パートの社会保険「106万円の壁」とは?加入条件と2026年10月の賃金要件撤廃を解説

パート・アルバイトで働く方や、人事を担当する方に向けて、社会保険の加入条件と今後の改正をまとめた記事です。社会保険(健康保険・厚生年金)への加入は、週の労働時間や月収、勤め先の規模などで決まります。なかでも「106万円の壁」は、月額88,000円以上などの要件を満たすと社会保険に加入することになるラインを指します。2025年に成立した年金制度改正法により、加入の対象は今後さらに広がります。この記事で、加入条件・年収の壁の違い・改正スケジュール・加入のメリットがわかります。情報は2026年8月時点のものです。

この記事でわかること

  • パート・アルバイトが社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する5つの要件
  • いわゆる「106万円の壁」と「130万円の壁」の違い
  • 企業規模要件の段階的拡大の経緯と、今後の改正スケジュール
  • 2026年10月に予定される賃金要件(月額88,000円)の撤廃と、事業所がやるべき準備
  • 社会保険に加入するメリット(将来の年金・傷病手当金など)

パートの社会保険「106万円の壁」を構成する5つの要件

パート・アルバイトなどの短時間労働者も、一定の条件を満たすと社会保険に加入することになります。社会保険とは、勤め先を通じて入る健康保険・厚生年金保険のことです。フルタイムの労働者(正社員)と比べて労働時間が短くても、要件を満たせば対象になります。いわゆる「106万円の壁」とは、この加入が必要になるラインです。次の5つの要件をすべて満たすと、配偶者などの扶養から外れ、自分で社会保険に加入することになります。

要件 内容
(1)労働時間 週の所定労働時間が20時間以上であること
(2)賃金 所定内賃金が月額88,000円以上であること(いわゆる「8.8万円」)
(3)雇用期間 2か月を超える雇用の見込みがあること
(4)学生でないこと 昼間部の学生でないこと(夜間・定時制・休学中などは対象)
(5)企業規模 勤め先の厚生年金の被保険者数が51人以上であること(特定適用事業所)

(2)の賃金要件で見る「所定内賃金」は、基本給と諸手当をもとに判断します。次のものは含めません。残業代や休日・深夜労働に対する割増賃金、賞与(ボーナス)、結婚手当などの臨時の賃金、通勤手当や家族手当などです。月額88,000円を年収に換算するとおよそ106万円になるため、この基準が「106万円の壁」と呼ばれています。なお、古い記事では「68,000円」といった表記が見られることがありますが、これは過去の制度の名残です。現在の正しい基準は月額88,000円です。

(5)の企業規模要件については、勤め先の規模が小さい場合でも対象になることがあります。労使の合意にもとづいて事業主が申し出れば(任意特定適用事業所)、要件を満たすパートが加入対象となります。また、国や地方公共団体に属する事業所では、規模にかかわらず対象です。

「106万円の壁」と「130万円の壁」の違い

年収にまつわる「壁」のうち、社会保険に関係するのは主に「106万円の壁」と「130万円の壁」です。この2つは似ているようで、対象となる人や仕組みが異なります。違いを整理すると次のとおりです。

項目 106万円の壁 130万円の壁
意味 勤め先の社会保険に加入する基準 配偶者などの扶養(被扶養者)から外れる基準
対象 前述の5要件を満たす短時間労働者 企業規模などの要件にかかわらず広く対象
超えると加入するもの 勤め先の健康保険・厚生年金 原則として国民健康保険・国民年金(または勤め先の社会保険)

「106万円の壁」を超えて勤め先の社会保険に加入すると、将来の年金が手厚くなるなどのメリットがあります(後述)。一方、5要件に当てはまらない働き方でも、年収が130万円以上になると、扱いが変わります。配偶者の扶養から外れ、自分で国民年金・国民健康保険などの保険料を負担することになります。扶養の範囲内で働きたい方は、あわせて扶養はいくらまで働けるのかの記事も確認しておくと安心です。

企業規模要件の拡大の経緯と、今後の改正スケジュール

(5)の企業規模要件は、これまで段階的に引き下げられ、対象となる人が拡大してきました。これまでの経緯は次のとおりです。

  • 2016年(平成28年)10月:被保険者数501人以上の企業からスタート
  • 2022年(令和4年)10月:101人以上の企業に拡大
  • 2024年(令和6年)10月:51人以上の企業に拡大(現在の基準)

さらに大きな見直しが決まりました。2025年(令和7年)6月13日に成立した年金制度改正法です。これにより、企業規模要件は今後10年かけて段階的に縮小・撤廃されます。日本年金機構が公表しているスケジュールは次のとおりです。

時期 企業規模(厚生年金の被保険者数)
令和9年9月まで(現在) 51人以上
2027年(令和9年)10月から 36人以上
2029年(令和11年)10月から 21人以上
2032年(令和14年)10月から 11人以上
2035年(令和17年)10月から 企業規模要件を撤廃(すべての適用事業所が対象)

あわせて、いわゆる「106万円の壁」にあたる賃金要件(月額88,000円以上)は、2026年(令和8年)10月1日に撤廃される予定です(日本年金機構公表。施行日は政令で正式に定められます)。撤廃後の実務対応は後述の章で解説しています。判断の目安とされてきた最低賃金は、2025年度に全国加重平均1,121円となり、すべての都道府県で1,000円を超えました。2026年度はさらに55円引き上げ、全国加重平均1,176円とする目安が示されています(2026年7月28日答申)。各都道府県の金額は地方最低賃金審議会の答申を経て決まり、発効は10月ごろの見込みです。最低賃金以上の時給で週20時間働くと月収はおおむね8.8万円に達するため、賃金要件はすでに実質的な意味を失いつつあります。これらの見直しが進むと、最終的には勤め先の規模や月収にかかわらず、週20時間以上働けば社会保険に加入する仕組みになります。

なお、企業規模要件の見直しなどで新たに加入対象となる短時間労働者には、保険料負担を軽くする特例的な支援措置も用意されています。対象は、従業員50人以下の企業などで働き、標準報酬月額が12.6万円以下の方です。当面3年間、事業主が負担割合を増やして本人の保険料負担を軽減でき、事業主の追加負担分は制度全体で支援されます。

【2026年10月予定】賃金要件(月8.8万円)の撤廃で事業所がやるべきこと

結論から言うと、2026年(令和8年)10月1日に賃金要件(所定内賃金が月額88,000円以上)が撤廃される予定です。撤廃後は、特定適用事業所(被保険者数51人以上)で働くパート・アルバイトは、月収がいくらであっても、週20時間以上などの残りの要件を満たせば社会保険に加入します。加入の判定軸が「月収」から「週の所定労働時間」へ移る、実務上は大きな変わり目です。施行日は法律の公布から3年以内に政令で定めるとされ、全国の最低賃金の上昇を踏まえて2026年10月1日とする政令案が示されています。

項目 2026年9月30日まで 2026年10月1日から(予定)
加入要件 週20時間以上+月額8.8万円以上+2か月超見込み+学生でない+企業規模51人以上 週20時間以上+2か月超見込み+学生でない+企業規模51人以上(賃金要件なし)
働き方調整の焦点 月収を8.8万円未満に抑える「収入の壁」 週20時間未満に抑えるかどうかの「時間の壁」

※施行日は政令で正式に定められます。最新の確定状況は日本年金機構・厚生労働省の公式情報で確認してください。

新たに対象になるのは誰か|まず対象者を洗い出す

新たに加入対象となるのは、特定適用事業所で週20時間以上働いているのに、所定内賃金が月8.8万円未満だった方です。最低賃金の上昇により該当者は多くありませんが、週20時間ぎりぎりの契約の方や、通勤手当・家族手当を除いた所定内賃金で基準を下回っていた方が該当し得ます。あわせて重要なのが、これまで「月収を8.8万円未満に抑えて扶養内」でシフトを組んできたパートへの影響です。10月以降は月収を抑えても、週20時間以上であれば加入対象になります。雇用契約書の所定労働時間を基準に、(1)週20時間以上で月8.8万円未満の方、(2)壁を意識して収入調整をしている方、の2つのリストを施行1か月前まで(政令案どおりなら2026年9月中)に作りましょう。

シフトと人員計画への影響を見積もる

対象者には「社会保険に加入して今までどおり働く」か「週20時間未満に契約を変更する」かの選択が生じます。扶養内を続けたい方が週20時間未満への変更を希望すると、その分のシフトの穴を埋める必要があります。逆に、どうせ加入するならと勤務時間を増やす方もいます。訪問介護やデイサービスなどパート比率の高い事業所ほど影響が出やすいため、意向確認は早めに行い、人員計画に反映してください。

保険料コストと手続きを確認する

新たに加入する方1人あたりの事業主負担は、標準報酬月額88,000円の場合で月およそ13,000円前後が目安です(厚生年金・健康保険の事業主負担分と子ども・子育て拠出金の合計。料率により変わります)。新たに加入する方は月8.8万円未満が中心のため、健康保険の標準報酬月額はより低い等級になり、実際の負担はこれより下がる場合もあります。本人負担もほぼ同程度が給与から控除されるため、手取りの変化を具体的な金額で示して説明すると納得を得やすくなります。手続きは、施行日時点で要件を満たす方について被保険者資格取得届を日本年金機構へ提出します。なお、保険料負担の軽減措置(当面3年間)は、従業員50人以下の企業などで企業規模要件の見直しなどにより新たに加入対象となる方が対象とされています。賃金要件の撤廃で加入する方が対象になるかは、日本年金機構の案内で確認してください。

パートが社会保険に加入するメリット

保険料の負担が増えることから、加入を避けたいと感じる方もいるかもしれません。しかし、社会保険への加入には、将来や万一のときに役立つメリットがあります。代表的なものは次のとおりです。

  • 将来の年金が手厚くなる:国民年金(基礎年金)に上乗せして厚生年金が受け取れます。老後に終身で受け取れる年金額が増えます。厚生年金と国民年金の関係については、国民年金と厚生年金の違いの記事もあわせてご覧ください。
  • 傷病手当金・出産手当金が受けられる:健康保険に加入すると、病気やけが、出産で会社を休んだときに、収入を補う給付を受けられます。
  • 障害厚生年金・遺族厚生年金の対象になる:万一のときの保障も、国民年金だけの場合より手厚くなります。
  • 保険料を会社と折半できる:社会保険料は会社と本人が半分ずつ負担します。同じ保障を自分だけで備えるより、負担が軽くなります。

数字で見ると判断しやすくなります。月収8.8万円(年収約106万円)のパートが社会保険に加入すると、健康保険・厚生年金の本人負担はおよそ月13,000円前後が目安です(保険料率や加入している健康保険組合により異なります)。手取りは一時的に減りますが、その分は将来の年金額に上乗せされ、加入期間が長いほど老後の受給額として積み上がっていきます。「いつから加入するか」という観点では、上記5要件を満たした時点からです。手取りが一時的に減ることを気にして、就業時間を調整する方もいます。しかし長い目で見ると、厚生年金による将来の年金の上乗せや各種保障は大きな安心につながります。働き方を考える際は、目先の手取りだけでなく、こうした保障面もあわせて検討するとよいでしょう。介護職として長く働くことを考えている方は、ホームヘルパー(介護職員初任者研修)の資格を取得し、安定した働き方をめざすのも一つの方法です。

事業所・管理者向け|加入手続きの注意点とスタッフへの説明Q&A

パートの社会保険は、要件を満たした従業員を加入させずにいると、後から遡って保険料を求められるなど事業所のリスクになります。人事・管理の立場で押さえておきたい点を整理します。

事業所側でありがちな手続きミス

  • 要件を満たした人の加入漏れ:週20時間・月88,000円など(賃金要件は2026年9月30日までの基準)を満たしたら、本人の希望に関わらず加入が必要です。
  • 企業規模の判定を誤る:被保険者数51人以上(現在)の判定を見落とすと、対象者を取りこぼします。
  • 賃金の集計ミス:残業代・賞与・通勤手当などは月88,000円の判定に含めません。含めて計算すると誤判定になります。
  • シフト増で要件を満たしたのに見直していない:途中で労働時間が増えた人の再確認を忘れがちです。

パートスタッフから聞かれたときの説明Q&A

よくある質問 答え方の例
「手取りが減るのが心配」 保険料はかかりますが、会社と折半です。将来の年金が増え、病気やけがのときの傷病手当金も受けられます。
「加入したくないので時間を減らしたい」 週20時間未満に調整すれば対象外にできます(2026年10月に予定される賃金要件の撤廃後は、月収を抑える方法は使えません)。ただし将来の保障も減るため、長い目で一緒に考えましょう。
「いつから加入になる?」 5要件をすべて満たした時点からです。シフトが増えて要件を満たしたら、その時点で対象になります。
「夫の扶養から外れる?」 勤め先の社会保険に入ると扶養から外れます。106万円と130万円の壁は仕組みが違う点も説明します。

今後は企業規模・賃金の要件が段階的に縮小・撤廃され、対象者が増えていきます。自施設の従業員数や各人の勤務時間を一覧で把握し、要件に近い人を早めにリストアップしておくと、改正のたびに慌てずに済みます。手続きや最新の取り扱いは、日本年金機構の短時間労働者に対する適用拡大のページで確認してください。

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まとめ

パート・アルバイトの社会保険(健康保険・厚生年金)への加入は、5つの要件で決まります。(1)週20時間以上、(2)所定内賃金が月額88,000円以上、(3)2か月を超える雇用見込み、(4)学生でないこと、(5)企業規模(被保険者数51人以上)です。月額88,000円という基準が、いわゆる「106万円の壁」です。2025年に成立した年金制度改正法により、企業規模要件は段階的に縮小されます。2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上へと引き下げられ、2035年10月には撤廃されます。賃金要件(月額88,000円)も、2026年10月1日に撤廃される予定です。撤廃後は、週20時間以上かどうかが加入判定の中心になります。最終的には、規模や月収にかかわらず週20時間以上で社会保険に加入する仕組みへと向かいます。加入は保険料の負担が生じる一方で、将来の年金の上乗せや傷病手当金などの保障が手厚くなるメリットがあります。制度の数値は今後も変わる可能性があるため、最新の情報は日本年金機構・厚生労働省の公式情報でご確認ください。

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参考(一次情報)