※本記事は2026年6月17日時点の公開情報に基づきます(2026年9月25日に2027年度概算要求の新事業を追記)。詳細は必ず最新の厚労省・指針でご確認ください。
2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が、すべての事業主の「義務」になります。これは介護だけの話ではなく、改正された労働施策総合推進法による全産業共通のルールです。介護の現場は利用者・家族と密に接するぶんカスハラが起きやすいとされ、早めの準備が安心につながります。この記事では、最低限やっておきたい「相談窓口・マニュアル・研修」の整え方と、運営規程・重要事項説明書を見直すときのポイントを、実務の手順に沿ってかみくだいてお伝えします。
- 2026年10月1日から、カスハラ対策が事業主の「措置義務」になります(改正労働施策総合推進法/令和8年厚生労働省告示第51号の指針による)。介護を含む全業種・全規模が対象です。
- 求められる中心は、①方針の明確化と周知 ②相談に応じる体制(相談窓口)の整備 ③相談があったときの適切な対応です。あわせてマニュアル整備や研修の実施が望ましい取組とされています。
- 介護では令和3年度(2021年)の運営基準改正で、すでにハラスメント対策(雇用管理上の配慮)が求められてきました。今回はそれを土台に、全産業共通の「措置義務」が上乗せされる、という整理で考えると分かりやすいです。
記事でわかること
そもそもこれは何の話?(背景)
カスタマーハラスメントとは、おおまかにいえば顧客・利用者・その家族などからの著しい迷惑行為のことです。厚生労働省は、顧客等の言動のうち、社会通念上相当な範囲を超えたものによって労働者の就業環境が害されるもの、といった考え方を示しています。介護の現場では、利用者・家族からの暴言や過剰な要求、身体的・精神的な攻撃などが想定されます。
今回の大きな変化は、2025年(令和7年)6月11日に公布された改正法(令和7年法律第63号)によって、労働施策総合推進法に「カスハラ防止のための雇用管理上の措置義務」が新たに設けられたことです。施行は2026年(令和8年)10月1日。これは介護向けの特別ルールではなく、従業員を雇うすべての事業主が対象です。
「全産業の法改正」と「介護の運営基準」は別もの
ここはとても混同しやすいので、先に整理します。
① 全産業共通:改正労働施策総合推進法(2026年10月施行)
今回義務化されるのは、こちらです。雇用主としての立場で、職員をカスハラから守る体制を整えることが求められます。業種・規模を問わず適用され、介護事業所も「事業主」として対象になります。
② 介護固有:運営基準(指定基準)上のハラスメント対策
介護では、令和3年度(2021年4月)の介護報酬改定にともなう運営基準の見直しで、事業者にハラスメント対策(雇用管理上の配慮)が求められるようになりました。パワハラ・セクハラについては必要な措置を講じることが、カスハラについては相談体制の整備などの取組が、それぞれ位置づけられています。
つまり、介護はもともと運営基準でハラスメント対策が求められてきたうえに、今回の労働施策総合推進法の改正でカスハラについても全産業共通の措置義務が加わる、という二段構えです。両者は根拠となる法令が異なるため、ニュースや解説で「義務化」と聞いたときは、どちらの話かを確認すると混乱しにくくなります。
事業所が最低限やること(手順)
指針で求められている措置を、実務の流れに置き換えると、次のような手順が考えられます。自事業所の規模や体制に合わせて無理のない範囲から着手するのが現実的です。
- 方針を決めて周知する:「カスハラは職員を守るために組織として対応する」という方針を明確にし、管理者を含む全職員に周知します。利用者・家族にも、契約時などに考え方を伝えておくと予防につながります。
- 相談窓口を設ける:職員が相談しやすい窓口(担当者・連絡先)を決め、誰に・どう相談すればよいかを職員に知らせます。相談したことで不利益な取扱いをしない旨も併せて示します。
- 対応マニュアルを整える:どこからがカスハラかの線引き、起きたときの初期対応、記録の取り方、一人で対応させない体制、行政・警察など外部連携の目安などを、現場で使える形にまとめます。厚労省の介護向けマニュアルや企業向けマニュアルが参考になります。
- 研修を実施する:管理者向け・職員向けに、事例をもとにした研修を行います。厚労省の「研修の手引き」「事例集」「研修動画」を活用すると、自前で一から作らずに済みます。
- 記録・見直しの仕組みをつくる:発生事案を記録し、再発防止や手順の改善につなげます。既存の高齢者虐待防止やハラスメント対策の委員会・研修と一体で運用すると負担を抑えられます。
※「相談窓口の設置」「マニュアル策定」「研修」は、指針上は措置義務の中核部分(体制整備など)と、望ましい取組とが混在しています。何が必須で何が推奨かは、最終的に指針・通達の本文でご確認ください。
運営規程・重要事項説明書の見直しポイント
介護事業所では、運営規程や重要事項説明書に「虐待の防止のための措置」などを記載しています。カスハラ対策の体制を整えるのにあわせて、これらの書類でハラスメント・カスハラへの対応方針をどう示すかを点検しておくと、利用者・家族との認識合わせがしやすくなります。
- 運営規程・重要事項説明書に、ハラスメント・カスハラに関する考え方や対応方針を記載するかどうかを検討する。
- 記載を追加・変更する場合は、変更手続き(自治体への届出の要否や、利用者への説明・同意の取り直し)を、指定権者(市区町村・都道府県)に確認する。
- 記載例や様式は自治体が公開していることがあるため、自事業所の所在地の自治体ページもあわせて確認する。
※運営規程・重要事項説明書への記載が義務かどうか、また様式は、自治体・サービス種別によって取扱いが異なる場合があります。変更前に必ず指定権者にご確認ください。
「義務化=罰則」と早合点しないために
「義務化」と聞くと、すぐに罰則を思い浮かべがちですが、今回の措置義務は、まず事業主が体制を整えることを求めるものです。求められる措置の範囲は指針で示されており、その内容を踏まえて対応することが基本になります。過度に身構えるよりも、相談窓口・マニュアル・研修という土台を順番に整えることが、職員を守り、結果として事業所のリスクを下げることにつながります。
なお、具体的な指導・監督の枠組みや、対応が不十分な場合の取扱いは、法令・指針・通達で定められています。自事業所での対応を判断する際は、本記事の要約ではなく、厚労省の指針・通達の本文と、所管の労働局・自治体の案内をご確認ください。
【2026年9月25日追記】防犯・安全確保にも国の補助へ|2027年度概算要求に盛り込まれた2つの新事業
10月1日の義務化を目前に、国の予算面でも動きがありました。厚生労働省が8月末に財務省へ提出した2027年度(令和9年度)概算要求に、在宅系サービスの事業所とケアマネジャーの安全確保を支援する新事業が2つ盛り込まれています。
| 事業名(要求額) | 主な支援内容 |
|---|---|
| 地域の訪問介護等体制づくり支援事業(新規・34億円)のうち「地域における在宅系サービス継続のための安全対策推進支援」 | 在宅系サービス事業所を対象に、業務中の危険回避・安全確保に役立つ備品等の導入、カスタマーハラスメント防止に向けた関係機関との連携体制の構築、事業所・市町村が必要と判断した場合の複数名での同行訪問を支援 |
| ケアマネジャーが安心して働ける環境づくり支援事業(新規・49億円)のうち「ケアマネジャーが安心して働ける体制の確保に係る支援」 | ハラスメント等に対応する体制整備や防犯対策、複数名での同行訪問など、ケアマネジャーの安全確保に資する取り組みを支援(報道では居宅介護支援事業所が対象とされています) |
備品の例として、報道では防犯カメラ・GPS機器・ICレコーダー・防護ベスト・護身用スプレー・防災用品・クマよけのエアホーンなどが挙げられています。自治体や警察、法律の専門家と協議の場を設ける経費も支援する意向とされます。背景には、利用者や家族による暴力・暴言・迷惑行為があります。加えて、2026年6月に利用者宅でケアマネジャーが命を落とす事件が起きたこと、自然災害や野生動物による危険が増えていることも挙げられています。
注意点は2つです。第一に、これは要求段階で、年末の予算編成で金額や補助の条件が決まります。補助の受付時期や交付ルートは、2027年度の実施要綱で示される見込みです。なお両事業には令和7年度補正予算(それぞれ56億円・14億円)も計上されており、自治体によっては2026年度中に類似の支援が動く可能性があります。自治体の高齢福祉主管課からの通知を確認してください。第二に、補助が付くのを待つ理由にはなりません。10月1日の義務化で求められるのは相談窓口・マニュアル・研修という体制面の整備であり、備品の購入は義務ではありません。まずは本記事で整理した3つの柱を10月までに整えてください。そのうえで「訪問時の安全ルール」(複数名訪問の基準、訪問中止の判断基準、緊急時の連絡先)を職場のマニュアルに加えておくと、補助が具体化したときにすぐ動けます。
なお、2027年度の介護報酬改定に向けた社会保障審議会介護給付費分科会でも、8月28日の第263回でカスタマーハラスメント対策が横断的な論点の一つとして取り上げられています。報酬上の評価につながるかは今後の議論次第で、動きは2027年度介護報酬改定の解説記事で追っています。
今後のスケジュール(見込み)
- 2025年6月11日:改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)公布
- 2026年2月26日:カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)公布
- 2026年4月:関係する通達・Q&A等の発出
- 2026年10月1日:改正法・指針の施行(カスハラ対策が事業主の措置義務に)
まとめ&次にチェックすべきこと
2026年10月1日からのカスハラ対策義務化は、介護を含むすべての事業主が対象です。介護事業所はすでに運営基準でハラスメント対策に取り組んできた経緯があるため、それを土台に、相談窓口・対応マニュアル・研修という3つの柱を、施行までに無理のない範囲で整えていくのが現実的です。あわせて、運営規程・重要事項説明書の記載の見直しが必要かを、所管の自治体に確認しておくと安心です。次のステップとして、厚労省の指針・リーフレットと介護向けマニュアルに一度目を通すことをおすすめします。なお、障害福祉サービス事業所の整え方は、障害特性に由来する行動とカスハラの線引きなど固有の論点があるため、障害福祉事業所のカスハラ対策の解説記事で別途まとめています。本サイトでも続報を追っていきます。
出典
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(カスハラ対策義務化・指針の案内):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
- 厚生労働省 リーフレット(詳細版)「2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策等が義務化されます!」:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662580.pdf
- カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号):https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
- 厚生労働省 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
- 厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(PDF):https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」関連(東京都福祉局・マニュアル/研修の手引き/事例集の入口):https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/kaigo_lib/kaigo_harasu
- 厚生労働省老健局「令和9年度概算要求の概要」(地域の訪問介護等体制づくり支援事業・ケアマネジャーが安心して働ける環境づくり支援事業)
- 介護ニュースJoint「厚労省、介護事業所のカスハラ・防犯対策に補助 概算要求に新事業」(2026年9月8日)
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