障害福祉サービスの指定申請とは、都道府県などの自治体から「指定事業者」として認めてもらう手続きです。指定を受けるまでは事業を始められず、給付費(報酬)も請求できません。
結論から言うと、準備開始から指定までは最短でも3~4か月かかります。多くの自治体が毎月1日付で指定し、その2~3か月前に事前協議や申請の締切を置いているためです。
この記事は、障害福祉サービスの開設準備を進めている方に向けたガイドです。指定制度の仕組みから、申請の流れ、必要書類、行政書士費用の相場までを解説します。自分で申請するか外注するかの判断材料も、一次情報へのリンクつきでまとめました。
記事でわかること
指定申請とは|指定がなければ報酬を請求できない
障害福祉サービスは、障害者総合支援法に基づく公費のサービスです。利用者の自己負担は原則1割で、残りは自治体が負担します。事業者がこの給付費を受け取るには、自治体から指定を受けた「指定障害福祉サービス事業者」であることが前提になります。
つまり指定申請は、事業のスタートラインに立つための手続きです。人員や設備の基準を満たしていることを書類で証明し、審査を通過してはじめて指定されます。指定には6年の有効期間があり、期限ごとに更新申請が必要です。
指定権者は都道府県・政令市・中核市
指定を行う自治体を「指定権者」と呼びます。原則は都道府県ですが、政令指定都市と中核市には権限が移譲されています。事業所の所在地がどこかで申請先が変わるため、最初に確認してください。
さらに大阪府のように、一般の市町村へ指定・指導権限を移譲している地域もあります。東京都は2023年4月から、指定申請の受付業務を東京都福祉保健財団に委託しています。窓口の形は地域ごとに違うと覚えておきましょう。
児童系サービスはこども家庭庁の所管
児童発達支援や放課後等デイサービスは、児童福祉法に基づく障害児通所支援です。2023年4月のこども家庭庁発足にともない、制度の所管は厚生労働省から移管されました。報酬改定などの最新情報はこども家庭庁が発信しています。
申請先は大人向けサービスと同じく、都道府県・政令市・中核市が基本です(児童相談所設置市が担う地域もあります)。児童系の開設手順は放課後等デイサービスの開業ガイドで詳しく解説しています。
申請前に確認する3つの条件と総量規制
申請書を書き始める前に、「法人格・人員・物件」の3条件を固める必要があります。どれか1つでも欠けたままでは、申請自体を受け付けてもらえません。加えて、地域によっては総量規制という壁があります。
条件1:法人格と定款の事業目的
個人事業では指定を受けられません。株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人などの法人格が必要です。
見落としやすいのが定款の事業目的です。「障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業」のように、行う事業が特定できる文言を入れておく必要があります。文言が足りないと、定款変更と登記のやり直しで1か月単位のロスが出ます。法人設立から開業までの全体像は障害福祉事業所の立ち上げ方法で確認してください。
条件2:人員基準
サービスごとに、管理者・サービス管理責任者(サビ管)・直接支援職員などの配置基準があります。基準の正本は国の省令です。大人向けサービスは指定障害福祉サービスの人員・設備・運営基準(平成18年厚生労働省令第171号)、児童系は指定通所支援の基準(平成24年厚生労働省令第15号)で定められています。
つまずきやすいのは、常勤換算の計算と、サビ管・児発管(児童発達支援管理責任者)の実務経験要件です。候補者の経歴が要件を満たすか、研修の修了状況はどうかを、採用を決める前に指定権者へ確認しておくと安全です。
条件3:物件・設備基準
訓練・作業室の広さ、相談室、トイレ・洗面設備など、サービスごとの設備基準があります。あわせて建築基準法の用途変更の要否と、消防法の消防用設備も確認が必要です。
物件は指定申請で最も出費が大きい要素です。賃貸借契約を結ぶ前に、図面を持って指定権者と消防署へ相談してください。契約後に基準不適合が判明すると、改修費か違約金のどちらかを負担することになります。
地域の総量規制に注意
3条件を満たしても指定されないことがあります。総量規制です。生活介護・就労継続支援A型・B型(特定障害福祉サービス)は、地域の障害福祉計画で定めた必要量に達している場合、指定権者が指定を拒否できます。石川県のように、手引きで総量規制を明示している自治体もあります。
児童福祉法にも同様の規定があり、放課後等デイサービスの新規指定を抑制している都市部の自治体があります。さらに2024年4月からは、市町村の意見をふまえて指定に条件を付けられる仕組みも導入されました。物件を探し始める前に、開設予定地で総量規制が敷かれていないかを必ず確認してください。
指定申請の流れとスケジュール|毎月1日指定が基本
標準的な流れは「事前協議→申請書提出→審査→指定」の4段階です。多くの自治体が毎月1日付で指定を行い、そこから逆算して締切を設定しています。
| 時期(目安) | やること |
|---|---|
| 指定日の3か月前まで | 事前協議・事前相談(予約制の自治体が多い) |
| 指定日の2か月前まで | 申請書類の提出(前々月末を締切とする自治体もある) |
| 提出後~指定前月 | 書類審査・補正対応・必要に応じて現地確認 |
| 毎月1日 | 指定・指定通知書の交付・事業開始 |
実例を挙げます。西宮市は原則毎月1日指定で、申請書類は指定日の2か月前まで、事前協議は3か月前までに行う運用です。大阪市も毎月1日指定で、指定月の3か月前に事前協議、2か月前に予約制の申請受付という流れを公開しています。
事前協議の要否はサービスによって異なります。石川県の例では、就労系やグループホームは事前協議が必須で、居宅介護などの訪問系は不要です。訪問系は書類も比較的少なく、スケジュールを短縮しやすいサービスです。
注意したいのは、締切を1日過ぎるだけで指定が翌月1日にずれる点です。家賃と人件費だけが出ていく空白の1か月が生まれます。開業希望日から逆算し、1か月の予備を持たせた計画を組んでください。
必要書類一覧|骨格は全国共通
必要書類は自治体とサービス種別で細部が異なりますが、骨格は共通です。代表的な書類を表に整理しました。
| 区分 | 主な書類 | ポイント |
|---|---|---|
| 申請書本体 | 指定申請書/サービス別の付表/誓約書/役員名簿 | 様式は指定権者のサイトから最新版を入手する |
| 法人関係 | 定款/登記事項証明書 | 事業目的の文言を事前に確認する |
| 人員関係 | 勤務形態一覧表/組織体制図/資格証の写し/実務経験証明書 | 実務経験証明書は前職法人の証明が必要で時間がかかる |
| 物件・設備関係 | 平面図/内外の写真/設備・備品一覧/賃貸借契約書の写し | 面積・区画が基準に合うか図面段階で確認する |
| 運営関係 | 運営規程/重要事項説明書/苦情解決の措置概要/協力医療機関との契約内容 | 運営規程は報酬算定・加算と整合させる |
| 財務関係 | 収支予算書/財産目録 など | 自治体により要否・様式が異なる |
正確な一覧は指定権者の手引きが正本です。名古屋市の指定申請・指定基準の手引き(令和7年7月・第15版)のように、チェックリストつきで公開する自治体が多くあります。北海道も申請のしおり(令和7年10月改正版)を公開しています。
指定申請は自分でできる?難易度と向き不向き
結論として、指定申請は自分でできます。行政書士への依頼は義務ではなく、手引きどおりに書類を揃えれば個人でも指定は取れます。問題は書類の難しさよりも、開業準備と並行してやり切れるかどうかです。
自分での申請が向いているケース
- 居宅介護・重度訪問介護など、訪問系で必要書類が比較的少ない
- 開業希望日まで4か月以上の余裕がある
- 法人運営や行政手続きの経験者が社内にいる
- 平日の日中に、役所との電話・訪問対応ができる
つまずきやすいポイント
- 実務経験証明書の収集(前職法人の協力が得られず数週間止まる)
- 常勤換算・兼務ルールの読み違いによる人員基準の不備
- 物件の用途変更・消防設備の確認漏れ
- 補正(書類の修正指示)の往復で締切に間に合わない
書類の作成と収集には相応の時間がかかります。開業準備は物件・採用・利用者募集と同時進行のため、代表者が申請実務を抱え込むと全体が遅れがちです。時間を買うつもりで専門家に任せるのも、合理的な経営判断のひとつです。
行政書士に依頼する場合の費用相場と選び方
新規指定申請の代行報酬は、10万~25万円程度(税込)が目安です。複数の行政書士事務所の公表価格を確認すると、訪問系で13万~16万円前後、通所系・就労系・グループホームで17万~20万円前後の例が中心でした。行政書士報酬は自由化されており、地域や事務所によって幅があります。
| サービス種別 | 公表価格の目安(税込) |
|---|---|
| 居宅介護・重度訪問介護など訪問系 | 約13万~16万円 |
| 就労移行支援・就労継続支援A型/B型 | 約17万~20万円 |
| 児童発達支援・放課後等デイサービス | 約17万~20万円 |
| 共同生活援助(グループホーム) | 約18万~20万円 |
ここに法人設立、図面作成、消防手続き、処遇改善加算の届出などを足すと、総額で30万円を超える場合もあります。金額を比べるときは、見積りに何が含まれているかを必ず確認してください。
選び方のチェックポイント
- 障害福祉分野の申請実績があるか(介護保険専門の事務所とは別物)
- 開設予定地の指定権者で申請した経験があるか
- 事前協議への同行・補正対応・体制届まで見積りに含まれるか
- 指定後の変更届・更新・加算の相談まで対応できるか
- 2~3か所から見積りを取り、金額と範囲を比較したか
都道府県・市で違う点|必ず指定権者の手引きを確認
指定申請のルールは全国一律ではありません。国の法令が土台にあり、その上に指定権者ごとの手引き・様式・運用が載っています。他県の情報だけを頼りに準備すると、締切や添付書類の違いで足をすくわれます。
- 手引き・様式:名古屋市は第15版、北海道は令和7年10月改正版、大阪府は令和7年6月改正版など、毎年のように更新される
- 事前協議:要否・対象サービス・予約方法が異なる。東京都のように説明会参加や事前相談を前提とする地域もある
- 締切:2か月前提出が多いが、予約制や前々月末締切など細部は自治体ごとに違う
- 総量規制・市町村協議:対象サービスと運用は地域差が大きい
国レベルでも見直しが進んでいます。こども家庭庁の審議会資料(2025年7月)では、2026年4月1日に指定申請の標準様式を改正する予定が示されました。年度をまたぐ開設計画では、様式の切り替えに注意してください。迷ったら「自治体名+障害福祉サービス+指定申請」で検索し、指定権者の公式ページを正とする。これが鉄則です。
よくある差し戻し・不指定のパターン
差し戻しの多くは、審査ではなく準備段階の確認不足が原因です。典型例を知っておけば、ほとんどは避けられます。
- サビ管・児発管の要件不備:実務経験年数の不足や研修未修了。人員関係で最も多いつまずきです。
- 常勤換算の計算ミス・兼務違反:勤務形態一覧表の数字が基準に届かず補正になります。
- 定款の事業目的の文言不足:定款変更と登記のやり直しで指定月がずれます。
- 物件の法令不適合:用途変更の未了や消防用設備の不足。契約後に判明すると被害が大きい項目です。
- 締切・予約の失念:受付期間や事前協議の予約を逃し、指定が1か月遅れます。
- 総量規制地域での申請:計画上の必要量に達していて、そもそも指定されないケースです。
これらの大半は、事前協議の段階で指摘してもらえます。事前協議は面倒な関門ではなく、無料で受けられる書類チェックです。準備が粗い段階でも早めに相談する方が、結果的に近道になります。
指定後にすぐやること|指定はゴールではない
指定通知書を受け取っても、報酬が入金されるまでには手続きが続きます。指定月のうちに、次の4つを片付けてください。
体制届(加算の届出)
加算を算定するには、体制届(介護給付費等の算定に係る体制等に関する届出)が必要です。多くの自治体で、算定を始めたい月の前月15日までが提出期限です。届け忘れると、その加算は翌月以降しか算定できません。取得を検討すべき加算は障害福祉の加算一覧で確認できます。
国保連請求の準備
報酬は国保連(国民健康保険団体連合会)の電子請求受付システムで請求します。請求期間は毎月1日~10日。ID・パスワードの取得と請求ソフトの準備を、初回請求の前月までに済ませてください。入金はサービス提供月の翌々月のため、開業後2か月あまりは収入ゼロで回せる運転資金が前提になります。ID取得から初回請求までの時系列チェックリストは開業後はじめての国保連請求チェックリストにまとめています。
運営指導への備え
指定後は、数年以内に運営指導(旧・実地指導)が入ります。個別支援計画・サービス提供記録・契約書類は、開業初日から基準どおりに整備しておきましょう。準備のポイントは運営指導の解説記事にまとめています。
情報公表制度への登録
障害福祉サービス等情報公表制度により、事業所情報の報告・公表が義務づけられています。公表先はWAM NETです。利用者・相談支援専門員が事業所を探す入口にもなるため、早めに整えて損はありません。
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指定申請を専門家に任せて開業準備に集中する
指定申請の難所は、書類の量そのものより「指定権者ごとのローカルルール」と「締切からの逆算」です。差し戻しで指定が1か月ずれれば、家賃と人件費がそのまま損失になります。
書類作成と役所対応を任せて、物件・採用・利用者募集に集中したい方は、社労士・行政書士が対応する指定申請の専門家代行サービスの利用を検討してください。事前の相談で、自分で進める場合との費用対効果も比べられます。
指定後すぐに始まる国保連請求に不安がある場合は、障害福祉専門の請求代行WITH福祉という選択肢もあります。請求業務を外に出せば、開業直後は現場と利用者対応に専念できます。
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