2026年6月の介護報酬算定分から、人員基準欠如減算(職員数が基準を下回った場合の報酬減額)に最大3ヵ月の猶予特例が始まりました。
対象は、職員の急な離職が重なるなど突発的な事情で、必要な員数から1割以内の範囲で人員が不足した介護事業所・施設です。
適用を受けるには、有効な求人票の写しを添えた書類を、欠員が発生した月の翌月までに都道府県へ提出する必要があります。
この記事では、厚生労働省の通知内容と申請の要件、事業所が今すぐ準備すべきことを整理します。施設長や介護主任がスタッフに説明できるレベルまで、順を追って解説します。
記事でわかること
人員基準欠如減算の3ヵ月猶予特例とは|2026年6月算定分から適用
結論から言うと、条件を満たす欠員なら、2026年6月算定分から減算を最大3ヵ月待ってもらえます。厚生労働省が2026年5月8日付で、都道府県の担当部局などに特例の取り扱いを通知しました。
これまで、急な離職で一時的に基準を割った場合でも、減算を避ける手段は原則ありませんでした。人手不足が続く介護現場にとって、実務への影響が大きい制度変更です。
そもそも人員基準欠如減算とは
人員基準欠如減算とは、配置すべき職員数(人員基準)を下回った状態が続いた場合に、介護報酬が減額される仕組みです。
たとえば介護老人保健施設や通所リハビリテーションでは、看護・介護職員やリハビリ専門職の必要数がサービスごとに定められています。
基準を満たせないと、所定単位数の70%で算定するなど、収入に直結する減算を受けます。減算の割合や開始時期はサービス種別によって異なります。
減算になると、欠員で現場が苦しいうえに収入まで減る、二重の打撃になります。今回の特例は、この状況を一定期間だけ回避できる仕組みです。
導入の背景は介護現場の深刻な人手不足
特例が設けられた理由は、介護現場の人手不足です。採用がすぐには決まらない中で急な離職が重なると、事業所の努力だけでは欠員を埋めきれません。
欠員が出る、減算で収入が減る、処遇改善が難しくなる、さらに人が集まらない。この悪循環を断つため、採用活動を続けている事業所に限って減算を猶予する仕組みが導入されました。
裏を返せば、採用の努力をしていない事業所は救済されません。この点は後述する申請要件に直結します。
減算が猶予される条件|「1割以内の欠員」かつ「突発的な事情」
猶予の対象になるのは、次の2つを両方満たす場合です。どちらか一方でも外れると、特例は使えません。
- 人員基準上必要とされる員数から、1割の範囲内で人員が減少していること
- 職員の急な離職が重なるなど、突発的で想定が困難な事情によること
たとえば必要数が10人の職場なら、欠員後も9人以上を保っていることが目安です。介護職員や看護職員が基準から1割を超えて減っている場合は、特例の対象外です。
「突発的で想定が困難」という条件も重要です。定年退職や産休・育休のように、あらかじめ分かっていた減員への備えを怠った場合は、想定が困難な事情とは言えません。
日頃から計画的に人員配置を管理したうえで、それでも防げなかった欠員を救済する。これが特例の基本的な考え方です。
申請の要件と手続きの流れ|求人票の写しと提出期限に注意
特例は自動的には適用されません。採用活動などの要件を満たしたうえで、期限内に都道府県へ申請する必要があります。
適用の前提となる4つの要件
通知では、次の要件が示されています。核になるのは「実際に採用活動をしていること」です。
- ハローワーク(公共職業安定所)、都道府県ナースセンター、無料職業紹介事業などを通じて、職員確保に取り組んでいる
- 民間の職業紹介会社を使う場合は、国の適正認定事業者(医療・介護・保育分野の認定制度による認定を受けた紹介会社)を含めている
- 自社のホームページで採用情報を公表するなど、職員確保の取り組みを積極的に行っている(自社サイトがない場合を除き、望ましいとされる要件)
- 一部の職員に過度な業務負担がかからないよう、適正な労働時間の管理と体制整備に努めている
形だけの求人では趣旨に反します。猶予期間中に本気で採用を進める事業所を支援する制度だと理解してください。
提出書類と提出期限
適用を希望する場合の手続きは、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出先 | 事業所・施設の所在地の都道府県(担当部局) |
| 提出書類 | 所定の様式に、その時点で有効な求人票の写しを添付 |
| 提出期限 | 人員欠如が発生した日の属する月の翌月まで |
期限の短さに注意してください。たとえば7月10日に欠員が発生した場合、提出期限は8月末までです。
添付するのは「その時点で有効な」求人票の写しです。ハローワーク求人の有効期限は原則、申込月の翌々月末とされています。期限切れのまま放置していると、いざというとき書類がそろいません。
欠員発生から猶予までの流れ(7月に欠員が出た場合の例)
- 7月:職員の急な退職が重なり、必要数の1割以内で欠員が発生
- 直ちに:ハローワーク等へ求人を申し込む(既存の求人があれば内容を最新化する)
- 8月末まで:所定の様式に求人票の写しを添えて、都道府県へ提出
- 7月から9月:猶予期間(欠員発生月の翌々月まで)。この間に採用・充足を目指す
所定の様式や細かな運用は都道府県ごとに案内されます。指定権者が市町村のサービス(地域密着型など)は、提出先の扱いを含めて自治体に確認してください。
猶予される期間と回数の上限|年1回・最大3ヵ月まで
猶予は無期限ではありません。期間は最大3ヵ月間、具体的には欠員が発生した月の翌々月までです。
また、利用できるのは1年に1回に限られます。欠員が出るたびに繰り返し使える制度ではありません。
猶予期間内に人員を確保できなければ、その後は通常どおり減算が適用されます。特例はあくまで「採用までの時間の確保」であり、減算の免除ではない点を押さえておきましょう。
だからこそ、3ヵ月の使い方が問われます。求人条件の見直し、適正認定を受けた紹介会社の併用、法人内での応援体制など、採用と充足の打ち手をこの期間に集中させることが重要です。
事業所が今すぐ準備すべき5つのこと
この特例は、欠員が出てから調べ始めたのでは間に合わないおそれがあります。提出期限が翌月までと短いためです。管理者・リーダー層は、平時から次の準備を進めてください。
1. 求人票を常に有効な状態に保つ
申請には有効な求人票の写しが必須です。ハローワーク求人の有効期限を管理表に入れ、更新漏れをなくしましょう。
採用予定がない時期でも、欠員リスクの高い職種は求人を継続しておく判断が有効です。求人票が特例の「保険証」になると考えてください。
2. 都道府県の様式と提出先を事前に確認する
所定の様式は都道府県から示されます。自県のホームページや担当部局への照会で、様式・提出方法・窓口をあらかじめ確認しておきましょう。
確認した内容は、事務担当者だけでなく管理者間でも共有しておくと安心です。
3. 欠員発生時の社内フローを決めておく
「誰が欠員を検知し、誰がいつまでに申請するか」を文書で決めておきます。退職の申し出があった時点で人員基準への影響を試算し、1割以内かどうかを判定する流れが基本です。
翌月末という期限から逆算すると、欠員発生から2週間以内に書類を整えるくらいの速度感が必要です。
4. 人員配置の余裕度を毎月点検する
常勤換算数と基準必要数の差、つまり「あと何人辞めたら基準を割るか」を月次で把握しましょう。サービスごとに必要数の考え方は異なります。
たとえばグループホーム職員配置のように、利用者数や時間帯で必要数が変わるサービスもあります。自事業所の計算根拠を確認しておくと、欠員時の判定が速くなります。
5. スタッフへの説明と負担管理をセットで行う
欠員期間中は、残った職員に業務が集中しがちです。適正な労働時間管理は特例の要件にも含まれています。
「減算は3ヵ月猶予される。その間に必ず採用する」という見通しをスタッフに示すことは、離職の連鎖を防ぐうえでも効果があります。制度を正しく伝えられる管理職の存在が、チームの安心につながります。
出典・一次情報の確認先
この記事は、2026年7月時点で確認できる次の情報をもとに作成しました。
- 介護ニュースJoint「介護事業所・施設の人員欠如減算、3ヵ月猶予へ 厚労省方針」(https://www.joint-kaigo.com/articles/45157/)
- ナースプラス(マイナビ看護師)「介護事業所等の『人員基準欠如減算』の適用猶予などについて通知」(https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/news/20260611-2186177/)
- 厚生労働省「介護保険最新情報掲載ページ」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index_00010.html)
厚労省通知の原本や所定様式、運用の詳細は、事業所所在地の都道府県担当部局で必ず最終確認してください。
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採用と請求実務、外部の力も活用しよう
猶予特例はあくまで時間の確保です。根本的な解決には、採用チャネルを増やして充足を早めることと、減算・加算が絡む請求実務を正確に回すことの両輪が欠かせません。
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