2026年10月、社会保険の賃金要件が撤廃|介護事業所のパート職員の加入対象と事業者の準備

本記事は2026年10月4日時点の公開情報に基づいています。手続きの細部や対象の判定は、必ず管轄の年金事務所や日本年金機構の最新案内でご確認ください。

この記事は、パート・短時間職員を雇う介護事業所の経営者・管理者・事務担当の方に向けた内容です。2026年10月1日から、社会保険の「106万円の壁」の一つである賃金要件がなくなりました。うちの事業所は対象か、誰が新しく加入するのか、いつまでに何をするのかを1本で整理します。

まず結論:管理者が押さえる3点

  • 2026年10月1日に、短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の賃金要件が撤廃されました。これまでの「月額賃金8.8万円以上」という条件がなくなり、判定は「週の所定労働時間20時間以上」などの残る条件で行います(令和7年法律第74号による改正)。
  • 対象になるのは、従業員数51人以上の事業所(特定適用事業所)で働く短時間労働者です。50人以下の事業所は、今回の撤廃だけでは強制適用になりません。ただし、企業規模の要件は2027年10月から段階的に下がります。
  • 新たに対象となる人の資格取得届は、原則として事実発生から5日以内に出します。保険料の負担を3年間やわらげる「保険料調整制度」もあるため、手続きと同時に使えるか確認してください。

何が変わったのか|4つの要件が3つになりました

短時間労働者が社会保険の対象になるには、これまで次の4つをすべて満たす必要がありました。2026年10月からは、このうち賃金要件が消えています。

要件 2026年9月まで 2026年10月1日から
週の所定労働時間 20時間以上 20時間以上(変更なし)
賃金(月額) 8.8万円以上(年収約106万円) 撤廃
事業所の規模 従業員51人以上 51人以上(変更なし。2027年10月から段階的に拡大)
学生でないこと 昼間学生は対象外 変更なし

加えて、雇用期間が2か月を超えて見込まれることも条件です。なお、最低賃金の減額特例を受けている人など、一部の例外は日本年金機構の案内で別に扱われています。該当者がいる場合は個別に確認してください。

介護事業所で「新しく対象になる人」はどんな人か

注意したいのは、賃金要件がなくなっても、週20時間以上という条件は残ることです。実は、最低賃金に近い時給で週20時間働くと、月額はおおむね9万円台になります。

たとえば時給1,100円で週20時間の場合、1,100円×20時間×52週÷12か月で月約9.5万円です(試算)。地域や時給によっては、もともと8.8万円を超えていた人も多くいます。そのため、実務上の分かれ目は「週20時間以上かどうか」に移ったと考えると整理しやすくなります。

介護事業所で確認したい職員像は次のとおりです。

  • 週20時間ちょうど前後で、短時間のシフトに入っているパート職員(日勤の短時間帯、配膳や清掃を担う職員など)
  • 賃金が月8.8万円に届かない水準で、週20時間以上働いている人(休みが多い月の賃金ではなく、契約上の月額で判断します)
  • 登録型の訪問介護員など、所定労働時間が決まっていない働き方の人(実際の勤務実績で判断する場面があるため、年金事務所へ確認してください)

派遣スタッフの社会保険は、派遣元の会社が加入手続きを行います。自社で手続きするのは、直接雇用のパート・アルバイトの方です。

「51人以上」の数え方|50人以下の事業所はどうなるか

51人以上かどうかは、事業所単位ではなく、原則として法人(事業主)単位で数えます。数えるのは、厚生年金保険の被保険者のうち、フルタイムの職員と、フルタイムの4分の3以上の時間で働く職員です。週20時間台のパート職員は、この人数には含めません。

複数の事業所を運営する法人は、全体で判定します。1事業所の職員が少なくても、法人全体で51人以上なら対象になる点に注意してください。個人事業所や小規模法人は、判定の細かい取り扱いが異なります。迷ったら年金事務所で確認しましょう。

50人以下の事業所は、今回の撤廃で強制適用にはなりません。ただし、次の表のとおり企業規模の要件が段階的に下がります。小規模の事業所でも、数年以内に対象になる前提で準備しておくと安心です。

時期 対象となる事業所の規模
現在(2024年10月から) 従業員51人以上
2027年10月 36人以上
2029年10月 21人以上
2032年10月 11人以上
2035年10月 すべての企業(1人以上)

事業者がやること|5つのステップ

手続きの期限が短いため、まず職員名簿を見直すところから始めます。

  1. 職員名簿の棚卸し:パート・短時間職員ごとに、契約上の週の所定労働時間、月額賃金、学生かどうかを一覧にします。
  2. 51人以上かどうかの判定:法人全体の厚生年金被保険者数(フルタイムと4分の3以上の職員)を確認します。
  3. 資格取得届の提出:新たに対象になる人がいる場合、取得日から5日以内が原則です。提出先は管轄の年金事務所または事務センターです。10月1日付の対象者で未提出なら、早めに年金事務所へ相談してください。
  4. 保険料の試算と調整制度の確認:次の章で説明します。
  5. 本人への説明:手取りの変化、将来の年金・健康保険のメリットを、面談や書面で伝えます。

説明の際は、労働条件通知書や雇用契約書の社会保険の欄も更新しておきます。パート職員向けの制度説明には、パートの社会保険加入条件の解説記事が使えます。

保険料はいくら増えるのか|事業主負担の目安

社会保険料は労使折半です。新たに加入する職員が1人増えるたびに、事業所の負担も増えます。目安として試算しました。

項目 金額の目安(試算)
前提 月額賃金約9.7万円(標準報酬月額9.8万円)、健康保険料率約10%、厚生年金保険料率18.3%
保険料合計(月) 約2.8万円
事業主負担(月・折半) 約1.4万円
事業主負担(年・1人) 約17万円
対象が10人いる場合の年間負担 約170万円

これは概算です。健康保険料率は都道府県と加入先で異なり、40歳以上の方には介護保険料もかかります。実際の金額は、協会けんぽや健保組合の保険料額表で必ず確認してください。

保険料調整制度|3年間、本人の保険料負担をやわらげる仕組み

新しく加入する短時間労働者が「手取りが減るから」と労働時間を減らす就業調整を防ぐため、2026年10月から「保険料調整制度」が始まりました。日本年金機構の案内では、次のような仕組みです。

  • 対象は、標準報酬月額が12.6万円以下の短時間労働者です。
  • 事業主が、被保険者の保険料の一部を一時的に負担し、本人の負担を通算3年間やわらげます。
  • 事業主が追加で負担した分は、一定期間後に調整されます。最終的に事業主が納める保険料は増えません。
  • 将来の年金額には影響しません。
  • 協会けんぽの案内では、3年目の軽減率は半分とされ、賞与にかかる保険料は対象外です。

利用には、事業主が期限内に「保険料調整開始申出書」を提出する必要があります。対象となる事業所の条件も定められているため、日本年金機構のページで要件を確認してから進めましょう。なお厚生労働省は、事業主が追加で負担した保険料を制度全体で支援する仕組みと説明しています。

介護現場で起きやすい論点|シフトと人員確保への影響

制度改正は、人手不足の現場にとって悪い話ばかりではありません。介護労働安定センターの令和6年度調査では、従業員が不足していると答えた事業所は65.2%、訪問介護員では83.4%でした。就業調整が減れば、パート職員がもう少し長く働いてくれる可能性があります。

  • シフトの見直し:週20時間を境に働き方を決めていた職員がいる場合は、本人の希望を聞いたうえで、時間を延ばすか短くするかを早めに話し合います。
  • 求人票の書き方:社会保険の加入条件を「週20時間以上で加入」など正確に書きます。応募者の不安を減らせます。
  • 採用戦略:社会保険と福利厚生は、短時間求人でも選ばれる理由になります。採用の進め方は介護職員の採用完全ガイドも参考にしてください。
  • 定着策:保険料の負担が増える分を、処遇や働きやすさでどう補うかも検討課題です。人材定着・離職防止の記事とあわせて整理しておくと、職員への説明がしやすくなります。

短時間職員が中心になる業務の見直しは、介護助手の活用とも関係します。詳しくは介護助手の導入ガイドで解説しています。

活用できる支援|助成金は最新の要領で確認

厚生労働省の特設サイトでは、事業主向けの支援として、保険料調整制度のほか、キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)などが案内されています。社会保険労務士による相談支援や、働き方改革推進支援センターの無料相談も用意されています。

助成金の金額や要件は、年度や事業所の規模で変わります。申請の前に、最新の支給要領を必ず確認してください。

まとめ|10月の対応チェックリスト

賃金要件の撤廃は、パート職員が多い介護事業所にとって、人員計画と職員への説明の両方に関わる改正です。最後に、今日から確認する項目をまとめます。

  • 法人全体の厚生年金被保険者数は51人以上か(フルタイム+4分の3以上の職員で数える)
  • 週の所定労働時間が20時間以上のパート・短時間職員は誰か
  • 新たに対象になる人の資格取得届は、5日以内に出したか
  • 保険料調整制度を使うか。使う場合の申出書の期限はいつか
  • 2027年10月以降、自事業所が対象になる時期の見通しを立てたか

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出典(一次資料)