介護派遣の時給交渉はできる?伝えるタイミングやポイントを解説

介護派遣で働いていると、「この時給、上がらないのかな」と思う瞬間があります。結論から言えば、時給交渉はできます。ただし、伝える相手とタイミングを間違えると通りません。

この記事では、誰に・いつ・どんな材料を持って伝えればよいかを整理します。国が毎年示している「時給の下限」の調べ方も、2026年度(令和8年度)の数値で具体的に紹介します。感覚ではなく数字で話せるようになるのが目的です。

介護派遣の時給交渉は、派遣会社の担当者に伝える

時給交渉の相手は、働いている施設ではありません。派遣会社の営業担当(コーディネーター)です。

理由は雇用の仕組みにあります。派遣で働くとき、雇用契約を結ぶ相手は派遣会社です。給与を計算して振り込むのも派遣会社です。施設は指揮命令をする立場ですが、あなたの時給を決める権限は持っていません。

施設長や現場のリーダーに直接言わないほうがよい理由

気心の知れた施設長がいると、つい現場で相談したくなります。しかし、これは避けたほうが無難です。

  • 施設が把握しているのは「派遣料金」であって、あなたの時給ではない
  • 施設側は答えようがなく、気まずさだけが残る
  • 「不満を持っている人」という印象が現場に伝わることがある

時給の原資は、施設が派遣会社に支払う派遣料金です。そこから派遣会社の運営費や社会保険料を差し引いた残りが、あなたの時給になります。つまり時給を上げるには、派遣料金の見直しか、派遣会社側の配分の見直しが必要です。どちらも動かせるのは派遣会社の担当者だけです。

交渉が通りやすいタイミングは4つある

同じ内容を伝えても、時期によって結果は変わります。派遣料金は施設との契約で決まるため、契約を見直す動きに合わせるのが基本です。

1. 契約更新の1~2か月前

最も本命のタイミングです。派遣契約は3か月更新が多く、更新前には派遣会社と施設が条件をすり合わせます。この打ち合わせに間に合うよう、1か月から2か月前には担当者へ伝えておきます。更新日の直前に言っても、その回には反映されません。

2. 資格を取った直後

介護職員初任者研修や実務者研修、介護福祉士に合格したときは、待遇を見直す正当な理由になります。資格は派遣会社が施設に提示できる分かりやすい材料です。合格通知や登録証の写しを添えて伝えると話が早く進みます。

3. 担当する業務が広がったとき

就業開始時の契約内容より業務が増えているなら、そこが交渉の起点です。夜勤に入るようになった、記録や申し送りを任された、新人のフォローをしている、といった変化が該当します。

4. 4月と10月

4月は年度替わりで、派遣会社の賃金テーブルが更新される時期です。10月は地域別最低賃金が改定される時期にあたります。2026年度(令和8年度)の最低賃金は、7月28日の中央最低賃金審議会で目安が示されました。全国加重平均で1,176円という水準です。現行の1,121円から55円の引き上げにあたります。ただしこれは目安で、正式な金額は各都道府県の審議会を経て決まり、10月ごろから適用されます。

逆に、避けたほうがよいタイミングもあります。就業してから1か月以内、契約更新の直後、現場でトラブルがあった直後は、いずれも材料が足りません。

根拠のつくり方は3ステップ

交渉は「お願い」ではなく「材料の提示」です。感情ではなく事実を並べたほうが、担当者も社内や施設に話を通しやすくなります。

ステップ1:法律で決まっている時給の下限を確認する

派遣スタッフの待遇の決め方には、派遣先均等・均衡方式と労使協定方式の2つがあります。介護派遣では労使協定方式を採る会社が多数です。

労使協定方式では、厚生労働省が毎年示す「一般賃金」を下回る時給にできません。金額は次の式で決まります。

職種別の基準値 × 能力・経験調整指数 × 地域指数

2026年度(令和8年度)に適用される数値をもとに計算すると、施設で働く介護職の時給の下限は次のようになります。金額は基本給と賞与などを時給に換算した額です。

勤務地 経験0年 経験1年 経験3年 経験5年 経験10年
東京 1,318円 1,500円 1,645円 1,761円 1,881円
神奈川 1,303円 1,482円 1,626円 1,740円 1,859円
大阪 1,271円 1,446円 1,586円 1,697円 1,813円
愛知 1,236円 1,406円 1,541円 1,650円 1,763円
全国平均 1,183円 1,346円 1,476円 1,580円 1,688円
福岡 1,141円 1,298円 1,423円 1,524円 1,628円
北海道 1,122円 1,277円 1,400円 1,498円 1,601円

※高齢者入所型施設の介護員の場合。厚生労働省「令和8年度の一般の労働者の平均的な賃金の額等について」(職発0825第1号)の別添2・別添3をもとに算出。2026年4月1日~2027年3月31日に適用されます。

職種によっても下限は変わります。経験3年の場合を比べると差がはっきりします。

職種 東京 大阪 全国平均
入所型施設の介護員 1,645円 1,586円 1,476円
通所型施設の介護員 1,641円 1,583円 1,473円
訪問介護員 1,816円 1,751円 1,630円
看護助手 1,442円 1,390円 1,294円
ケアマネジャー 1,910円 1,841円 1,714円

ここで注目してほしいのが、経験年数が上がると下限も上がる点です。東京の入所型施設なら、0年で1,318円、1年で1,500円、3年で1,645円と段階的に上がります。同じ職場で1年以上働いているのに時給がまったく変わっていないなら、確認する価値があります。

ただし、この表はあくまで目安です。実際にどの職種区分・何年目として扱われているかは、派遣会社が締結した労使協定で決まります。派遣会社には待遇について説明する義務があるため、「私はどの区分の何年目で計算されていますか」と聞けば教えてもらえます。まずここを確認するのが出発点です。

なお、この下限には通勤手当や退職金の扱いも関わります。通勤手当を時給に含める方式を採る会社では、1時間あたり79円以上を確保する決まりがあります。介護派遣の交通費の仕組みを押さえておくと、提示された時給の中身を読み解きやすくなります。

ステップ2:自分の実績を数字にする

下限を確認したら、次は「なぜあなたなのか」の材料です。担当者が施設に説明できる形にしておきます。

  • 勤怠:欠勤ゼロ、遅刻ゼロ、就業して何か月か
  • 柔軟性:急なシフト変更に応じた回数、夜勤の担当回数
  • 資格:取得した資格と取得時期
  • 業務範囲:開始時と比べて増えた業務(記録、申し送り、新人指導など)
  • 現場の評価:施設側から受けている具体的な言葉

「頑張っています」で終わらせず、数字で言えるかどうかで通り方が変わります。たとえば「半年間で欠勤ゼロ、夜勤を月4回担当、この3か月は新人2名のフォローを担当」と伝えます。

介護福祉士の資格を持って派遣で働く場合は、資格そのものが時給に反映されやすくなります。取得を検討している段階なら、派遣会社の資格取得支援制度を確認しておくと次の交渉材料になります。

ステップ3:同じエリアの相場を調べる

求人サイトで、同じエリア・同じ職種・同じ勤務条件の時給を調べます。夜勤の有無や資格要件が違うと比較にならないため、条件を揃えるのがポイントです。

ただし、他社の時給を前面に出すのはおすすめしません。「よそはもっと高い」という言い方は、担当者を守りの姿勢にさせます。あくまで補足の材料として、聞かれたら答える程度に留めます。

処遇改善加算は交渉カードになる

意外と知られていませんが、派遣スタッフも介護職員等処遇改善加算の対象にできます。

厚生労働省のQ&Aでは、介護職員などが派遣労働者であっても加算の対象とすることは可能とされています。その際は、施設と派遣会社で協議することが示されています。加算を原資とする派遣料金の上乗せが、派遣元から支払われる給与に反映されるようにするためです。

ここで大事なのは、自動的に反映されるわけではないという点です。施設と派遣会社が協議し、処遇改善計画書に含めて初めて対象になります。逆に言えば、担当者にこう依頼するのは制度上まっとうな話です。「派遣先が処遇改善加算を算定しているようなので、対象に含められないか施設と相談してもらえませんか」と伝えてみてください。

施設が加算を算定しているかどうかは、介護サービス情報公表システムや施設の掲示で確認できます。現場で「うちは加算を取っている」という話が出ているなら、その情報は担当者に伝える価値があります。

伝え方の例文

電話でもメールでも構いませんが、記録が残るメールかチャットが確実です。型は「感謝 → 事実 → 依頼 → 柔軟性」の順にします。

いつもお世話になっております。○○(氏名)です。

現在の就業先で勤務を始めて8か月が経ちました。この間、欠勤や遅刻はなく、月4回の夜勤も担当しています。3か月前からは新人の方のフォローも任せていただいています。また、先月に実務者研修を修了しました(修了証を添付します)。

つきましては、次回の契約更新にあたり、時給の見直しをご相談させていただけないでしょうか。現在の時給は1,450円です。

就業先には満足しており、継続して勤務したいと考えています。難しい場合は、どのような条件が整えば見直しの対象になるかを教えていただけると助かります。

最後の一文が効きます。断られて終わりではなく、次につながる情報を引き出せるからです。

避けたい伝え方

  • 「上げてもらえないなら辞めます」と条件を突きつける
  • 他社の時給を並べて比較する
  • 施設や同僚への不満とセットで話す
  • 契約更新の直前に急に切り出す

担当者は、あなたの代わりに施設と交渉する立場です。味方につけるほど成功率は上がります。

断られたときの次の一手

すぐに通らないことも珍しくありません。派遣料金は施設の予算に縛られており、契約期間の途中では動かせない場合が多いためです。

理由を具体的に聞く

「派遣料金が上げられない」「時期が早い」「もう1年の実績が必要」など、理由によって次の動き方が変わります。曖昧なまま引き下がらず、条件を確認します。

時給以外の条件で調整する

時給が動かなくても、手取りを増やす方法はあります。

  • 交通費を時給込みから実費支給に変えてもらう
  • 夜勤の回数を増やす(深夜割増が付くため時間単価が上がる)
  • 勤務日数やシフトの希望を通してもらう
  • 資格取得支援制度を使って次の交渉材料をつくる

夜勤を増やす選択は、時給を上げるより効果が大きいこともあります。同じ職場で働ける期間は原則3年という決まりもあるため、残り期間を踏まえて考えると判断しやすくなります。

案件や派遣会社を変える

それでも動かない場合は、就業先を変えるほうが早いこともあります。派遣は、施設を変えても雇用が途切れない働き方です。同じ派遣会社の別案件を紹介してもらう選択肢から先に確認します。

よくある質問

契約期間の途中でも時給は上がりますか

原則として、次の更新のタイミングになります。派遣料金が契約で決まっているためです。ただし、契約時に想定していなかった業務を任されている場合は、期間の途中でも相談する余地があります。

交渉したら契約を切られませんか

常識的な伝え方であれば、それを理由に契約を打ち切られることは通常ありません。派遣会社にとって、働き手が辞めるほうが損失は大きいためです。ただし、辞めるとほのめかす言い方をすると、担当者は「代わりを探そう」と動きます。伝え方には気を配ります。

どれくらい上がるものですか

ケースによりますが、1回の見直しでは時給50円から100円程度の幅が多く見られます。大きく上げたい場合は、資格取得や夜勤対応など、業務そのものを変える動きとセットにするのが現実的です。

まとめ

介護派遣の時給交渉で押さえる点は4つです。

  • 伝える相手は施設ではなく派遣会社の担当者
  • タイミングは契約更新の1~2か月前、または資格取得や業務拡大の直後
  • 根拠は「法律上の下限」「自分の実績」「エリアの相場」の3点セット
  • 断られたら理由を聞き、時給以外の条件や次回の条件を確認する

まずやることは1つです。派遣会社に「私はどの職種区分の何年目として計算されていますか」と聞いてみてください。ここが分かると、自分の時給が下限からどれだけ離れているかが見えます。数字が見えれば、交渉は感情の話ではなくなります。

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参考

  • 厚生労働省「令和8年度の労働者派遣法第30条の4第1項第2号イに定める同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額等について」(職発0825第1号)
  • 厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年3月13日)
  • 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(令和8年7月28日)