介護の声かけ、話し方、聴き方の基本とは

この記事は、介護現場の声かけを見直したい介護職員・現場リーダー向けです。声かけは、信頼関係づくりや事故予防、自立支援を支える技術です。同じ介助でも、ひと言の伝え方で利用者の反応は変わります。安心して身を任せてくれることもあれば、不安や抵抗を招くこともあります。この記事では、声かけの基本原則、場面別の良い例とNG例、傾聴・受容・共感、認知症の人への工夫、避けたい声かけまでを、2026年7月時点の最新情報で解説します。

この記事でわかること

  • 介護で声かけ・コミュニケーションが重要な理由
  • 言語的・非言語的コミュニケーションの違い
  • 声かけの基本原則と場面別の良い例・NG例
  • 傾聴・受容・共感とバイステックの7原則
  • 認知症の人への声かけの工夫とやってはいけない声かけ

介護で声かけ・コミュニケーションが大切な理由

声かけは、介助の質を左右する大切な技術です。介護は相手の体に直接触れ、生活の近いところに関わる仕事だからです。ていねいな声かけがあれば、利用者は「これから何をされるのか」を理解できます。安心して介助を受けられるのです。反対に、無言で体に触れたり急に動かしたりすると、利用者は驚きます。恐怖や不信感を抱いてしまいます。

声かけが果たす役割は、主に次の4つです。

  • 信頼関係の構築:日々のやり取りの積み重ねが、「この人になら任せられる」という安心感につながります。
  • 安心感を与える:次の動作を予告することで、利用者の不安や混乱をやわらげます。
  • 事故・トラブルの予防:移乗や歩行の前に声をかけると、転倒やケガを防げます。誤解による抵抗も減らせます。
  • 自立支援:「できること」を本人にうながす声かけは、残された力を引き出し、生活意欲を高めます。

声かけは、利用者の尊厳を守る関わりでもあります。意思を確認し、同意を得てから介助を行う。その姿勢が、相手を一人の人として尊重することにつながります。

言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーション

介護では、言葉と言葉以外の両方をうまく使い分けることが大切です。コミュニケーションには2種類あるからです。言葉そのものでやり取りする「言語的コミュニケーション」と、言葉以外で伝わる「非言語的コミュニケーション」です。

言語的コミュニケーションは、話す内容や言葉づかいを指します。非言語的コミュニケーションは、言葉以外で相手に伝わる要素です。表情・目線・姿勢・身ぶり・タッチング(触れること)・声のトーン・話すスピードなどが含まれます。聴力や理解力が低下した方、認知症の方には、言葉以上に表情や声のトーン、触れ方が重要なメッセージになります。

たとえば、やさしい言葉をかけても、表情が硬く早口であればどうでしょうか。相手には冷たく急かされている印象が伝わります。笑顔でゆっくりと目線を合わせて話すと、言葉の内容と気持ちが一致して届きます。複数の手段を矛盾なく組み合わせることが、安心を生む基本です。

声かけの基本原則

場面が変わっても通用する、声かけの基本原則があります。次のポイントを意識するだけで、利用者の受け止め方は変わります。

  • 相手の正面に立ち、目線の高さを合わせる:座っている方には腰をかがめ、同じ高さで向き合います。上から見下ろす姿勢は威圧感を与えます。
  • ゆっくり・短く・はっきりと話す:一度に多くを伝えず、ひとつずつ区切って話します。
  • 選択肢を示す:「お茶とコーヒー、どちらにしますか」のように、本人が選べる形で問いかけ、自己決定をうながします。
  • せかさない:返事や動作を待つ余裕を持ちます。沈黙を恐れず、相手のペースを尊重します。
  • プライドを傷つけない:失敗を責めず、子ども扱いをしません。大人として敬意を持って接します。
  • 説明と同意を得る:介助の前に「これから〇〇しますね」と伝え、了解を得てから行います。

これらは、相手のペースに合わせ、本人の意思を尊重するという一点に集約されます。介護者の都合で進めるのではありません。利用者を中心に考える姿勢が、すべての声かけの出発点です。

場面別の声かけ具体例(良い例とNG例)

実際の介助場面では、これから何をするかを予告し、本人の選択を尊重する声かけが望ましいです。日常的によくある場面について、良い例とNG例を対比して紹介します。

場面 良い例 NG例
起床 「おはようございます。よく眠れましたか。そろそろ起きましょうか」と窓の外の様子を伝えながら 「もう朝ですよ、早く起きて」と無理に体を起こす
食事 「お食事の準備ができました。今日は煮魚ですよ。お口に合うとよいのですが」 「はい、ごはんの時間。残さず全部食べてね」
入浴 「お湯加減はいかがですか。背中を流しますね、少し前に倒れますよ」 無言で体を洗い始める/「冷たいけど我慢して」
排泄 「お手洗いに行っておきましょうか。手伝いますので、ゆっくりで大丈夫ですよ」と小声で 「またトイレ?さっき行ったでしょう」と大声で
移乗 「車いすに移りますね。私の肩につかまって、1・2・3で立ちましょう」 声をかけずに急に体を持ち上げる
レクリエーション 「よかったら、一緒に折り紙はいかがですか。見ているだけでも大丈夫ですよ」 「みんなやってるんだから、あなたもやって」

良い例に共通するのは、これから何をするのかを予告している点です。そして、本人の気持ちや選択を尊重しています。とくに排泄など羞恥心をともなう場面では、声の大きさや言葉づかいへの配慮が欠かせません。レクリエーションへの誘いも、強制ではなく選択肢として示します。介護のレクリエーションについては別記事でくわしく解説しています。

傾聴・受容・共感とバイステックの7原則

声かけのテクニック以前に、利用者の話を受け止める姿勢が信頼関係の土台です。その中心にあるのが、傾聴・受容・共感の3つです。

  • 傾聴:相手の話に耳を傾け、関心を持ってじっくり聴くこと。うなずきや相づちを交え、話を引き出します。
  • 受容:相手の言動や感情を、よい・悪いと評価せず、あるがままに受け止めること。
  • 共感:相手の気持ちに寄り添い、その立場に立って感情を理解しようとすること。

これらの姿勢を体系化したものが「バイステックの7原則」です。対人援助の基本原則として広く知られています。アメリカの社会福祉学者バイステックが提唱しました。介護や福祉の現場でも、援助関係づくりの基本として活用されています。

原則 内容
個別化 利用者を「一人の個人」として、その人ならではの状況やニーズを理解する
意図的な感情表現 利用者が自分の感情を自由に表せるよう、安心できる場をつくる
統制された情緒的関与 援助者は自分の感情を自覚し、コントロールして関わる
受容 利用者のあるがままの姿を受け止める
非審判的態度 援助者の価値観で相手を一方的に評価・批判しない
自己決定 利用者が自分のことを自分で決められるよう支える
秘密保持 関わりの中で知り得た個人情報を守る

これらの原則は、声かけの一つひとつにも生きてきます。たとえば「選択肢を示す」声かけは、自己決定の原則を実践に移したものです。相手を責めない態度は、非審判的態度や受容の原則にあたります。

認知症の人への声かけの工夫

認知症のある方への声かけは、否定せず安心してもらうことが基本です。記憶や理解、見当識(時間や場所の感覚)が低下しているため、より一層の配慮が必要だからです。

  • 否定しない:事実と違うことを言われても「違います」と正面から否定せず、まずは気持ちを受け止めます。
  • 短い言葉で伝える:一度にひとつのことだけを、ゆっくり簡潔に伝えます。
  • 安心させる:穏やかな表情と声で、急かさず接します。不安が強いときは、まず気持ちに寄り添います。
  • 過去の思い出に寄り添う:昔の話を聴く回想法的な関わりは、本人の安心や自信につながります。

認知症ケアの代表的な技法に「ユマニチュード」があります。「見る・話す・触れる・立つ」という4つの柱を組み合わせる技法です。相手の五感に矛盾のないメッセージを届け、「あなたを大切に思っている」という気持ちを伝えます。たとえば、正面から目線を合わせて見つめ、おだやかに話しかけながら、やさしく触れる。これらを同時に行います。

もうひとつ知られているのが「バリデーション」です。認知症の人の言動を否定せず、本人の感情や世界をそのまま受け入れて寄り添う考え方です。さらに「パーソンセンタードケア」という理念もあります。認知症の人を一人の人として尊重し、その人の視点に立ってケアを行う考え方で、認知症ケアの基本として広く浸透しています。いずれも、相手の気持ちを中心に置く点で共通しています。

こうした認知症ケアの知識や技術を体系的に学びたい方は、認知症ケアに関する資格や、専門性の高い認知症ケア専門士の取得を検討するとよいでしょう。認知症の方が暮らすグループホームでは、こうした関わりがとくに重視されます。

やってはいけない声かけ

よかれと思った声かけが、かえって利用者を傷つけることがあります。行動を抑え込んでしまうこともあります。次のような声かけは避けましょう。

  • 子ども扱いする言葉:「〇〇ちゃん」「えらいね、上手にできたね」など。相手は人生経験豊かな大人です。敬意を持って接します。
  • 命令口調・上から目線:「早くして」「ダメでしょう」など。指示・命令ではなく、お願いや提案の形で伝えます。
  • 「ちょっと待って」と言ったまま放置する:いつまで待てばよいかわからず、利用者は不安なまま動けなくなります。「5分ほどで戻りますね」と具体的に伝えます。

とくに注意したいのが「スピーチロック(言葉による拘束)」です。「立たないで」「座っていて」「動かないで」といった言葉で利用者の行動を制限することを指します。身体拘束の一種と考えられています。身体拘束には3つ(スリーロック)があるとされます。ひもなどで体を縛る「フィジカルロック」、薬で動きを抑える「ドラッグロック」、そして言葉で行動を抑える「スピーチロック」です。いずれも原則として禁止されています。

スピーチロックは道具を使わないため自覚しにくく、つい口にしてしまいがちです。しかし、繰り返されると利用者の意欲や活動性が低下します。ストレスからBPSD(認知症の行動・心理症状)が悪化するおそれもあります。「危ないので少し待っていてくださいね、すぐに戻ります」のように伝えましょう。理由と見通しを添えれば、行動を抑え込まずに安全を守れます。なお、終末期など人生の最終段階での関わり方については、ターミナルケアの記事もあわせてご覧ください。

声かけを部下・チームに浸透させるには

声かけは、リーダーが個人技で終わらせず、チームの標準にすると質が安定します。現場で使える指導のしかたを整理しました。

新人や部下に伝えるときは、理由とセットで示すと納得が早まります。たとえば「無言で触れない。先に声をかけるのは、驚かせて転倒や抵抗を防ぐため」と、目的まで言葉にします。良い例とNG例を1つずつ実演すると、言葉だけより伝わります。

とくにスピーチロック(言葉による拘束)は、自覚しにくいぶん、チームで言い換えを共有しておくと効果的です。

つい出るNGワード 言い換え例
「ちょっと待って」(放置) 「5分ほどで戻りますね」と見通しを添える
「立たないで」「動かないで」 「危ないので、私が戻るまで座っていてくださいね」と理由を添える
「早くして」 「ゆっくりで大丈夫ですよ」と待つ姿勢を示す

下のチェック項目を、申し送りや研修で使う自己点検シートとして活用できます。

  • 介助の前に「これから〇〇しますね」と予告できているか
  • 目線を合わせ、ゆっくり短く話せているか
  • 選択肢を示し、本人に選んでもらえているか
  • スピーチロックになっていないか(理由と見通しを添えているか)

声かけの質は、利用者の安心だけでなく、職員のやりがいや人材定着にもつながります。ていねいな関わりが当たり前になる職場は、働く人にとっても続けやすい職場です。

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まとめ

介護における声かけは、信頼関係づくりや安心感、事故予防、自立支援を支える技術です。基本は次のとおりです。相手の正面で目線を合わせ、ゆっくり短く話す。選択肢を示してせかさない。そして、説明と同意を大切にする。これらを意識するだけで、利用者の受け止め方は変わります。土台となるのは傾聴・受容・共感の姿勢です。バイステックの7原則やユマニチュード、パーソンセンタードケアといった考え方も、その実践に役立ちます。一方で、子ども扱いや命令口調、スピーチロックは避けなければなりません。日々のひと言を見直すことが、利用者の尊厳とより良いケアにつながります。

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