手話通訳士とは、耳の聞こえない人と聞こえる人の橋渡しをする専門職です。手話に関する資格のなかでもっとも高い専門性を認められた存在で、厚生労働省が認定する「手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)」に合格した人だけが名乗れます。よく似た言葉に「手話通訳者」がありますが、この2つは試験の実施主体も位置づけも異なります。この記事では、手話通訳士を目指す人や仕事内容を知りたい人に向けて、手話通訳者との違い、受験資格、試験内容、合格率、年収や働き方、なり方を、2026年6月時点の最新情報で解説します。
記事でわかること
この記事でわかること
- 手話通訳士がどんな資格で、どんな仕事をするのか
- 「手話通訳士」と「手話通訳者」の違い
- 受験資格と試験内容(学科試験・実技試験)
- 直近の第36回(令和7年度)試験の合格率と難易度
- 年収の目安と、活躍の場・働き方
- 手話通訳士になるまでの一般的なステップ
手話通訳士とは
手話通訳士とは、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターが実施する「手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)」に合格し、登録した人を指します。この試験は「手話通訳を行う者の知識及び技能の審査・証明事業の認定に関する省令」(平成21年厚生労働省令第96号)にもとづくもので、厚生労働省が認定する制度です。つまり手話通訳士は、国の制度に裏づけられた手話通訳の専門資格です。
主な仕事は、音声でやり取りされる情報を手話に、手話で表現された内容を音声に、正確に通訳することです。病院での診察、行政の窓口、裁判や警察での手続き、講演会やイベント、テレビ放送など、活躍の場は幅広く、高い倫理観と専門性が求められます。とくに政見放送の手話通訳は、手話通訳士の資格を持つ人が担当すると定められており、資格の信頼性の高さを示す例です。
手話に関わる仕事や福祉の資格に関心がある方は、福祉の資格一覧もあわせて確認しておくと、自分に合った進路を考えやすくなります。
手話通訳士と手話通訳者の違い
手話通訳士と混同されやすいのが「手話通訳者」です。どちらも手話通訳を行う点は同じですが、試験の実施主体や位置づけが異なります。手話通訳者は、全国手話研修センターが実施する「手話通訳者全国統一試験」に合格し、都道府県や政令指定都市などに登録した人を指します。実際の現場では、この手話通訳者として活動している人が多く、必ずしも全員が手話通訳士の資格を持っているわけではありません。
大まかにいえば、手話通訳者は都道府県レベルで認定される資格です。一方の手話通訳士は厚生労働省認定の全国レベルの資格で、より高い専門性が求められる位置づけです。両者の違いを表に整理しました。
| 項目 | 手話通訳士 | 手話通訳者 |
|---|---|---|
| 試験名 | 手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験) | 手話通訳者全国統一試験 |
| 実施主体 | 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター(厚生労働省認定) | 全国手話研修センター(都道府県・政令市等が実施主体として活用) |
| 位置づけ | 全国レベルの認定資格 | 都道府県・政令市等に登録する資格 |
| 難易度 | 高い | 手話通訳士に比べると取得しやすい |
| 主な役割 | 政見放送など、より高い専門性が必要な通訳も担う | 地域での日常的な手話通訳を幅広く担う |
受験資格
手話通訳士試験の受験資格は、20歳以上であることです。正確には、試験を受ける年度の年度末までに20歳に達する人も含まれます。学歴や手話通訳の実務経験は問われません。ただし、実技試験で高度な通訳技術が求められるため、実際には十分な学習や経験を積んだ人が受験するのが一般的です。
なお、受験手数料は22,000円(税込)です。前年度の試験で学科試験の合格基準を満たしていた人は、申請により学科試験が免除され、実技試験のみを受験できる制度もあります。
試験内容(学科試験・実技試験)
手話通訳士試験は、学科試験と実技試験の2つで構成されています。手話通訳士として必要な知識と技能の両方を確認する内容です。
学科試験
学科試験は、次の4科目で行われます。出題はすべて四肢択一方式です。
- 障害者福祉の基礎知識
- 聴覚障害者に関する基礎知識
- 手話通訳のあり方
- 国語
実技試験
実技試験は、次の2つの方法で行われます。手話通訳士の中心となる、実際の通訳力を問う試験です。
- 聞取り通訳試験(音声による出題を手話で解答する)
- 読取り通訳試験(手話による出題を音声で解答する)
試験は年1回実施され、試験地は埼玉・東京・大阪・福岡の4か所です。学科試験は夏ごろ、実技試験は秋ごろに行われ、最終的な合格発表は翌年の冬になります。受験を考えている方は、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターが公開する「受験の手引」で最新の日程を必ず確認してください。
合格率と難易度
手話通訳士試験は、おおむね10%台前後で推移する難易度の高い試験です。直近に実施された第36回(令和7年度)手話通訳技能認定試験の結果は、2026年1月30日に発表され、次のとおりでした。
- 受験者数: 1,113名
- 合格者数: 125名
- 合格率: 11.2%
合格率は年によって変動があります。参考までに、その前の第35回(令和6年度)試験は、受験者数1,076名に対して合格者59名、合格率5.5%でした。年度によって合格率に幅があるため、十分な準備が欠かせません。
また、第36回試験の合格者の平均年齢は47.1歳で、年齢分布は40代・50代が中心です。長く手話通訳に携わりながら経験を積んだ人が、挑戦・合格しているという実態がうかがえます。
年収と働き方
手話通訳士の収入は、雇用形態によって大きく変わります。働き方は一様ではありません。主な働き方は次のとおりです。
- 設置手話通訳者: 市区町村役場や福祉施設、企業などに正規職員・職員として雇用され、窓口対応などを担う働き方です。比較的安定した収入が見込めます。
- 登録・派遣手話通訳者: 自治体や手話通訳派遣センターなどに登録し、依頼に応じて通訳に出向く働き方です。報酬は通訳にかかった時間に応じて支払われるのが一般的です。
年収は雇用形態によって幅があります。正規職員として働く場合は安定した給与が得られる一方、登録・派遣中心の働き方では収入が変動しやすい傾向です。手話通訳の仕事だけで生計を立てるのが難しく、他の仕事と兼業している人が少なくないのも実情です。手話通訳士の資格は、こうした働き方のなかで専門性を証明し、信頼を得るうえで大きな強みになります。
なお、手話通訳士の登録者数は、令和8年(2026年)4月1日現在で全国4,378名です。東京都・大阪府・神奈川県など都市部に多く登録されています。聴覚障害のある人の社会参加を支える専門職として、今後も活躍の場が期待される資格です。
手話通訳士になるには
手話通訳士は、いきなり試験に挑戦するより、段階的に手話の力を高めてから受験するのが一般的です。多くの人は次のステップを踏みます。
- 手話奉仕員養成講座で基礎を学ぶ。市区町村などが開く入門・基礎の講座で、聴覚障害への理解を深め、基本的な手話表現を身につけます。
- 手話通訳者養成講座でステップアップする。全国手話研修センターのカリキュラムにもとづく講座(ホップ・ステップ・ジャンプの段階)で、通訳に必要な技術を体系的に学びます。全課程の履修にはおおむね数年を要します。
- 手話通訳者全国統一試験に合格し、経験を積む。手話通訳者として登録し、地域で実務経験を重ねながら通訳力を磨きます。
- 手話通訳士試験に挑戦する。20歳以上であれば受験でき、学科試験と実技試験に合格することで、手話通訳士として登録できます。
同じように人と人をつなぐ福祉の仕事には、外出を支援するガイドヘルパーや、福祉全般の相談援助を担う社会福祉士などもあります。手話通訳士と組み合わせて考えると、支援の幅をさらに広げられます。
目指す前に知っておきたい「収入の現実」と回避したい失敗
正直にいうと、手話通訳士の資格だけで安定した生計を立てるのは簡単ではありません。本文で触れたとおり、登録・派遣中心の働き方は収入が変動しやすく、兼業している人も少なくありません。「資格を取れば食べていける」と期待すると、取得後にギャップを感じやすい点です。先に現実を知ったうえで進路を選ぶと失敗を避けられます。
- 安定収入を重視するなら設置通訳者を狙う:市区町村役場や福祉施設の正規採用は安定するが求人数は限られる
- 独立・フリー中心は収入が読みにくい:依頼の波があるため、他の仕事と組み合わせる前提で計画する
- 合格までに数年かかる:合格率10%台の難関。養成講座の履修だけでおおむね数年を要する
取得を目指す人が陥りやすい遠回り
独学だけで実技試験を突破しようとするのは遠回りになりがちです。実技は聞取り・読取りの両方で高度な通訳力が問われます。地域の手話サークルや通訳者養成講座で、実際に人と通訳練習を重ねることが合格への近道です。まず手話通訳者全国統一試験に合格して現場経験を積み、その後に手話通訳士へ挑む段階的なルートが堅実です。福祉分野でのキャリアを広げたい人は、福祉の資格一覧もあわせて検討するとよいでしょう。
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まとめ
手話通訳士は、厚生労働省が認定する「手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)」に合格した、手話通訳のプロフェッショナルです。都道府県レベルで認定される手話通訳者よりも高い専門性が求められ、直近の第36回(令和7年度)試験では合格率11.2%と、難易度の高い資格であることがわかります。受験資格は20歳以上とシンプルですが、合格には手話奉仕員養成講座や手話通訳者養成講座などを通じた、段階的で十分な学習と経験が欠かせません。聴覚障害のある人の暮らしと社会参加を支える、やりがいの大きい仕事として、これからも重要性が高まっていく資格です。
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