介護DXは「記録」「見守り」「コミュニケーション」の3領域から始めるのが基本です。国の補助金(介護テクノロジー導入支援事業)も活用でき、職員の負担を減らせます。この記事は導入を検討する管理職・主任に向けて、領域別の事例と効果、補助の枠組みを整理します。
記事でわかること
介護DXとは|生産性向上と職員負担の軽減が目的
介護DX(デジタル技術で業務や働き方を変えること)の目的は、職員の負担軽減と生産性向上です。空いた時間を直接ケアに回し、サービスの質も高めます。
厚生労働省は介護ロボットやICT(情報通信技術)の活用を「生産性向上」の柱に位置づけています。背景にあるのは深刻な介護人材不足です。限られた人数で安全にケアを回す手段として、テクノロジーの導入が進んでいます。
具体的には、次の3領域から着手するのが現実的です。
- 記録:手書き・転記を減らす介護記録ICT
- 見守り:夜間の巡視を支える見守りセンサー
- コミュニケーション:職員間の連絡を速くするインカム
この3点は厚生労働省の補助要件でも「セットでの活用」が想定されており、相性のよい組み合わせです。
導入領域別の事例と効果|早見表でつかむ
まず全体像を早見表で確認します。自施設の課題に近い領域から検討してください。
| 領域 | 主な機器・仕組み | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 見守りセンサー | センサー、見守りカメラ | 夜間の訪室回数・転倒リスクの軽減 |
| 記録ICT・音声入力 | 介護記録ソフト、タブレット | 転記の削減、残業の短縮 |
| インカム | ハンズフリー通話端末 | 連絡の高速化、移動の削減 |
| 介護ロボット | 移乗支援、入浴支援機器 | 腰痛・身体負担の軽減 |
| ケアプランデータ連携 | 連携システム | FAX・郵送の削減、転記ミス防止 |
見守りセンサー|夜間の訪室を必要なときだけに
見守りセンサーは、ベッドや居室の状態を感知し、異変があったときに職員へ通知する仕組みです。介護IoT(モノをネットにつなぐ技術)の代表例といえます。
効果は夜間業務に表れます。沖縄県の社会福祉法人千尋会の事例では、見守りロボット導入後に月平均の訪室回数が約25%減り、残業が月3時間ほど減ったと報告されています(出典:ResorTech Okinawa、2025年)。定期巡視で利用者を起こす回数が減り、睡眠の質の改善にもつながります。
注意点として、センサー単体だと通知が鳴りすぎて駆けつけが逆に増える場合があります。カメラと組み合わせ、本当に訪室が必要かを確認してから動く運用が有効です。
記録ICT・音声入力|手書きと転記をなくす
介護記録ICTは、ケア記録をタブレットやスマートフォンで入力し、施設内で共有する仕組みです。音声入力を使えば、移動の合間に話すだけで記録が残ります。
厚生労働省は介護記録ソフトを重点分野の「介護業務支援」と位置づけ、記録・情報共有・請求を一気通貫で行えるものを補助対象としています(出典:厚生労働省「介護テクノロジー導入・定着支援事業」、令和7年度)。紙への転記がなくなり、残業の短縮につながります。
記録データは科学的介護(LIFE。利用者の状態とケアの効果を国に提出し分析する仕組み)にも活用できます。記録ICTはLIFE提出の土台にもなります。
インカム・コミュニケーション|連絡のために走らない
インカムは、職員が同時に通話できるハンズフリー端末です。フロアが離れていても声だけで連絡でき、人を探して歩く時間を減らせます。
応援要請や情報共有が速くなり、転倒・誤嚥などへの初動も早まります。近年は介護AI(人工知能)を使い、音声を自動でテキスト記録に残せる製品も登場しています。連絡と記録を同時に進められる点が利点です。
介護ロボット|移乗・入浴の身体負担を減らす
介護ロボットは、移乗・移動・入浴などを支援する機器です。装着型のパワーアシストや、立ち上がりを助ける機器があり、職員の腰痛予防につながります。
厚生労働省と経済産業省は2025年(令和7年)4月から重点分野を9分野16項目に拡大し、機能訓練支援・食事栄養管理支援・認知症ケア支援の3分野を追加しました(出典:厚生労働省「介護テクノロジー利用の重点分野」、2024年6月改訂)。補助対象の機器はテクノエイド協会の福祉用具情報システムで検索できます。
ケアプランデータ連携|FAXと郵送をなくす
ケアプランデータ連携システムは、居宅介護支援事業所とサービス提供事業所の間で、ケアプランや実績を電子データでやり取りする仕組みです。国民健康保険中央会が運営しています。
これまでFAXや郵送、手入力に頼っていた情報のやり取りを電子化し、転記ミスや通信費を減らせます。厚生労働省は標準仕様を公開しており、対応ソフト同士であればデータの出力・取込が可能です(出典:厚生労働省「ケアプランデータ連携標準仕様」、令和6年10月)。
国の補助|介護テクノロジー導入支援事業(厚生労働省)
導入費用の多くは、国の補助で軽くできます。中心となるのが、地域医療介護総合確保基金による介護テクノロジー導入支援事業です。実施主体は都道府県で、申請窓口も都道府県になります。
厚生労働省の資料(令和7年度)によると、補助上限の目安は次のとおりです。年度や都道府県で運用が変わるため、最新の要綱は必ず確認してください。
| 区分 | 補助上限の目安 |
|---|---|
| 介護ロボット(移乗・入浴支援) | 1機器あたり100万円 |
| 介護ロボット(上記以外) | 1機器あたり30万円 |
| 介護記録ソフト(介護業務支援) | 職員数に応じ100万~250万円 |
| 情報端末 | 上限10万円 |
補助率は、要件を満たす場合は4分の3が下限、満たさない場合は2分の1が下限です。施設系では見守り機器・インカム等のICT・介護記録ソフトの3点を活用すること、在宅系では令和7年度中にケアプランデータ連携システムの利用を開始することなどが要件とされています(出典:厚生労働省「介護テクノロジー導入支援事業」、令和7年度)。
ケアプランデータ連携システムで5事業所以上と連携する場合は5万円が加算されます。補助を受けるには業務改善計画の作成と、導入後の効果報告(翌年度から3年間)が求められます。
導入を成功させる進め方|計画から効果検証まで
補助金の要件にも「業務改善計画」が含まれます。機器選びの前に、課題と進め方を決めることが成功の近道です。次の手順で進めます。
- 課題を1つに絞る(例:夜間の訪室負担、記録の残業)
- 領域と機器を選ぶ(早見表で当てはめる)
- 都道府県の補助要綱と締切を確認する
- 試験導入し、現場の声を集める
- 運用ルールを決め、効果を数値で記録する
厚生労働省は各都道府県に介護生産性向上総合相談センター(ワンストップ窓口)の設置を進めています。機器選定や申請の相談先として活用できます。
よくある誤解・NG|入れただけでは効果は出ない
導入でつまずく施設には共通点があります。先回りで避けましょう。
| NG・誤解 | 正しい進め方 |
|---|---|
| 機器を入れれば自動で楽になる | 運用ルールを決め、業務の流れを見直す |
| 全領域を一度に導入する | 課題の大きい1領域から段階的に |
| 導入後の検証をしない | 訪室回数や残業を数値で記録し改善 |
| 現場に説明せず導入する | 使う職員を選定段階から巻き込む |
とくに見守りセンサーは、通知の感度や運用を調整しないと駆けつけが増えます。導入後に数字で効果を測り、設定を見直す前提で運用してください。
まとめ|小さく始めて効果を数値で残す
介護DXは記録・見守り・コミュニケーションの3領域が中心です。国の補助も使えるため、自施設の課題に近い領域から小さく始め、効果を数値で残すのが現実的な進め方です。介護人材不足が続くなか、テクノロジーの活用は働きやすい職場づくりの土台になります。
制度や補助の枠組みは年度ごとに見直されます。導入を検討する際は、お住まいの都道府県の最新の実施要綱を必ず確認してください。
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