この記事は、相談支援専門員の資格を持ち独立を考えている人と、法人の新規事業担当者に向けて書いています。「1人で開業できるのか」「自宅を事務所にできるのか」「何件担当すれば成り立つのか」という、開く側が最初にぶつかる疑問に答えます。
結論から言うと、特定相談支援事業所は法人格と相談支援専門員1名(管理者兼務)がそろえば1人でも開業できます。ただし、報酬は「計画を作った月」と「モニタリングをした月」にしか発生しません。担当件数を積み上げるまでの期間の乗り切り方が成否を分けます。
本記事では、相談支援の3種類の違い、1人開業・自宅開業の可否、指定基準、相談支援専門員の要件を整理します。続けて、令和6年度改定と令和8年6月改定を反映した報酬と収支の目安、指定申請と国保連請求の流れを解説します。数値は厚生労働省・自治体の一次情報で確認しています。
記事でわかること
相談支援事業所の3つの種類:特定・障害児・一般の違い
相談支援事業所には3種類があり、指定を受ける先も報酬の仕組みも異なります。独立開業で最も多いのは、特定相談支援と障害児相談支援を同時に指定申請するパターンです。両者は同じ事業所・同じ相談支援専門員で兼務できます。
| 種類 | 主な業務 | 対象者 | 指定権者 |
|---|---|---|---|
| 特定相談支援 | 計画相談支援(サービス等利用計画の作成・モニタリング)と基本相談支援 | 障害福祉サービスを使う障害者(18歳以上が中心) | 市町村 |
| 障害児相談支援 | 障害児支援利用援助(障害児支援利用計画の作成・モニタリング) | 放課後等デイサービスなど障害児通所支援を使う児童 | 市町村 |
| 一般相談支援 | 地域移行支援・地域定着支援と基本相談支援 | 施設・病院からの地域移行や、単身生活の見守りが必要な障害者 | 都道府県(政令市・中核市) |
一般相談支援では、沖縄県のように3か月前までの事前協議を求める自治体もあります。
厚生労働省の令和6年調査(令和6年4月時点)では、指定特定・障害児相談支援事業所は全国12,324か所、相談支援専門員は28,661人です。計画相談支援のセルフプラン率は15.8%、障害児相談支援は30.7%です。セルフプラン(本人や家族が作る計画)の解消は国の課題で、相談支援事業所には需要があります。
1人開業・自宅開業はできるのか
特定相談支援事業所は、法人格を持ち、相談支援専門員1名が管理者を兼務すれば1人で開業できます。自宅開業も、事務室と相談スペースの要件を満たし、市町村が認めれば可能です。ただし、求める水準に自治体差があるため、必ず事前相談をしてください。
管理者と相談支援専門員の兼務
指定計画相談支援の基準省令(平成24年厚生労働省令第28号)は、事業所ごとに専従の管理者を置くよう定めています。ただし「管理上支障がない場合」は他の職務との兼務を認めています(第4条)。相談支援専門員も「業務に支障がない場合」は兼務できます(第3条)。
この規定により、相談支援専門員1名が管理者を兼ねる「1人事業所」が成立します。ただし、担当者が欠けた瞬間に事業が止まる弱さを抱えます。
事務室・相談室の要件
基準省令第21条は「事業を行うために必要な広さの区画」と「必要な設備及び備品等」を求めるだけで、面積や部屋数の数値基準はありません。運用は指定権者に委ねられ、多くの市町村が次の3点を求めます。
- 事務室:専用が望ましいが、間仕切りなどで明確に区分できれば他事業との共用も可
- 相談スペース:利用者が出入りしやすく、プライバシーが確保できる構造
- 個人情報の保管:鍵のかかる書庫
自宅の一室を事務室にする場合、生活空間と区分できるか、来客が家族の生活動線を通らずに相談室へ入れるかを図面で説明します。
自治体差がある項目
自宅開業の可否、相談室の独立性、賃貸借契約書の写しの要否は、指定権者ごとに扱いが違います。市町村の指定申請の手引きを入手し、事前相談で写真や図面を見せて判断を仰ぎます。
指定基準:人員・設備・運営の3本柱
指定を受けるには、基準省令が定める人員基準・設備基準・運営基準をすべて満たす必要があります。
人員基準
- 管理者:1名(専従が原則、支障がなければ兼務可)
- 相談支援専門員:1名以上(常勤・非常勤を問わない)
- 配置の標準:計画相談支援の対象者35人またはその端数を増すごとに1人
設備基準
前述の事務室・相談スペース・鍵付き書庫の3点が実務上の確認項目です。相談支援は利用者の居宅を訪問して行うため、訓練室や送迎車は不要で、設備投資は小さく済みます。
運営基準
運営基準で特に見られるのは次の項目です。運営規程に落とし込みます。
- 重要事項説明と契約:利用申込時に運営規程の概要などを文書で説明し同意を得る(第5条)
- アセスメント・計画案作成・サービス担当者会議・モニタリングの手順(第15条)
- 記録の保存:サービス提供日から5年間(第30条)
- 虐待防止委員会の設置、業務継続計画(BCP)の策定
虐待防止措置未実施減算とBCP未策定減算は相談支援にも適用されます。開業初年度から体制を整えないと基本報酬が減算されます。詳細は虐待防止の義務とBCP未策定減算の記事で確認してください。
相談支援専門員になる要件と研修
相談支援専門員は「実務経験」と「相談支援従事者初任者研修の修了」の両方を満たした人です。要件は厚生労働省告示第227号(平成24年)で定められています。
- 相談支援業務(相談支援事業所・児童相談所・福祉事務所など):通算5年以上(従事日数900日以上)。平成18年9月30日以前の旧制度下の相談支援業務は3年以上
- 直接支援業務(施設・事業所での介護など。社会福祉主事任用資格などの有資格者):通算5年以上
- 直接支援業務(無資格):通算10年以上
- 医師・看護師・社会福祉士・精神保健福祉士などの国家資格を持ち、その資格に基づく業務が5年以上ある人:相談支援または直接支援の経験3年以上と組み合わせて要件を満たす
初任者研修は都道府県が実施し、東京都の場合は7日間です。修了後は5年ごとに現任研修を受けなければ資格を維持できません。主任相談支援専門員研修を修了すると、後述する配置加算の要件に関わります。
研修は定員超過で受講できない年もあります。資格を確保してから法人設立に進む順番が安全です。研修制度の詳細は相談支援従事者研修の記事にまとめています。職種そのものの解説は相談支援専門員とはを参照してください。
報酬のしくみ:サービス利用支援費と機能強化型
計画相談支援の報酬は、計画を作成した月の「サービス利用支援費」と、モニタリングを実施した月の「継続サービス利用支援費」の2本立てです。どちらも1件あたり月単位で、利用者負担はありません。1単位はおおむね10円で、地域区分により上乗せがあります。
| 区分 | サービス利用支援費(計画作成月) | 継続サービス利用支援費(モニタリング月) |
|---|---|---|
| 機能強化型(I) | 2,014単位 | 1,761単位 |
| 機能強化型(II) | 1,914単位 | 1,661単位 |
| 機能強化型(III) | 1,822単位 | 1,558単位 |
| 機能強化型(IV) | 1,672単位 | 1,408単位 |
| 基本報酬(I) | 1,572単位 | 1,308単位 |
| 基本報酬(II)取扱件数40件以上の部分 | 732単位 | 606単位 |
障害児相談支援は「障害児支援利用援助費」(I)1,766単位、「継続障害児支援利用援助費」(I)1,448単位です。計画相談支援より高く設定されています。
40件を超えると報酬が半分以下になる
相談支援専門員1人あたりの取扱件数が40件以上になると、超えた分は(II)の単位数で算定されます。取扱件数は前6か月の利用者数の平均を相談支援専門員の平均員数で割って求めます。「(取扱件数-39)×平均員数」の件数が(II)の対象です。
このため、担当を増やせば増やすほど儲かる構造にはなっていません。1人あたり35~39件を上限の目安に、それ以上は2人目を採用する設計が現実的です。
機能強化型の要件
機能強化型は基本報酬の上位区分です。(I)~(III)は常勤専従の相談支援専門員を4名・3名・2名以上、(IV)は専従2名以上(うち1名は常勤専従で現任研修修了)が必要です。共通要件は週1回程度の定期会議、支援困難ケースの受け入れ、事例検討会と新規採用者研修です。基幹相談支援センターとの連携と取扱件数40件未満も必要です。
(I)~(III)は協議会への定期的な参画も求められ、(I)(II)は24時間の連絡体制が必要です。1人開業では機能強化型は取れません。2人目を採用したときに(IV)を目指します。
主な加算
- 初回加算:新規利用時に300単位(障害児相談支援は500単位)
- 集中支援加算:計画作成月以外の訪問・会議開催・会議参加・通院同行に各300単位、情報提供に150単位
- サービス担当者会議実施加算:モニタリング月にサービス担当者会議を開くと100単位
- 主任相談支援専門員配置加算:(I)300単位・(II)100単位。令和6年度改定で(I)が新設された
- 地域生活支援拠点等機能強化加算:500単位。機能強化型(I)(II)を算定する事業所に限る
令和8年6月から処遇改善加算の対象に
令和8年6月施行の報酬改定で、計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援が初めて福祉・介護職員等処遇改善加算の対象になりました。加算率は5.1%です。算定には加算(IV)に準ずる要件(キャリアパス要件・職場環境等要件)か令和8年度の特例要件を満たし、届出を出します。
2026年に開業するなら、指定申請と同時に処遇改善加算の計画書提出を準備してください。改定全体は令和8年6月施行の報酬改定、加算の仕組みは処遇改善加算の記事で解説しています。
担当件数と収支の現実:1人事業所の試算
相談支援の収入は、担当件数ではなく「その月に計画作成またはモニタリングをした件数」で決まります。モニタリングの標準期間はサービスごとに次のとおりです。
- 新規または支給決定に大きな変更があった利用者:利用開始から3か月間は毎月
- 居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護・短期入所・就労移行支援・自立訓練・就労定着支援・共同生活援助(日中サービス支援型):3か月ごと
- 生活介護・就労継続支援・共同生活援助(その他)・障害児通所支援・施設入所支援:6か月ごと
つまり、担当35件でも毎月請求できるのは一部です。標準期間は市町村が個別に設定し、必要に応じて短くできます。以下は基本報酬(I)、1単位10円、地域区分の上乗せなしで計算した試算例です。
| 項目 | 立ち上げ期(担当15件) | 安定期(担当38件) |
|---|---|---|
| 計画作成(月) | 3件×1,572単位=4,716単位 | 3件×1,572単位=4,716単位 |
| モニタリング(月) | 5件×1,308単位=6,540単位 | 12件×1,308単位=15,696単位 |
| 初回加算 | 3件×300単位=900単位 | 2件×300単位=600単位 |
| 月間給付費の目安 | 約12万円 | 約21万円 |
計画相談支援だけで1人分の人件費と事務所経費をまかなうには、担当件数を上限近くまで積み上げ、加算と処遇改善加算を算定する必要があります。安定期でも月20万円台が上限に近い水準です。担当35件に届くまでは、市町村や基幹相談支援センターの紹介がなければ1年以上かかることもあります。
開業資金と法人格
相談支援事業所は、障害福祉サービスの中で最も少ない初期投資で開業できます。事務室と相談スペース、パソコン・電話・鍵付き書庫・請求ソフトがあれば始められます。
それでも運転資金は必要です。給付費はサービス提供月の翌月10日までに国保連(国民健康保険団体連合会)へ請求し、その翌月に入金されます。指定日から初回入金までおよそ2か月の空白があり、立ち上げ期は月10万円台の収入が続きます。最低でも6か月分の人件費と家賃を手元に置いてから開業するのが安全です。
申請者は法人であることが必要です。株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人のいずれでも指定を受けられます。定款の事業目的に「障害者総合支援法に基づく特定相談支援事業」「児童福祉法に基づく障害児相談支援事業」の記載が必要です。法人格の選び方は障害福祉事業の法人格、資金調達は障害福祉事業の開業資金の記事で詳しく解説しています。
指定申請の流れとスケジュール
指定申請は事業所所在地の市町村に行います。多くの市町村が毎月1日を指定日とし、その前月中旬を申請締切にしています。事前相談から指定まで、余裕を見て3~4か月を確保してください。
| 時期の目安 | やること | 注意点 |
|---|---|---|
| 4か月前 | 市町村へ事前相談、手引きの入手、相談支援専門員の要件確認 | 実務経験証明書は前職法人への依頼に時間がかかる |
| 3か月前 | 法人設立または定款変更、物件の確保、平面図の作成 | 定款の事業目的の記載漏れは差し戻しの定番 |
| 2か月前 | 運営規程・重要事項説明書・契約書の作成、申請書類の提出 | 虐待防止・BCP・個人情報の体制も確認される |
| 指定月 | 指定通知の受領、電子請求の利用開始手続き、処遇改善加算の届出 | 指定前に利用者と契約しても報酬は算定できない |
提出書類は、指定申請書と付表、登記事項証明書と定款、経歴書と実務経験証明書、研修修了証の写し、平面図と写真、運営規程などです。障害児相談支援を同時に申請する場合、書類の多くを共用できます。
差し戻しを防ぐ書き方は、指定申請 完全ガイドにまとめています。障害福祉事業全体の立ち上げ手順は障害福祉事業所の立ち上げ方法を参照してください。
請求実務:国保連請求とモニタリング月のずれ
計画相談支援給付費は、電子請求受付システムを通じて国保連へ請求し、締切はサービス提供月の翌月10日です。開業と同時に電子証明書の取得と請求ソフトの準備が必要です。
相談支援の請求で特徴的なのは「モニタリング月のずれ」です。継続サービス利用支援費は、市町村が定めたモニタリング月に居宅を訪問し、報告書を作成した場合にだけ算定できます。訪問が翌月にずれると、その月の請求はできません。よくあるミスは次の3つです。
- 支給決定の終期月にモニタリングを入れ忘れ、更新申請の計画案が間に合わない
- モニタリング対象月の設定が受給者証と請求データで食い違い、返戻になる
- 居宅を訪問せず事業所や電話だけで済ませ、算定要件を満たさない(居宅訪問は必須)
請求の流れは国保連請求の流れ、開業直後の初回請求で確認すべき項目は開業後はじめての国保連請求チェックリストで解説しています。
失敗パターンと撤退リスク
初期投資が小さい分、参入も撤退も起こりやすい事業です。
- 紹介ルートがないまま開業し、半年たっても担当10件に届かない
- 1人事業所で担当者が体調を崩し、モニタリングが滞って給付費が止まる
- 担当件数を40件超まで増やし、超過分が(II)の単位数になって収入が伸びない
- 虐待防止・BCP・情報公表の未対応で減算を受ける
対策は、開業前に市町村・基幹相談支援センター・地域の事業所との関係を作ること、2人体制への移行時期を最初から計画に入れることです。
よくある質問
相談支援専門員の資格だけで、法人を作らずに開業できますか
できません。指定は法人単位で受けるため、個人事業では申請できません。法人を設立し、定款に相談支援事業を記載してから申請します。
自宅を事務所にした場合、家賃の代わりに何を提出しますか
持ち家なら登記事項証明書、賃貸なら事務所利用を認める所有者の同意書を求められることが多いです。生活空間と区分した平面図と写真も必要です。
自法人の障害福祉サービス利用者の計画を、自法人の相談支援事業所が作れますか
制度上は禁止されていませんが、公正中立の観点から市町村が割合の上限を設ける場合があります。指定権者に確認してください。
令和8年6月からの処遇改善加算は、1人事業所でも取れますか
取れます。加算率5.1%は事業所の規模を問いません。ただし、キャリアパス要件と職場環境等要件を満たす計画書の届出が必要です。役員だけで職員がいない法人は賃金改善の対象者の扱いが変わるため、指定権者に確認してください。
まとめ:1人開業は可能だが、件数と体制の設計が成否を分ける
特定相談支援事業所は、法人格と相談支援専門員1名で開業でき、自宅開業も要件を満たせば認められます。ただし、報酬は計画作成月とモニタリング月にしか発生せず、40件を超えると単価が半分以下になります。1人あたり35~39件を上限に、2人目の採用と機能強化型(IV)への移行を最初から計画に入れてください。
令和8年6月から処遇改善加算の対象になったことは追い風です。指定申請・処遇改善加算の届出・国保連請求の体制を同時に整え、紹介ルートを開業前に作っておくことが立ち上げ期を乗り切る最短の道です。
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参考(一次情報)
- 指定計画相談支援の事業の人員及び運営に関する基準(平成24年厚生労働省令第28号・厚生労働省)
- 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)
- 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(厚生労働省)
- 相談支援に関するQ&A(令和6年4月5日事務連絡・厚生労働省障害福祉課)
- 令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)
- 令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(厚生労働省)
- 障害者相談支援事業の実施状況等について(令和6年調査・厚生労働省)
- 相談支援専門員の要件(東京都福祉局)
- 機能強化型サービス利用支援費の要件(仙台市)
- 計画相談支援の加算について(大分市障害者自立支援協議会)
- 標準的なモニタリング期間及び加算等について(大田区)
- 相談支援事業者の指定手続き(沖縄県)
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- 計画作成担当者
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- 相談支援専門員
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 視能訓練士
- 技師装具士
- 手話通訳士
- 歩行訓練士
- その他



