障害者グループホーム(共同生活援助)は、障害のある人が世話人などの支援を受けながら暮らす住まいです。開業するには、法人格・人員・設備の基準を満たし、都道府県などの指定権者から指定を受ける必要があります。
結論からいうと、2026年の開業は「準備の質」で差がつきます。令和8年6月から新規事業所の基本報酬を引き下げる特例が始まり、総量規制の対象化も固まりつつあるためです。物件を契約する前に、自治体への事前相談と収支の試算を済ませておくことが欠かせません。
この記事は、共同生活援助の開設を検討する起業家・法人担当者に向けて書いています。3類型の選び方から、指定基準・開業資金・収支モデル・開業後の請求実務まで、厚生労働省などの一次情報をもとに整理しました。
記事でわかること
共同生活援助の3類型:最初に事業モデルを決める
開業準備で最初に決めるのは、3類型のどれで指定を受けるかです。類型によって人員配置も報酬も大きく変わります。新規参入の中心は介護サービス包括型です。
共同生活援助は障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービスで、主に夜間、共同生活を営む住居で相談・入浴・排せつ・食事の介護などを行います。サービスの全体像はWAM NETの共同生活援助の解説で確認できます。
| 項目 | 介護サービス包括型 | 日中サービス支援型 | 外部サービス利用型 |
|---|---|---|---|
| 介護の提供 | 自事業所の職員が提供 | 自事業所の職員が昼夜を通じて提供 | 外部の居宅介護事業者に委託 |
| 主な対象 | 幅広い障害支援区分 | 常時の支援を要する重度者 | 介護の必要性が低い人 |
| 世話人の配置 | 6対1以上 | 5対1以上 | 6対1以上 |
| 夜間の体制 | 任意(加算で評価) | 夜間支援従事者が必置 | 任意(加算で評価) |
| 基本報酬の例(区分6) | 600単位/日 | 997単位/日 | 171単位/日+受託介護費 |
| 新規参入での位置づけ | 開業の主流 | 単価は高いが要件が重い | 報酬が低く少数派 |
迷ったら、まず介護サービス包括型を軸に検討してください。日中サービス支援型は重度対応の実績がある法人向けで、短期入所の併設など追加要件があります。詳細は後半の章で解説します。
指定基準:人員と設備の両方を満たす
指定基準は指定障害福祉サービスの人員・設備・運営基準(平成18年厚生労働省令第171号)に定められています。ここでは開業判断に直結する数値だけを抜き出します。
人員基準:世話人・生活支援員・サビ管の配置
結論として、開業の実質的なハードルは人材確保です。とくにサービス管理責任者(サビ管)は要件を満たす人が限られ、採用に時間がかかります。
| 職種 | 配置基準 | ポイント |
|---|---|---|
| 管理者 | 常勤1人 | 支障がなければ他職務と兼務可 |
| サービス管理責任者 | 利用者30人につき1人以上 | 実務経験+研修修了が必要 |
| 世話人 | 常勤換算で利用者6人につき1人以上 | 日中サービス支援型は5人につき1人以上 |
| 生活支援員 | 区分6の人数÷2.5、区分5÷4、区分4÷6、区分3÷9の合計以上 | 外部サービス利用型は配置不要 |
| 夜間支援従事者 | 日中サービス支援型は必置 | 他類型は夜間支援等体制加算の要件 |
数値の根拠は埼玉県「共同生活援助(グループホーム)の基準 概要」が一覧性に優れています。他の都道府県でも基準はほぼ共通です。
採用計画は指定申請より前に動かします。世話人の集め方は世話人の求人ガイドで詳しく解説しています。またサビ管が退職して補充できないと、サービス管理責任者欠如減算で報酬が大きく下がります。開業時から後任育成まで見据えた配置が必要です。
設備基準と物件選び:消防法・建築基準法に注意
物件は「基準を満たせるか」を確認してから契約します。契約後に消防設備で数百万円の追加工事が判明する失敗が典型例です。
- 住居の定員は2~10人(既存建物の活用では最大20人)
- ユニットの定員は2~10人。居室は原則個室で、収納を除き7.43平方メートル以上
- 立地は住宅地など地域交流が確保できる場所。入所施設や病院の敷地内は不可
- サテライト型住居(定員1人、本体からおおむね20分以内)も活用できる
消防法では、グループホームは消防法施行令別表第一の(6)項ロまたは(6)項ハに区分されます。障害支援区分4以上の入居者がおおむね8割を超えると(6)項ロとなり、自動火災報知設備に加えてスプリンクラー設備や火災通報装置などが求められます。建築基準法では、戸建て住宅を寄宿舎などへ用途変更するのが典型で、変更部分が200平方メートルを超えると建築確認申請が必要です。船橋市の設置・運営案内のように、自治体が要件をまとめたページを公開しています。
実務の手順はこうです。候補物件の図面を持って、消防署の予防担当と建築指導課に事前相談する。指定権者の障害福祉主管課にも物件所在地を伝えて確認する。この2つを済ませてから賃貸借契約を結んでください。
総量規制に注意:指定が下りない地域がある
先に確認すべき重要な変化です。グループホームを総量規制(供給過剰な地域で新規指定を認めない仕組み)の対象に加える方針が固まりつつあります。2025年12月8日の社会保障審議会障害者部会(第153回)で大筋了承されました。強度行動障害や医療的ケアへの対応など、地域に不足する機能を担う場合は例外とする方向です。
また、正式な総量規制を待たずに、事前協議の段階で新規開設を実質的に抑制している自治体もすでにあります。障害福祉計画(第7期・令和6~8年度)の見込量を超えている地域が典型です。
確認方法はシンプルです。物件を探し始める前に、指定権者(都道府県・政令市・中核市)の障害福祉主管課へ電話し、次の3点を聞いてください。開業予定地域で新規指定を受け付けているか。障害福祉計画の見込量に対して整備状況はどうか。事前協議の手続きと締切はいつか。この確認だけで、無駄な物件契約を避けられます。
開業までの流れとスケジュール
開業準備は「自治体への確認から始めて、物件と人材を並行で進める」のが結論です。標準的な流れは次のとおりです。
- 指定権者へ事前相談(総量規制・事前協議の有無を確認)
- 法人設立(定款の目的に障害福祉サービス事業を記載)
- 事業計画の作成と資金調達(融資審査には収支計画が必須)
- 物件選定と消防・建築の適合確認(契約前に必ず実施)
- サビ管・世話人・生活支援員の採用
- 指定申請(毎月1日付の指定に対し、締切を1~2か月前に設定する自治体が多い)
- 指定・入居者募集・開業(相談支援事業所や特別支援学校への周知)
事前相談から開業まで、物件改修と採用を含めると半年~1年程度を見込むのが現実的です。法人設立から指定申請までの共通手順は障害福祉事業所の立ち上げ方法で詳しく解説しています。
開業資金の目安と内訳
開業資金は「初期投資」と「運転資金」に分けて考えます。とくに運転資金の見落としが開業後の資金ショートを招きます。報酬の入金はサービス提供月の翌々月のため、最低でも3か月分の支出をまかなえる現金が必要です。
| 費目 | 内容 | 目安の考え方 |
|---|---|---|
| 法人設立費 | 登録免許税・定款認証など | 合同会社6万円~、株式会社は25万円前後 |
| 物件初期費用 | 敷金・保証金・礼金・前家賃 | 事業用契約では家賃の数か月分を求められることが多い |
| 改修・消防設備費 | 間仕切り・手すり・自動火災報知設備・誘導灯など | 物件次第。(6)項ロ該当なら大きく増える |
| 備品費 | 居室・共用部の家具家電、寝具、事務機器 | 定員数に比例 |
| 開業前人件費・採用費 | サビ管などは指定申請段階で確保が必要 | 指定前から1~2か月分の給与が発生 |
| 運転資金 | 入金までの人件費・家賃・水道光熱費 | 月間支出の3か月分以上 |
総額は物件条件で大きく変わります。賃貸戸建ての活用でも数百万円規模になり、購入や大規模改修を伴えば1,000万円を超えるケースもあります。融資を使う場合は、次章の収支モデルを自分の地域・定員に置き換えた計画書を用意してください。
収支モデルと経営の現実:正直、儲かるのか
正面から答えます。満床の維持・加算の取得・人件費の管理ができれば利益は出ます。ただし1棟だけでは薄利で、複数棟の展開で初めて経営が安定する構造です。
収入の柱は公定価格の報酬です。現行の報酬は令和6年度(2024年度)改定にもとづきます。介護サービス包括型の基本報酬(世話人6対1)は次のとおりです。出典は厚生労働省の令和6年度報酬改定ページと改定事項の資料です。
| 障害支援区分 | 基本報酬(1日あたり) |
|---|---|
| 区分6 | 600単位 |
| 区分5 | 456単位 |
| 区分4 | 372単位 |
| 区分3 | 297単位 |
| 区分2 | 188単位 |
| 区分1以下 | 171単位 |
これに、世話人を手厚く配置した場合の人員配置体制加算(1日33~83単位など)、夜間体制を評価する夜間支援等体制加算(夜勤・宿直・連絡体制の3系統)などが上乗せされます。試算例を示します。
| 収入項目(月額) | 計算 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 基本報酬(全員区分4と仮定) | 372単位×6人×30日 | 66,960単位(約67万円) |
| 人員配置体制加算(Ⅰ) | 83単位×6人×30日 | 14,940単位(約15万円) |
| 夜間支援等体制加算(Ⅱ・宿直) | 75単位×6人×30日 | 13,500単位(約14万円) |
| 合計 | 1単位10円で換算 | 約95万円 |
前提は、介護サービス包括型・定員6人・満床・世話人を4対1相当まで加配・宿直体制です。地域区分による単価の上乗せ、処遇改善加算、自治体独自の補助金は含めていません。ここから世話人・生活支援員・宿直者・サビ管の人件費、家賃、消耗品、本部経費を差し引いた残りが利益です。定員6人では、常勤職員をそろえると手元にほとんど残らない月も出ます。
経営の現実として、次の4点を押さえてください。
- 入居率がすべてを決める。この試算の条件では、1人の空床で月約16万円の減収になる
- 家賃・食費・水道光熱費は実費徴収であり、利益の源泉にはならない
- 利用者の家賃には特定障害者特別給付費(月1万円上限の国の家賃補助)があり、船橋市の家賃補助のように独自の上乗せをする自治体もある。入居者の負担感を下げ、満床維持に効く
- 令和7年度から地域連携推進会議(外部の目を入れる会議体)の設置が義務化された。運営の透明性確保も経営タスクに含まれる
もうひとつ、2026年開業なら避けて通れない変更があります。令和8年度の臨時的な報酬見直しで、令和8年6月1日以降に新規指定された共同生活援助(包括型・日中サービス支援型)は、基本報酬に1000分の972を乗じる特例が適用されます。上の試算なら月2万円弱の減収です。収支差率の高さと事業所の急増を受けた措置で、適用は令和9年度(2027年度)の次回報酬改定までの暫定とされています。詳細は厚生労働省の令和8年度改定事項資料で確認できます。
日中サービス支援型という選択肢
重度者への支援体制を組めるなら、日中サービス支援型は有力な選択肢です。総量規制の例外候補となる「地域に不足する機能」に該当しやすく、単価も高いためです。
介護サービス包括型との主な違いは次のとおりです。
- 昼夜を通じて自事業所の職員が支援する。日中活動サービスに通わない人も受け入れられる
- 基本報酬が高い。区分6・世話人5対1で997単位/日(包括型6対1は600単位/日)
- 世話人は5対1以上、夜間支援従事者は必置。人件費は重くなる
- 短期入所の併設が必要(共同生活援助とは別に指定を受ける)
- 自治体の協議会などへ事業実施状況を報告し、年1回以上の評価を受ける
- 1つの建物の定員は最大20人まで認められる
報酬が高いぶん、強度行動障害や医療的ケアへの対応力が問われます。障害福祉が未経験の法人が最初に選ぶ類型ではありません。包括型で運営実績を作り、2棟目以降の展開として検討するのが現実的です。
開業後の請求実務:入金は2か月後から始まる
開業したら、翌月からすぐ請求業務が始まります。共同生活援助の報酬は、サービス提供月の翌月10日までに国民健康保険団体連合会(国保連)へ電子請求し、入金は翌々月です。たとえば7月分の報酬が入るのは9月になります。
請求内容に誤りがあると返戻(差し戻し)となり、入金はさらに1か月以上遅れます。実績記録票の整備、加算の算定要件の確認、利用者負担上限額の管理など、初月からやることは多岐にわたります。具体的な手順はグループホームの請求実務にまとめています。指定日から初回請求までの準備手順は開業後はじめての国保連請求チェックリストもあわせて確認してください。
処遇改善加算の計画書・実績報告も忘れやすいポイントです。令和8年6月からは処遇改善加算の対象職種が広がり、加算率も引き上げられました。取りこぼすと職員の賃金原資がそのまま失われます。
よくある質問
個人事業主でも開業できますか?
できません。指定を受けられるのは法人のみです。株式会社・合同会社・NPO法人・社会福祉法人などが対象で、定款の事業目的に「障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービス事業」の記載が必要です。
福祉の資格や経験がなくても開業できますか?
経営者自身の資格は指定基準で求められていません。ただし、サービス管理責任者など資格・経験要件のある職種を雇用できなければ指定は受けられません。実質的には「人材を確保できるか」が参入条件です。
開業までどのくらいの期間がかかりますか?
事前相談から指定まで、物件改修と採用を含めて半年~1年程度が目安です。指定申請の締切は自治体ごとに異なるため、指定権者の手引きで逆算スケジュールを組んでください。
総量規制の対象地域では諦めるしかありませんか?
一律に不可ではありません。強度行動障害や医療的ケアへの対応など、地域に不足する機能を担う計画であれば協議の余地があります。まず指定権者に相談し、地域のニーズデータを集めてください。
定員は何人から始めるのがよいですか?
事業所全体で4人以上、1住居あたり2~10人が基準です。採算面では、6~7人規模の住居を複数棟展開し、サビ管や管理業務を共有する形が現実的です。
まとめ:物件契約の前に「自治体・人材・資金」を固める
障害者グループホームの開業は、3類型の選択から始まり、人員・設備の指定基準、総量規制の確認、資金計画、開業後の請求実務まで一続きの準備です。とくに2026年は、新規指定への基本報酬特例が始まり、総量規制の対象化も進む転換点にあたります。
やることを3つに絞るなら、次のとおりです。物件契約前に指定権者へ事前相談する。サビ管と世話人の採用を最優先で動かす。入金が2か月遅れる前提で運転資金3か月分を確保する。この3点を外さなければ、大きな手戻りは避けられます。
制度は令和9年度(2027年度)の報酬改定で再び動きます。開業後も厚生労働省や指定権者の一次情報を確認する習慣を持ってください。
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