就労継続支援A型では、生産活動収支が利用者賃金総額を下回ると、指定権者へ経営改善計画書を提出する義務があります。提出を求められて何を書けばよいか迷う経営者・管理者の方は少なくありません。
この記事では、提出対象かどうかの判定フロー、様式ごとの書き方と記入例、提出後の流れを解説します。令和6年度報酬改定で強まったスコア方式との関係も、一次情報をもとに整理しました。
記事でわかること
経営改善計画書とは|提出義務の根拠と提出先
経営改善計画書とは、生産活動の赤字で利用者の賃金を賄えていないA型事業所が、収支改善の道筋を指定権者に示す書類です。提出は任意ではなく、指定基準にもとづく義務です。
根拠は指定基準第192条|賃金は生産活動収支から支払う
就労継続支援A型事業所の運営基準(指定障害福祉サービス基準第192条)は、利用者の賃金を生産活動収支の範囲内で支払うよう定めています。訓練等給付費を賃金に充てる経営は認められていません。
そのうえで同条は、生産活動収支が賃金総額を下回った場合、経営改善計画書を作成して都道府県知事等へ届け出るよう求めています。この仕組みは平成29年4月の指定基準改正で導入されました。
提出先は指定権者(都道府県・政令市・中核市)
提出先は事業所の指定権者です。都道府県のほか、政令指定都市や中核市に所在する事業所は市が窓口になります。提出期限や添付書類は自治体ごとに案内が出るため、指定権者のホームページを必ず確認してください。
たとえば大分県は、就労支援事業別生産活動明細書と生産活動収支報告書を添えて、経営改善計画書を提出するよう案内しています(出典:大分県|就労継続支援A型事業所における経営改善計画書の提出について)。
提出対象かどうかの判定フロー
自事業所が提出対象かどうかは、前年度決算の数字を3ステップで確認すれば判定できます。基準は「生産活動収支が利用者賃金総額以上か」の1点です。
- 就労支援事業会計の決算書から、生産活動に係る事業収入と必要経費を確認する
- 「生産活動収支=事業収入-必要経費」を計算する
- 生産活動収支と、利用者に支払った賃金総額を比較する
生産活動収支が賃金総額以上なら提出は不要です。生産活動収支が賃金総額未満(赤字を含む)なら提出対象となります(出典:富山県|就労支援事業別活動明細書等及び経営改善計画書等の提出について)。
比較対象は工賃ではなく、雇用契約にもとづく賃金の総額です。職員の人件費や送迎費など、生産活動と関係のない経費を混ぜて計算しないよう注意してください。判定に迷う場合は、指定権者へ事前に相談すると確実です。
なお、提出は一度きりとは限りません。多くの自治体は毎年度の決算後に収支を確認し、基準を満たさない事業所へ改めて提出を求めています。前年に提出済みでも、赤字が続く間は毎年の対応が必要と考えてください。
令和6年度報酬改定での扱い|赤字と未提出はスコア減点
令和6年度報酬改定で、生産活動の赤字は基本報酬のスコアに直接響くようになりました。経営改善計画書の未提出には大幅な減点もあり、放置できない項目です。改定全体の流れは障害福祉サービス等報酬改定の動向で解説しています。
生産活動スコアは連続赤字でマイナス評価
スコア方式(200点満点)のうち、生産活動の評価は60点満点です。改定前は赤字でも最低5点が付きましたが、改定後は複数年連続の赤字にマイナス点が導入されました。
| 生産活動収支の状況 | 点数 |
|---|---|
| 過去3年とも賃金総額以上 | 60点 |
| 前年度・前々年度とも賃金総額以上 | 50点 |
| 前年度のみ賃金総額以上 | 40点 |
| 前々年度のみ賃金総額以上 | 20点 |
| 前年度・前々年度とも賃金総額未満 | -10点 |
| 過去3年とも賃金総額未満 | -20点 |
2年連続赤字で-10点、3年連続で-20点と、赤字が続くほど基本報酬が下がる構造です(出典:厚生労働省「就労継続支援A型に係る評価方法の留意事項通知」大阪府掲載PDF)。
期日までに未提出なら-50点
スコアには経営改善計画の項目も新設されました。指定権者から提出を求められ、指定期日までに提出しなかった場合は-50点です。提出していれば減点はありません。なお、スコアは毎年度、自己評価のうえインターネット等で公表し、指定権者へ届け出る義務があります。
赤字自体の減点は避けられなくても、未提出の-50点は提出すれば確実に防げます。提出対象になったら、期日内の提出を最優先してください(出典:厚生労働省|令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について)。
経営改善計画書の書き方と記入例
経営改善計画書は、国が示す参考様式(別紙様式2-1・2-2)をもとに作成します。書き方の要点は、赤字要因の分析と改善方策、数値目標を一貫したストーリーでつなぐことです。
様式の構成|現状分析と具体的改善策の2部構成
様式2-1には事業所の概要と生産活動収支の実績、経営の現状と課題を記載します。様式2-2には改善策の具体的内容、実行予定時期、期待される効果を記載します。あわせて生産活動明細書などの会計資料を添付するのが一般的です。自治体によっては独自の様式や記載例を用意しているため、指定権者の案内に沿って作成してください。
記載項目ごとの書き方と記入例
主な記載項目の書き方と記入例を表にまとめました。抽象的な精神論ではなく、金額と期限が入った具体策を書くのがポイントです。数値目標は希望的な数字ではなく、受注見込みや単価など根拠の積み上げで説明できる水準に設定します。
| 記載項目 | 書き方のポイント | 記入例 |
|---|---|---|
| 現状分析(赤字要因) | 収入側か経費側か、要因を数字で特定する | 主力の受注作業の単価が低く、生産活動収入が月80万円にとどまり、賃金総額110万円を下回っている |
| 生産活動の見直し | やめる事業と伸ばす事業を明確にする | 採算の合わない袋詰め作業を縮小し、単価の高い食品加工へ利用者の作業時間を段階的に移行する |
| 販路拡大 | 相手先と手段を具体的に書く | 地元企業3社へ営業訪問し、EC販売を10月に開始。新規受注月20万円を目指す |
| 経費削減 | 削減対象と金額を明示する | 原材料の仕入先を見直し、材料費を月5万円削減する |
| 数値目標 | 収支が賃金総額以上になる時期を示す | 来期末までに生産活動収入を月120万円へ引き上げ、生産活動収支を賃金総額以上とする |
| 実施スケジュール | 四半期単位で実行時期を区切る | 7~9月に新規営業、10月にEC開始、1月に進捗を検証し計画を修正する |
経費削減では、生産活動に直接関係する経費だけでなく、間接業務の負担も見直しの対象になります。請求事務の削減策は請求業務を効率化する6つの方法で紹介しています。
書いてはいけない内容|賃金引き下げと退所ありきの計画
利用者の退所や賃金の引き下げを不当に行う内容の計画は、指定権者から再提出を求められます。国の通知に明記されたルールです。改善の軸は、あくまで生産活動の収益を伸ばす方策に置いてください。
提出後の流れ|猶予は原則1年、最長2年
提出して終わりではなく、提出後は指定権者の確認を受けながら計画を実行する期間に入ります。猶予は原則1年で、無条件に延長されるわけではありません。
原則1年間の経営改善猶予期間
提出後の1年間は経営改善のための猶予期間とされ、指定権者が計画の実行状況を確認します。提出した計画書は、事業所のホームページで公表するよう促されます。大型の設備投資による一時的な赤字は、例外的な取り扱いが認められる場合があります。
1年で未達成でも、見込みがあれば2年目に延長
1年経過時点で基準を満たせなくても、次のいずれかに該当すれば、さらに1年間の延長が認められます。
- 生産活動の収入が増加、または経費が減少しており、収益改善の見込みがあると認められる
- 生産活動の収入額が利用者賃金総額以上になっている
- 計画にもとづく取り組みを具体的に実施しており、改善の見込みがあると認められる
2年で改善しなければ勧告・命令、指定取消の検討へ
2年間の猶予を経ても改善の見込みがない場合、指定権者は勧告・命令の措置をとり、指定の取り消しや効力停止を検討するとされています(出典:厚生労働省|就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について(令和7年3月31日))。
指定を維持できないと判断した場合の選択肢には、雇用契約によらないB型への転換もあります。両者の制度の違いはA型とB型の違いで確認できます。ただし転換は利用者の雇用に直結するため、指定権者やハローワークと相談しながら慎重に判断してください。
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