【2026年10月義務化】障害福祉事業所のカスハラ対策|利用者・家族対応と相談体制のつくり方

※2026年7月時点の情報です。最新の告示・通知と所管自治体の案内をご確認ください。

2026年10月1日から、障害福祉事業所を含むすべての事業主に、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の雇用管理上の措置が義務化されます。根拠は令和7年改正の労働施策総合推進法で、具体的な中身は令和8年厚生労働省告示第51号(カスタマーハラスメント防止指針)として、すでに告示されています。

「うちは福祉だから対象外では?」と思いたくなりますが、指針の原文には「顧客等」の例として福祉施設の利用者が明示されています。つまり、放課後等デイサービス・就労継続支援・グループホーム・居宅介護など、障害福祉サービスの現場も正面から対象です。

一方で障害福祉には、一般企業のカスハラ対策をそのまま持ち込めない事情があります。強度行動障害やパニックなど、障害特性に起因する行動を安易に「カスハラ」と扱ってはいけないからです。現場と請求・労務を兼務する管理者の方が、①何が義務になるのか、②利用者・家族対応とどう線引きするのか、③10月までに何を整えるのか、を一次情報(指針原文)ベースで整理できるよう、この記事にまとめました。

この記事の結論

・2026年10月1日から、業種・規模を問わず全事業主にカスハラ対策が義務化(指針=令和8年厚労省告示第51号)。

・指針の「顧客等」には福祉施設の利用者が明示され、障害福祉事業所も対象。家族も「事業に関係を有する者」として含まれると考えられます。

・障害特性に基づく意思表明や合理的配慮の要求はカスハラに当たらないと指針に明記。線引きは「行動の原因」ではなく「組織としての手順」で行うのが実務の軸です。

カスハラ対策の義務化とは?2026年10月1日から全事業主が対象

結論から言うと、2026年(令和8年)10月1日から、すべての事業主に「職場におけるカスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置」を講じる義務が課されます。2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法によるもので、パワハラ防止措置(2022年に全企業義務化)と同じ枠組みが、顧客等からのハラスメントにも広がるイメージです。

重要なのは対象範囲です。業種の限定はなく、従業員数による猶予もありません。パワハラ防止のときは中小企業に努力義務期間がありましたが、今回のカスハラ対策は施行日から業種・規模を問わず全事業主が対象です。職員数名の小規模事業所でも、2026年10月1日時点で体制が求められます。

履行確保のしくみは「刑事罰」ではなく行政指導型です。厚生労働大臣(都道府県労働局)による助言・指導・勧告があり、勧告に従わない場合は企業名の公表があり得ます。罰金や懲役はありませんが、福祉事業は行政・相談支援事業所・家族からの信頼で成り立つため、公表リスクの重さは一般企業以上と考えられます。何より、対策の有無は職員の定着に直結します。

障害福祉事業所も対象?利用者・家族は「顧客等」に含まれる

結論として、障害福祉サービスの利用者は、指針上の「顧客等」に含まれます。令和8年厚生労働省告示第51号の原文では、「顧客等」を次のように定義しています。

顧客、取引の相手方、施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等の施設を利用する者をいい、今後利用する可能性のある者も含む。)その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者

(令和8年厚生労働省告示第51号より)

「福祉施設」が例示に入っており、現に利用している人だけでなく「今後利用する可能性のある者」=見学・利用相談の段階の人も含まれます。利用者の家族は明示列挙されていませんが、「その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」に当たると考えられ、家族からの言動も対策の射程に入る前提で準備するのが安全です。

つまり「福祉だから対象外」という整理は成り立ちません。利用者・家族・見学者・取引先まで含めて、職員の就業環境を守る措置が求められます。なお、介護保険サービスの事業所も同じ枠組みの対象です。介護事業所向けの整え方はこちらで解説しています。

何がカスハラに当たる?指針の3要素と具体例

指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを次の3要素すべてを満たすものと定義しています。①顧客等の言動であって、②業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、の3つです。裏返せば、利用者や家族からの正当な要望・苦情はカスハラではありません。

指針が挙げる「範囲を超えた言動」の例を、障害福祉の場面に引きつけると次のようになります。

  • 身体的な攻撃:殴る・蹴る・物を投げつける・つばを吐きかける
  • 精神的な攻撃:職員の人格を否定する発言、土下座の強要、「SNSに悪評を書く」とほのめかして脅す、無断撮影
  • 継続的・執拗な言動:同じ苦情の電話を執拗に繰り返す、揚げ足取りで責め立てる
  • 拘束的な言動:長時間の居座りや電話で職員を拘束する
  • 過大な要求:契約(個別支援計画・重要事項説明書)の内容を著しく超えるサービスの要求、根拠のない損害賠償や利用料減額の要求

ポイントは、「要求の内容」がおかしい場合だけでなく、内容は正当でも「手段・態様」が行き過ぎればカスハラになることです。たとえば送迎時刻への苦情自体は正当でも、毎晩深夜に電話で職員個人を数時間拘束すれば、範囲を超えた言動になり得ます。

障害特性による行動とカスハラの線引き【最重要】

障害福祉事業所にとって最大の論点はここです。結論は、障害特性に起因する行動を安易にカスハラ扱いしないことと、それでも職員を守る体制をつくることは、両立できるし、両立させなければならないということです。

指針が明記する「カスハラに当たらないもの」

指針の原文は、障害のある人の意思表明について明確に線を引いています。障害者差別解消法で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去(合理的配慮)を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たらないと明記されています。さらに、対応に当たっては同法の合理的配慮の提供義務に留意し、障害特性に応じた事例等も参考に「建設的対話」を重ねるよう求めています。

つまり「意思表示が強い」「要求が細かい」というだけでカスハラと扱うことは、指針の趣旨に反するうえ、差別解消法上の問題にもなり得ます。意思決定支援の観点でも、利用者の表現方法が定型的でないことを理由に訴えを退けない姿勢が前提です。

障害特性由来の行動を組織でどう扱うか

一方で、強度行動障害のある利用者の他害行為やパニック時の暴力で、職員が現実にけがをすることはあります。これを「カスハラか否か」の議論だけで処理しようとすると行き詰まります。実務では、「本人に悪意があるか」ではなく「職員の安全と就業環境をどう守るか」を軸に、支援計画の見直しと職員保護を並行させるのが現実的です。判断を現場任せにせず、次のような手順を組織で決めておきます。

カスハラか障害特性由来か 障害福祉事業所の5ステップ見分けフロー(記録・特性確認・範囲判断・組織判断・対応)

①事実を記録する(いつ・誰が・何を・けがの有無)、②障害特性・体調・環境要因に由来する行動か、支援記録とアセスメントで確認する、③特性由来なら支援手順・環境調整・個別支援計画の見直しで対応し、同時に職員の複数対応・応援体制で安全を確保する、④特性で説明できない言動(家族からの脅迫的言動など)は指針の3要素で判断する、⑤いずれの場合も判断は一人にさせず、管理者を交えて組織で行う、という流れです。

線引きで外してはいけない3つの原則

・合理的配慮の要求や差別をやめてほしいという意思表明は、カスハラではない(指針に明記)。

・障害特性由来の行動は「支援の見直し」で対応する。ただし職員の安全確保・けがの労災対応・心のケアは、原因を問わず必ず行う。

・カスハラかどうかの判断を、被害を受けた職員一人に負わせない。

家族からの要求・送迎/訪問の密室性など障害福祉現場の注意点

障害福祉のカスハラで実際に多いと考えられるのは、利用者本人よりも家族・関係者からの過度な要求です。結論として、家族対応こそ「契約と記録」で守るのが基本です。

「毎日の連絡帳に30分分の詳細記録を書け」「うちの子だけ特定職員が常時マンツーマンで見ろ」といった要求は、心配の裏返しであることも多い一方、契約内容(重要事項説明書・個別支援計画)を著しく超える要求は指針の例示に該当し得ます。まず契約書・重説で提供範囲を明文化し、要望はサービス担当者会議や相談支援専門員を交えた場で扱う、と入口を決めておくと、職員個人が板挟みになりません。

もう一つの固有リスクが密室性です。送迎車内・居宅介護の訪問先・グループホームの夜勤帯は1対1になりやすく、ハラスメントが起きても目撃者がなく、職員が抱え込みがちです。指針は発生時に「可能な限り労働者を一人で対応させない」ことを求めています。密室場面については、①事後すぐ報告できる窓口、②記録様式の簡素化(その日のうちに数分で書ける)、③リスクの高いケースの2名体制や訪問順の調整、を先に設計しておく必要があります。

最後に、意思決定支援との関係にも触れておきます。障害福祉では、本人の意思を家族や職員が代弁・推定する場面が多く、「本人の希望」と「家族の要求」が食い違うことがあります。家族の強い要求を退けることが本人の利益になる場合もあれば、その逆もあります。カスハラ対応の枠組みだけで白黒を付けず、「誰の意思に基づく要求なのか」を相談支援専門員やサービス担当者会議で確認するプロセスを挟むと、職員保護と本人中心支援を両立しやすくなります。この確認過程そのものが、指針の言う「建設的対話」の実践にもなります。

義務化で事業所に求められる措置(方針・相談体制・事後対応)

指針が事業主に義務付ける措置は、大きく4本柱です。結論として、「方針の明確化と周知」「相談体制の整備」「事後の迅速・適切な対応」「プライバシー保護と不利益取扱いの禁止」をそろえれば、義務の骨格は満たせます。

  • ①方針の明確化・周知啓発:カスハラから職員を守る方針、対処の内容を定め、職員に周知する。利用者・家族への周知(重要事項説明書や掲示)も被害防止に効果的とされています。
  • ②相談体制の整備:相談窓口をあらかじめ定めて職員に周知する。担当者を決める方法のほか、外部機関への委託も認められています。カスハラか微妙な場合でも広く相談に応じる運用が求められます。
  • ③事後の迅速・適切な対応:事実確認、被害職員への配慮(複数人対応への切替え、管理者が代わって対応、行為者と引き離す配置、メンタルヘルス不調への相談対応)、再発防止。
  • ④あわせて講ずべき措置:相談者のプライバシー保護と、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止の周知。

小規模事業所で見落としがちなのは②と③です。「困ったら管理者に言って」という口頭運用では、窓口を「あらかじめ定めて周知した」とは言いにくいのが実情です。名前のある窓口(例:管理者+サビ管の2名)を文書で示すだけでも形が変わります。また指針は、実際にカスハラが起きているケースだけでなく、「該当するか微妙な場合」でも広く相談に応じる運用を求めています。障害福祉では「これは特性由来だからカスハラじゃない気がするけれど、つらい」という相談こそ多いはずで、入口で選別しない窓口設計が特に重要です。

2026年10月までの準備ステップ【スケジュール】

結論として、2026年7〜8月に現状把握と方針決定、8〜9月に規程・マニュアル整備、9月に研修と周知を終えれば、10月1日の施行に間に合います。逆算すると、着手は今月がちょうどよいタイミングです。

2026年10月1日カスハラ対策義務化までの障害福祉事業所の準備スケジュール(7-8月方針決定・8-9月規程整備・9月研修周知)

  1. 7〜8月:現状把握と方針決定。過去のヒヤリハット・苦情記録を洗い出し、自事業所で起きやすい場面(送迎・訪問・家族対応)を特定。基本方針を1枚にまとめ、管理者・サビ管/児発管で線引きの考え方を合わせる。
  2. 8〜9月:規程・マニュアル整備。就業規則や別規程への反映、相談窓口の指定、対応フロー(記録様式・報告経路・複数対応の基準)の文書化。重要事項説明書への記載を検討。
  3. 9月:研修と周知。全職員向けに方針・窓口・初動を共有する研修(1時間でも可)。利用者・家族向けには掲示やお便りで「職員を守る方針」を穏当な表現で周知。
  4. 10月1日〜:運用開始。相談記録を残し、事案が出たら手順どおり対応。運用状況を見て見直す。

すべてを完璧にする必要はありません。10月1日時点で「方針・窓口・初動手順」が文書で存在し、職員に周知されていることをまず目指しましょう。

就業規則・マニュアル・研修への落とし込み

体制を紙にする段階では、ゼロから書かず「指針の望ましい取組」に沿って最小構成でつくるのが結論です。

就業規則・規程には、①カスハラの定義(指針の3要素を引用)、②相談窓口と報告経路、③被害職員の保護(一人で対応させない・配置上の配慮)、④悪質な事案への対処方針(サービス提供の中断・契約解除の検討手順、警察・弁護士への相談)を入れます。マニュアルは分厚くせず、場面別(電話・送迎・訪問・家族面談)の初動と記録様式、相談窓口担当者向けのプライバシー保護手順をA4数枚で。研修は指針が例示するとおり、対応力向上だけでなく障害特性の理解を深める内容をセットにすると、「特性由来の行動を安易にカスハラ扱いしない」という障害福祉ならではの軸がぶれません。

ここまで読んで「やることは分かったが、その時間がない」と感じた方も多いはずです。現場に出ながら月初の国保連請求と労務をこなす管理者にとって、規程づくりや研修準備の数十時間は簡単には出てきません。方針づくりや研修は管理者にしかできない一方、毎月の請求事務は外部に切り出せる業務です。請求業務を内製で続けるか外注するかの判断基準を整理したうえで、障害福祉専門の国保連請求代行「WITH福祉」のような外部サービスに請求を任せ、浮いた時間を相談体制づくりに充てるのも一つの方法です(WITH福祉はカスハラ対策の代行ではなく、請求業務の代行サービスです)。

よくある質問(FAQ)

対応しないと罰則はありますか?

刑事罰(罰金・懲役)はありません。履行確保は、労働局による助言・指導・勧告と、勧告に従わない場合の企業名公表という行政指導型です。ただし、職員が被害を受けたのに対策を怠っていた場合、安全配慮義務違反として民事上の責任を問われるリスクは別途あり得ます。

職員数人の小規模事業所でも全部やる必要がありますか?

対象になります。今回の義務化には規模による適用猶予がなく、指針にも中小企業の特例は置かれていません。ただし求められるのは体制の「規模相応の整備」であり、方針1枚・窓口の指定・簡単な対応フローと研修から始める形で足りると考えられます。詳細は所管の労働局・自治体にご確認ください。

相談窓口は外部委託でもよいですか?

可能です。指針は、担当者を定める方法、制度を設ける方法と並んで「外部の機関に相談への対応を委託すること」を例示しています。小規模で内部に窓口を置きにくい場合、社労士・弁護士・共済団体等の外部窓口の活用が現実的な選択肢になります。

カスハラを理由に利用契約を解除できますか?

直ちには判断できません。障害福祉サービスには応諾義務や障害者差別解消法の趣旨があり、特性由来の行動を理由とする一方的な解除はトラブルになり得ます。まず支援の見直し・複数対応・行政や相談支援専門員との連携を尽くし、悪質な事案の解除手順は運営規程・契約書に沿って、自治体・弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

まとめ:義務化までに「体制」と「時間」を整える

最後に要点を整理します。

  • 2026年10月1日から、業種・規模を問わず全事業主にカスハラ対策が義務化。指針は令和8年厚労省告示第51号として告示済み。
  • 指針の「顧客等」には福祉施設の利用者が明示されており、障害福祉事業所も対象。家族からの言動も射程に入る前提で備える。
  • 合理的配慮の要求や差別解消の意思表明はカスハラではない。障害特性由来の行動は支援の見直しで対応しつつ、職員の安全確保と心のケアは原因を問わず行う。
  • 義務の骨格は「方針明確化」「相談体制」「事後対応」「プライバシー保護・不利益取扱い禁止」の4本柱。7〜9月に方針→規程→研修の順で整えれば間に合う。

体制づくりの主役は、現場を知る管理者自身です。だからこそ、管理者の時間をどこから捻出するかが実質的な成否を分けます。なお、職員を守るカスハラ対策と対をなす「利用者を守る体制」=虐待防止委員会・研修・担当者の義務(未実施なら1%減算)は、障害福祉事業所の虐待防止の解説記事で整理しています。毎月の国保連請求の流れを見直したい方は、障害福祉の国保連請求 完全ガイドもあわせてご覧ください。

カスハラ対策の時間は、請求業務の外部化でつくる

相談体制づくり・研修・マニュアル整備は、管理者にしかできない仕事です。一方、毎月の国保連請求は外部に切り出せる業務です。障害福祉専門の請求代行「WITH福祉」は、実績記録票の集約から伝送・返戻対応までを代行し、管理者が体制づくりに向き合う時間を確保するお手伝いをします(カスハラ対策そのものの代行サービスではありません)。

▶ 障害福祉の請求代行「WITH福祉」のサービス内容を見る

出典・参考(一次情報)