移乗介助で腰を痛めた、入浴介助中に転倒した、利用者を支えようとして手首をひねった。介護の現場では起こりうることですが、派遣で働いていると「これは派遣会社と施設のどちらに言えばいいのか」で迷います。
結論から言うと、労災保険を使うのは派遣元(派遣会社)です。雇用主が派遣会社だからです。ただし、事故が起きたのは施設なので、派遣先にも書類上の役割があります。
この記事では、誰に何を伝えるのか、腰痛は労災になるのか、休業したときにいくら補償されるのかを、手順に沿って解説します。
- 労災保険を使うのは派遣元。施設で手続きするわけではない
- 請求書(様式第5号)には派遣先の証明欄がある
- 労働者死傷病報告は派遣元と派遣先の両方に提出義務がある
- 腰痛が労災として扱われる2つのパターン
- 休業したときに受け取れる金額と、支給が始まる日
記事でわかること
労災保険は派遣元の保険を使う
労災保険の保険関係は、労働者を雇用している事業主との間で成立します。派遣で働く人の雇用主は派遣会社なので、労災保険も派遣会社のものを使います。施設側で加入手続きをする必要はありません。
「施設の保険を使うのか、派遣会社の保険なのか」で現場が混乱することがありますが、答えは派遣会社です。まず派遣会社の担当者に連絡してください。
なお、労災保険は雇用形態を問わず適用されます。登録型でも無期雇用でも、週1日の勤務でも、試用期間中でも対象です。「派遣だから使えない」ということはありません。
ケガをしたときの手順
順番を間違えると手続きが止まります。次の流れで進めてください。
- その場で施設の責任者に報告する(日時と状況を記録)
- 派遣会社の担当者に自分から連絡する
- 派遣会社が作る様式第5号を受け取り、病院に提出する
1. その場で施設の責任者に報告する
まず安全を確保し、必要なら受診します。そのうえで、施設の責任者やリーダーに「いつ・どこで・何をしていて・どうなったか」を伝えます。日時と状況の記録がのちの証明の土台になります。
軽く見えるケガでも、その日のうちに報告しておくことが重要です。後日痛みが強まったときに「業務中の負傷である」ことを示しやすくなります。
2. 派遣会社の担当者に連絡する
続いて派遣会社へ連絡します。労災の請求書類を作成するのは派遣会社です。施設からの連絡を待つのではなく、自分からも必ず伝えてください。
3. 請求書(様式第5号)を病院に提出する
労災指定の医療機関を受診する場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」を病院に提出します。この用紙は派遣会社が作成します。
派遣の場合、様式第5号には派遣先事業主の証明欄があります。負傷の日時や発生状況について、派遣先の施設が事実であることを証明する欄です。ここに施設の記入が必要になるため、施設への報告を先に済ませておく必要があります。
労災指定病院であれば、窓口での自己負担なしに治療を受けられます。指定外の病院では、いったん立て替えて後日請求する形になります。
4. 休業する場合は労働者死傷病報告が出される
休業を伴う労働災害では、労働基準監督署への「労働者死傷病報告」が必要です。派遣の場合は派遣元と派遣先の両方に提出義務があります。派遣先が提出した写しを派遣元に送り、それをもとに派遣元も作成する流れが一般的です。
これは会社側の手続きなので、働く側が作成するものではありません。ただし「両方が出すもの」と知っておくと、施設側が「うちは関係ない」と言った際に話を進めやすくなります。
腰痛は労災になるのか
介護でもっとも多い相談が腰痛です。腰痛も業務が原因と認められれば労災の対象になります。判断はおおまかに2つに分かれます。
突発的な出来事による腰痛
移乗介助中に利用者の体重が急にかかった、転倒しかけた利用者を支えた、といったはっきりした出来事があって発症した腰痛です。日時と状況を特定できるため、認定されやすい類型です。
この場合、その場での報告が決定的に重要になります。「いつ、誰の介助中に、どういう動作で」を記録しておいてください。
長期間の作業による腰痛
重量物を扱う業務に相当期間従事したことで、徐々に発症する腰痛も対象になりえます。ただし個別の事情によって判断が分かれるため、まずは派遣会社と労働基準監督署に相談してください。
厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」を示しており、福祉・医療分野での介助作業も対象に含めています。人力での抱え上げを原則行わない介助方法(ノーリフティングケア)を導入する施設も増えています。
休業したときにいくら受け取れるか
治療のために働けず、賃金が支払われない日については休業補償給付が受けられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支給開始 | 休業4日目から |
| 休業補償給付 | 給付基礎日額の60パーセント |
| 休業特別支給金 | 給付基礎日額の20パーセント |
| 合計 | おおむね給付基礎日額の80パーセント |
| 最初の3日間 | 業務災害の場合は事業主が休業補償を行う |
給付基礎日額は、原則として災害発生前3か月の賃金をもとに算出されます。夜勤手当などを含む実際の賃金が反映されるため、直近の給与明細は保管しておきましょう。
通勤中のケガは通勤災害にあたり、こちらも労災保険の対象です。ただし請求に使う様式が異なります(労災指定病院での受診は様式第16号の3)。最初の3日間の事業主による補償はありません。
言い出しにくいときの相談先
派遣で働いていると、「契約を切られるのではないか」「施設に迷惑をかけたくない」という思いから、報告をためらう人がいます。しかし労災の申請は労働者の権利です。
労働基準法第19条は、業務上のケガや病気で療養のために休業する期間と、その後30日間の解雇を原則として禁じています。ただしこれは解雇についての規定です。有期契約が期間満了で終わる場合は対象外になるため、契約更新に不安があるときは派遣会社に今後の見通しを確認しておきましょう。
相談の順番は次のとおりです。
- 第一に派遣会社の担当者。書類を作るのは派遣会社です
- 派遣会社が労災として扱わない、手続きを進めないという場合は、労働基準監督署に直接相談できます。請求書は本人が単独で提出することも可能です
- 契約や業務範囲そのものに問題があると感じる場合も、まず派遣会社に相談します
契約に含まれない業務を頼まれて発生したケガであれば、業務範囲の見直しも必要です。断り方と相談先は介護派遣で契約外の業務を頼まれたらで解説しています。
ケガを防ぐために確認しておきたいこと
就業前と就業直後に、次の点を確認しておくと事故のリスクを下げられます。
- 移乗介助の方法と、リフトやスライディングシートの有無
- 2人介助が必要な利用者の情報が共有されているか
- その施設での事故発生時の連絡ルート
- 夜勤帯の人員体制と、応援を呼べる相手
派遣先は、派遣で働く人にも安全衛生の措置を講じる義務を負っています。必要な情報が共有されていないと感じたら、遠慮なく派遣会社を通じて改善を求めてください。
体調管理の面では、定期健康診断も派遣会社が実施します。腰や膝の不調は早めに申告しておくほうが、配属先の調整もしやすくなります。詳しくは介護派遣の健康診断は誰が実施するかをご覧ください。
介護派遣の労災に関するよくある質問
労災を使うと次の契約が更新されなくなりませんか
療養のために休業している期間とその後30日間は、労働基準法第19条で解雇が制限されています。ただし有期契約の期間満了による終了はこの制限の対象外です。不安がある場合は、派遣会社に更新の見通しを確認し、やり取りを記録に残しておきましょう。
派遣先の施設が労災扱いにしてくれません
労災かどうかを最終的に判断するのは労働基準監督署であり、施設でも派遣会社でもありません。会社が手続きを進めない場合、本人が労働基準監督署に相談し、請求書を提出できます。
訪問介護の移動中にケガをした場合はどうなりますか
利用者宅から次の利用者宅への移動は業務中にあたるため、業務災害として扱われるのが基本です。自宅から最初の訪問先への移動は通勤災害の扱いになります。訪問系の働き方は訪問介護は派遣で働けるかで解説しています。
まとめ|報告先は「施設と派遣会社の両方」
労災保険を使うのは派遣会社です。ただし発生状況を証明するのは施設なので、両方に報告することが手続きを止めないコツになります。
やることは3つです。その場で施設に報告する、派遣会社に連絡する、様式第5号を提出する。腰痛も突発的な出来事によるものであれば対象になりますから、「これくらいで」と自己判断せず、まず報告してください。
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