介護現場の熱中症対策は罰則付きの義務|2026年新ガイドラインで事業所がやるべきこと

職場の熱中症対策は、もう「心がけ」の話ではありません。2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、一定の暑熱環境で働かせる事業者には熱中症対策が義務付けられました。違反には罰則もあります。

さらに2026年3月18日、厚生労働省は「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を新たに公表しました。今年の夏は、この新ガイドラインに沿った取り組みが求められる最初の夏です。

入浴介助・送迎・訪問と、介護現場には熱中症リスクの高い場面が数多くあります。この記事では、施設・訪問系事業所の管理者向けに、義務の中身と現場でやるべきことを整理します。

結論:熱中症対策は罰則付きの法的義務

まず義務の全体像です。BCP(業務継続計画)の策定義務化と同じく、「うちは小規模だから関係ない」は通用しません。対象となる作業があれば、規模を問わず全ての事業場が対象です。

項目 内容
根拠 労働安全衛生規則第662条の2(2025年6月1日施行)
対象となる作業 WBGT値(暑さ指数)28度以上、または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行う作業
義務の中身 (1)熱中症の自覚症状や疑いのある人を報告する体制の整備(2)重篤化を防ぐための対応手順の作成(3)関係作業者への周知
罰則 怠った場合、6ヵ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になりうる

介護現場では、夏場の入浴介助や屋外での送迎誘導、訪問先への移動などが対象になりえます。「屋外作業の建設業の話」と考えるのは誤りです。

義務化1年の結果と、2026年新ガイドライン

義務化初年の2025年、職場での熱中症による死亡者は30人から15人へ半減しました。一方で、4日以上の休業者は前年より約4割増えています。報告体制が機能し、これまで埋もれていた事例が把握されるようになった側面もあります。

この結果を受けて厚生労働省の検討会は、対策の重点を「早期発見と措置」から「発症者の抑制」へ広げました。それをまとめたのが2026年3月18日公表の新ガイドラインです。求められる取り組みは大きく2ステップあります。

ステップ1:リスクの高い場所・作業の把握

日頃から「暑い」と認識されている場所・作業について、リスク要因の有無とWBGT値を確認します。リスク要因は次の4つです。

  • 高温・多湿な作業環境(浴室・脱衣所・厨房など)
  • 連続作業(休憩を挟みにくい入浴介助の連続対応など)
  • 通気性や透湿性の低い服装・保護具(防水エプロン・手袋など)
  • 身体負荷の大きい作業(移乗介助・入浴介助など)

WBGT値の測定には、黒球のついたJIS規格(JIS Z 8504)対応の測定器を使います。冷房がなく風通しの悪い屋内作業では実測が必須とされており、浴室・脱衣所は介護施設で真っ先に測るべき場所です。

ステップ2:対策づくり(6分類)

把握したリスクに対して、次の6分類から対策を組み立てます。

分類 ガイドラインの内容 介護現場での例
(A)体制の整備 熱中症予防管理者を決め、報告体制を整える 衛生管理者・衛生推進者が予防管理者を兼ねる
(B)作業環境管理 WBGT値の低減、休憩場所の整備 脱衣所の換気・スポットクーラー、送迎車の事前冷房
(C)作業管理 作業時間の短縮、暑熱順化、水分・塩分摂取、巡視 入浴介助のローテーション短縮、夏季の新人・復帰者に順化期間を設ける
(D)健康管理 持病や当日の体調を踏まえた配慮 糖尿病・高血圧などの持病がある職員の配置配慮、朝の体調確認
(E)労働衛生教育 管理者・リーダー・職員それぞれへの教育 初期症状と対応フローの研修を繰り返し実施
(F)異常時の処置 対応フローに沿った処置 疑いがある職員を一人にしない、救急要請の基準を明文化

全てを一度にやる必要はありません。どれをどの程度採用するかは事業場ごとに判断し、衛生委員会や職員会議で労使の認識を共有することが重要とされています。

介護現場ならではの高リスク場面と具体策

入浴介助

浴室・脱衣所は高温多湿で、防水エプロンは熱がこもります。介助者の連続対応を避けるローテーション、介助の合間の水分補給、脱衣所へのWBGT計設置が基本です。アイススラリー(氷入り飲料)や首元の冷却グッズも有効とされています。

送迎・屋外

夏場の送迎車内は短時間で高温になります。乗車前の事前冷房、乗降介助時の帽子着用、駐車中の車内温度への注意が必要です。利用者を車内に残さない運用の徹底は、職員と利用者双方を守ります。

訪問系(単独業務)

訪問介護・訪問看護は屋外移動が多く、単独業務のため異変に気づかれにくい点が最大のリスクです。「体調がおかしいと感じたら移動中でも事業所へ連絡する」というルールと連絡手段を明確にし、サービス提供責任者への報告体制を整えてください。冷房のない利用者宅での入浴介助・調理も要注意場面です。

職員だけでなく利用者の熱中症にも備える

高齢者は暑さや喉の渇きを感じにくく、屋内でも熱中症を発症します。職員向けの体制と併せて、居室の温湿度チェック、水分摂取の記録、エアコン使用への声かけを日課に組み込んでください。

こうした熱中症対策を含む職員の健康管理の取り組みは、処遇改善加算の職場環境等要件(健康管理の区分)の項目にもつながります。義務対応を加算要件の充足に生かす視点も持っておくと一石二鳥です。

自施設で今すぐやるべきこと

  • 熱中症予防管理者(責任者)を決め、報告体制と対応フローを文書化して掲示する
  • 黒球付きWBGT測定器を用意し、浴室・脱衣所・送迎車など「暑い場所」を実測する
  • 入浴介助のローテーションと水分補給のルールを夏季シフトに組み込む
  • 持病のある職員・新人・夏季復帰者の配置に配慮する(暑熱順化には1週間程度かかる)
  • 初期症状と「一人にしない」対応を全職員に繰り返し教育する

なお、BCP(業務継続計画)の見直し時期と合わせて、猛暑を想定した停電時対応などを点検するのも効率的です。

スタッフへの説明文例

朝礼などでは、次のように伝えられます。

説明文例:「熱中症対策は法律上の義務になっていて、うちの事業所でも報告体制と対応手順を決めている。めまいや立ちくらみなど『おかしいな』と思ったら、我慢せず必ずその場でリーダーに伝えてほしい。報告した人が不利益を受けることは絶対にない」。

報告をためらわせない雰囲気づくりが、重症化を防ぐ一番の対策です。

出典・一次情報の確認先

この記事は、2026年7月時点で確認できる次の情報をもとに作成しました。

  • 厚生労働省「職場における熱中症予防情報」ポータル(https://neccyusho.mhlw.go.jp/)
  • 厚生労働省「職場における熱中症防止対策のための検討会 報告書~令和8年夏に向けて~」(https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001676115.pdf)
  • 厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」ダウンロードページ(https://neccyusho.mhlw.go.jp/download/)

ガイドラインの詳細や最新の資料は、上記ポータルサイトで必ず確認してください。

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