物価高・他産業流出の時代の人材定着|離職を防ぐ現場の打ち手

※本記事は2026年6月17日時点の公開情報に基づきます。数値は各調査の最新年度に基づき、効果や取り組みは事業所により異なります。

賃上げは進んでいるのに、他産業の賃上げペースが速く、人材が他業種へ流れていく――。物価高のなかで、多くの介護事業所が「採りにくく、辞めさせたくない」という難しい局面に立っています。この記事では、離職率や賃金格差の最新データを押さえたうえで、賃上げ「だけ」に頼らない定着策を、管理者・人事・現場リーダーが取り組める「一例」として整理します。なお、効果は事業所の規模やサービス種別によって異なり、「これをやれば離職が必ず減る」というものではない点を、はじめにお断りしておきます。

まず結論(おさえておきたい3点)
  • 介護職員の離職率は12.8%(令和6年度/2024年)と2年連続で低下。一方で採用率も14.4%へ3年ぶりに低下し、約7割の事業所が人材「不足」と回答しています。「辞めにくくなったが、採りにくくなった」のが現状です。
  • 介護職員と全産業の賃金格差は月およそ8.2万円(2024年)。前年の8.3万円からわずかに縮小しましたが、他産業の賃上げが速く、横ばいにとどまっています。賃金だけで追いつくのは容易ではありません。
  • だからこそ、処遇改善加算の配分設計・負担軽減・ICT・キャリアパス・ハラスメント対策・人間関係づくりを組み合わせた多面的な定着策が現実的です。労務・賃金に関わる部分は専門家への相談を前提に進めるのが安全です。

いま現場で起きていること(データで確認)

まず、思い込みを一度リセットしておきます。介護職員の離職率は近年むしろ低下しており、全産業の平均を下回る水準です。 公益財団法人 介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」(2024年10月時点、2025年7月公表)によると、介護職員の離職率は12.8%で2年連続の低下、採用率は14.4%で3年ぶりに低下しました。参考までに、厚生労働省「雇用動向調査」による全産業の離職率はおおむね14%台で推移しています。

ただし「離職が減った」ことは「人手が足りている」ことを意味しません。同調査では、採用率の低下とあわせて約69%の事業所が介護職員を「不足」と感じていると回答しています。辞める人は減ったが、入ってくる人も減った――この構造が、現場の人材不足感をむしろ強めています。年齢別では「29歳以下」が採用率・離職率ともに高く、若手の出入りが激しい点も特徴です。

賃金格差は「横ばい」で縮まりにくい

厚生労働省が公表したデータ(介護ニュースJoint 2026年4月報道による集計)では、介護職員の賞与込み給与は月31.4万円、全産業平均は39.6万円で、賃金格差は月およそ8.2万円。前年の8.3万円から0.1万円縮まったにとどまります。2024年度の処遇改善加算の拡充・一本化や一時金など賃上げ策が続いても、他産業の賃上げが速いため、格差は「ほぼ横ばい」というのが実情です。賃上げは必要ですが、賃金水準だけで他産業に追いつくことを前提にすると定着策が行き詰まりやすいといえます。

なぜ辞めるのか(離職理由の傾向)

定着策を考える出発点は、辞める理由を知ることです。介護労働安定センターの各年度調査では、介護職員の離職理由として「職場の人間関係に問題があったため」が上位に挙がる傾向が続いています。次いで「結婚・出産・妊娠・育児」「法人や事業所の理念・運営のあり方への不満」「将来の見込みが立たない」などが上位です。なお人間関係の問題は、利用者・家族との関係よりも職員同士の関係に起因する割合が高い点が指摘されています。

同センターの調査では、採用がうまくいっている事業所が挙げる理由の上位にも「職場の人間関係がよいこと」「残業が少なく休暇を取りやすいこと」「仕事と家庭の両立支援が充実していること」が並びます。賃金以外の働きやすさが、定着にも採用にも効いている傾向が読み取れます。ここから、以下の打ち手は「賃金+働きやすさ」の両輪で考えるのが現実的だと整理できます。

離職を防ぐ現場の打ち手(一例)

以下はあくまで取り組みの「一例」です。効果には事業所差があり、自事業所の課題(何が離職の引き金になっているか)に合わせて取捨選択してください。賃金・配分ルールや就業規則に関わる変更は、社会保険労務士など専門家に相談したうえで進めることをおすすめします。

① 処遇改善加算の「配分設計」を見直す

2024年度に処遇改善関連の加算は「介護職員等処遇改善加算」へ一本化されました。加算で得た原資を誰に・どう配分するかは、定着への効き方を左右します。考え方の一例として次のような視点があります。

  • 一時金に偏らせず、基本給・月額の安定的な引き上げにも一定割合を回すと、生活設計の見通しが立ち定着につながりやすいとされます(加算には月額賃金改善の要件もあります)。
  • 経験・技能のある職員への重点配分と、若手・新人の底上げのバランスをどう取るかを、配分ルールとして明文化する。
  • 配分の根拠を職員に説明できるようにし、「なぜこの額なのか」が分かる状態にする(不透明な配分は不満の火種になりやすい)。

配分割合や賃金規程の設計は労務リスクに直結するため、ルール変更時は専門家確認を前提にしてください。

② 業務分担・ノーリフト等で身体的負担を減らす

腰痛などの身体的負担は、特に若手の離職要因になりやすい領域です。打ち手の一例として、

  • 介護補助・周辺業務を担うサポート職(介護助手)との業務分担で、専門職が専門業務に集中できるようにする。
  • ノーリフトケア(持ち上げない介護)やリフト・スライディングシート等の導入で、移乗の負担を下げる。腰痛起因の離職が減ったとする現場事例も報告されています(ただし効果は導入体制・教育により異なります)。
  • 記録・申し送りなどの間接業務の手順を見直し、残業や持ち帰り作業を減らす

③ ICT・生産性向上で「時間」を生む

記録・情報共有・見守りなどの業務をICTで効率化し、生まれた時間をケアや休息に回す考え方です。一例として、

  • 介護記録ソフトやインカム、見守りセンサー等の活用で、転記や巡回の手間を減らす。
  • 導入は「入れて終わり」にせず、運用ルールと教育をセットにする(ツール導入だけでは効果が出にくいとされます)。

※特定の製品・手法を推奨するものではありません。自事業所の規模・課題に合うかを検討してください。

④ キャリアパス・教育で「将来の見込み」を示す

「将来の見込みが立たない」は離職理由の上位です。打ち手の一例として、

  • 等級・役割・必要なスキルと、それに対応する処遇を結びつけたキャリアパスの明示
  • 資格取得支援(実務者研修・介護福祉士等)や研修機会の確保。
  • 新人のOJT・メンター制度で、入職初期の不安を減らす。

⑤ ハラスメント対策と連動させる

職場の人間関係が離職理由の上位である以上、ハラスメント対策は定着策と切り離せません。職員同士・上司部下間のハラスメント防止に加え、利用者・家族からのカスタマーハラスメントへの対応方針も重要です。相談窓口の設置・周知、対応手順の整備、管理者への研修などが一例として挙げられます。法令上の措置義務もあるため、整備状況の点検をおすすめします。

⑥ コミュニケーション・評価の仕組み

定着・採用ともに「良好な人間関係」が効いているデータを踏まえ、関係づくりを仕組みにする視点です。一例として、

  • 定期的な1on1・面談で、不満や悩みを早めに把握する。
  • 評価基準を分かりやすく示し、フィードバックを丁寧に行う(評価への納得感は理念・運営への不満を和らげます)。
  • シフトや休暇の取りやすさなど、働き方の柔軟性を高める。

取り組みを進めるときの注意点

  • 効果には事業所差があります。同じ施策でも、規模・サービス種別・職員構成によって結果は変わります。まず自事業所の離職理由を把握し、効きそうな打ち手から小さく試すのが現実的です。
  • 賃金・配分・就業規則に関わる変更は専門家へ。処遇改善加算の配分ルールや賃金規程の見直しは労務リスクを伴います。社会保険労務士など専門家に相談したうえで進めてください。
  • 数値は時点に注意。離職率・賃金格差は調査年度によって変わります。本記事の数値は令和6年度調査・2024年データ等に基づきます。

まとめ

離職率自体は下がっているものの、採用が細り人材不足感は強まっています。賃金格差は横ばいで、賃上げ「だけ」で他産業に追いつくのは難しい局面です。だからこそ、処遇改善加算の配分設計・負担軽減・ICT・キャリアパス・ハラスメント対策・人間関係づくりを組み合わせた多面的な定着策が現実的です。いずれも「一例」であり、効果は事業所により異なります。自事業所の課題に照らし、専門家の助言も得ながら、できるところから整えていくのがよいでしょう。

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