算編成で金額や中身が確定します。

まだ決まっていないこと・残る課題

  • 施行日:公布後2年以内の政令で定める日。2028年6月までのどこかで始まります。厚労省の予算資料では2028年度(令和10年度)施行予定とされていますが、2026年9月時点で日付は未定です。
  • 担い手と体制:主な担い手として社協が想定される一方、夜間・休日を含む急変対応まで全国で体制を整えられるかは関係者から不安の声が出ています。無料・低額の需要が集中すれば担い手が追いつかない懸念もあります。
  • 「誰が・どこまで・どの費用で」の線引き:ケアマネジャーが抱えてきた仕事を社協へ移すだけでは、押し付け合いになりかねません。資力のある人には民間の終身サポートや保険外サービスを使ってもらい、資力の乏しい人に公的な受け皿を用意する。この組み合わせを地域ごとに具体化する作業が残っています。
  • 民間サービスとの関係:民間の高齢者等終身サポート事業は続きます。新事業との使い分けや、事業者の質を担保する仕組み(ガイドラインの遵守など)は今後の詰めどころです。

介護事業所・ケアマネがいま整理しておくこと

施行を待つ間にできることは4つあります。いずれも「制度が始まったら急に始める」より、今から準備しておくと動きやすくなります。

1. 身寄りのない利用者の「見えない業務」を書き出す

入院時の付き添い、緊急連絡先としての登録、入院費の立て替えや支払いの段取り、亡くなった後の連絡や家財の相談。ケアマネジャーや訪問介護員が実際に何をどれだけ担っているか、件数と時間を一度書き出してみてください。地域ケア会議や市町村に「地域課題」として示す材料になります。線引きの議論を自事業所から始められます。

2. 相談先の一覧を作り、早い段階でつなぐ

地域包括支援センター、市町村の担当課、社協(日常生活自立支援事業の窓口)、権利擁護の相談窓口、居住支援法人、民間の終身サポート事業者。地域にある受け皿を一覧にしておきます。そのうえで、「自分しかやる人がいない」と抱え込む前に相談する流れをチーム内で決めておきます。改正法で包括の相談対象が明確化される分、早めの相談は通りやすくなります。

3. 施設側は入所時の保証の求め方を見直す

入所申込書で身元保証人・連帯保証人・緊急連絡先を一括で求めていないか確認し、何のためにどの役割が必要かを分解します。緊急連絡先、費用の支払いの担保、死後の事務を分けて考えると、新しい事業や既存の日常生活自立支援事業で代替できる部分が見えてきます。

4. 職員に説明できる言葉を用意する

「身元保証人がいないと入れない」と利用者や家族に伝えている職員はいないか、確認しておきます。「身元保証人がいないことだけを理由に断ることは運営基準違反に当たる」という国の考え方(平成30年8月30日 老高発0830第1号ほか)と、相談先の一覧を、現場のスタッフに共有しておくと対応がぶれません。

同じ改正法に含まれる、事業所に関係の深い見直し

今回の改正法は社会福祉法・介護保険法・老人福祉法などをまとめて改正する一括法で、身寄りのない高齢者への支援以外にも事業所に直結する見直しが含まれています。

改正の全体像と2027年度に向けた制度改正の議論は、2027年度の介護保険制度改正|2割負担・ケアプラン有料化の現在地で整理しています。

まとめ

身寄りのない高齢者への日常生活支援・入院入所の手続支援・死後事務支援が、第二種社会福祉事業として法律に位置付けられました。施行は公布後2年以内の政令で定める日(2028年度施行予定)で、まだ日付は決まっていません。新しい事業は身元保証の代わりにはならず、担い手や財源の課題も残ります。それでも、ケアマネジャーや介護現場が善意で埋めてきた穴を国が制度の対象として認めたことは大きな転換です。事業所がいまできるのは、見えない業務の棚卸し、相談先の一覧化、入所時の保証の求め方の見直し、職員への説明の4つ。「全部自分でやる」から「必要な支援につなぐ」へ、施行前に足場を整えておきましょう。

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出典(一次資料)