特養と老健の最大の違いは「目的」です。特養(特別養護老人ホーム)は長く暮らす生活の場、老健(介護老人保健施設)は自宅へ戻るためのリハビリ施設です。この違いを押さえると、対象の要介護度も入所期間も費用も、すべて筋が通って見えてきます。
この記事は、入居先を探す家族と、介護職として働く場所を選ぶ人の両方に向けて、特養と老健の違いを早見表でまとめます。どちらを選べばよいかまで、実務目線で解説します。
記事でわかること
特養と老健の違い 早見表
結論から言うと、両者は「終身の住まい」か「在宅復帰の通過点」かで性格が分かれます。まず全体像を早見表で押さえてください。各項目の詳しい根拠は、このあとの章で順に解説します。
| 項目 | 特別養護老人ホーム(特養) | 介護老人保健施設(老健) |
|---|---|---|
| 目的 | 生活の場(終身利用が前提) | 在宅復帰のためのリハビリ |
| 対象の要介護度 | 原則 要介護3以上 | 要介護1以上 |
| 入所期間 | 定めなし(長期) | 原則3~6か月(数か月ごとに判定) |
| 費用(月額の目安) | 約8万~15万円 | 約8万~16万円 |
| 医師 | 非常勤でも可 | 常勤1名以上 |
| リハビリ職 | 配置の義務なし(機能訓練指導員) | 理学療法士など100人あたり1人以上 |
| 運営主体 | 社会福祉法人・自治体など | 医療法人・社会福祉法人など |
費用は地域・居室タイプ・所得で大きく変わるため、あくまで目安です。次の章から、特養と老健それぞれの中身を見ていきます。
特別養護老人ホーム(特養)とは
特養は、在宅生活が難しい重度の要介護者が長く暮らすための公的施設です。正式名称は介護老人福祉施設といいます。対象は原則として要介護3以上で、費用を抑えやすい点が最大の特徴です。社会福祉法人や自治体が運営し、終身利用を前提にした「生活の場」として位置づけられています。
入所は原則要介護3以上ですが、認知症で日常生活に支障があるなど、やむを得ない事情がある場合は要介護1~2でも特例入所が認められます。提供されるのは、食事・入浴・排泄などの身体介護と生活支援が中心です。医療が必要になっても、看護職員による日常的な健康管理の範囲で対応します。
制度上の定義や基準は、WAM NET(独立行政法人福祉医療機構)の介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の解説で確認できます。働く側から見た特養は、生活支援と身体介護が中心で、夜勤を含むチームケアの経験を積みやすい職場です(特別養護老人ホーム(特養)の仕事は別記事で詳しく解説しています)。
介護老人保健施設(老健)とは
老健は、退院後に在宅復帰を目指してリハビリを受ける公的施設です。対象は要介護1以上で、入所期間は原則3~6か月と短めに区切られます。医師が常勤し、理学療法士などのリハビリ職が配置されている点が、特養との大きな違いです。
位置づけは「治療を終えたが、自宅にすぐ戻るのは不安」という人の中間地点です。看護・医学的な管理のもとでリハビリを行い、自宅で再び暮らせる状態を目指します。人員配置の基準では、入所者100人あたり医師1人・看護や介護の職員あわせて多数・理学療法士等のリハビリ職1人以上などが定められています。
制度上の役割や人員基準は、WAM NETの介護老人保健施設の解説で確認できます。働く側にとっては、リハビリ職や看護師と連携する機会が多く、医療寄りの介護を学べる環境です(介護老人保健施設(老健)の費用は関連記事でも整理しています)。
項目別に見る特養と老健の違い
早見表で挙げた項目を、ここから一つずつ掘り下げます。なぜそうなっているのか、理由まで分かると施設選びの判断がぶれません。
目的の違い
違いの出発点は目的です。特養は「生活の場」、老健は「在宅復帰のためのリハビリ施設」です。この一点から、対象・期間・人員のすべての差が生まれます。特養は暮らしを支え、老健は自宅へ戻す。まずこの軸を覚えてください。
対象(要介護度)の違い
特養は原則要介護3以上、老健は要介護1以上が対象です。特養は重度者の生活を支える施設なので、要介護度の入口が高く設定されています。老健はリハビリで状態を改善する施設のため、より軽い段階から受け入れます。要支援の人はどちらも対象外で、自立~軽度の人は有料老人ホームなど別の選択肢が候補になります。
入所期間の違い
特養は入所期間に定めがなく、長く暮らせます。一方、老健は在宅復帰が前提のため、原則3~6か月で、数か月ごとに在宅復帰の見込みを判定します。そのため老健は「終のすみか」としては使いにくく、退所後の住まいや在宅の準備を並行して進める必要があります。ここを見落とすと、退所時期が迫ってから慌てることになります。
費用の違い
月額の目安は、特養が約8万~15万円、老健が約8万~16万円です。老健はリハビリや医療体制が手厚い分、やや高めになりやすい傾向があります。どちらも内訳は、介護サービス費(所得に応じて1~3割負担)・居住費・食費・日用品費です。所得が低い人には、居住費と食費の自己負担に上限を設ける負担限度額の制度(補足給付)があります。
居住費・食費の基準費用額は2024年8月に改定されています。最新の基準は、厚生労働省の基準費用額(居住費)等についての資料(令和5年12月・厚生労働省)で確認できます。実際の金額は施設・居室タイプで差が出るため、見学時に内訳の明細をもらって比べてください。
医療・リハビリ体制の違い
医療とリハビリの手厚さは老健が上です。老健は医師が常勤し、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハビリ職が配置されています。特養の医師は非常勤でも認められ、リハビリ専従の職種は義務づけられていません(機能訓練指導員が担当します)。たんの吸引や経管栄養など医療的ケアが日常的に必要な場合は、老健や介護医療院のほうが対応しやすい場面があります。
待機(入りやすさ)の違い
特養は人気が高く、地域によっては待機が出ます。厚生労働省の調査では、要介護3以上の入所申込者は令和7年度時点で約20.6万人でした。2013年度の約52.4万人をピークに、10年余りで半数以下まで減っています。施設整備の進展や、有料老人ホーム・サ高住など選択肢の広がりが背景です。とはいえ都市部では今も入所まで時間がかかることがあります。
最新の入所申込者数は、厚生労働省の特別養護老人ホームの入所申込者の状況(厚生労働省)で確認できます。老健は在宅復帰で入れ替わりがあるため、特養ほどの長期待機は起きにくい傾向です。
入居で選ぶなら どちらが向くか
入居先として選ぶなら、判断軸はシンプルです。「長く暮らしたいか、自宅に戻りたいか」で分かれます。本人の状態と希望に当てはめてください。
- 要介護3以上で、長く安心して暮らせる住まいを探している → 特養
- 入院や手術のあと、リハビリで自宅復帰を目指している → 老健
- 要介護1~2で、自立を取り戻したい → 老健
- 医療的ケアが日常的に必要で長期療養したい → 介護医療院も候補
- 費用に余裕があり選択肢を広げたい → 有料老人ホームも比較
特養は待機が出る地域があるため、申し込みは早めが安心です。老健は退所後の住まいを並行して考えておくと、退所時に困りません。迷ったら、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると候補を絞りやすくなります。施設全体の比較は、介護施設の種類と選び方の総覧記事も参考にしてください。
働く場として選ぶなら どちらが向くか
介護職として働く場所を選ぶなら、「身につく経験」で見るのがおすすめです。同じ介護職でも、特養と老健では一日の流れも学べる専門性も変わります。
| 視点 | 特養 | 老健 |
|---|---|---|
| 主な仕事 | 重度者の身体介護・生活支援・夜勤 | リハビリ職と連携した在宅復帰支援 |
| 身につく経験 | 看取りを含む生活支援・チームケア | 医療・リハビリ寄りの介護 |
| 向いている人 | 腰を据えて利用者と長く関わりたい人 | 医療やリハビリを学びたい人 |
| 関わる職種 | 看護職員・生活相談員など | 医師・看護師・理学療法士など |
給料は施設種別だけでなく、処遇改善加算の取得状況や夜勤回数で事業所ごとに差が出ます。求人を比べるときは、月給だけでなく夜勤手当や加算込みの内訳まで確認してください。特養は長期の関係づくり、老健は多職種連携が学びやすい職場です。働き方の希望と照らして選びましょう。
よくある誤解とNG
特養と老健は混同されやすく、思い込みで動くと入居後や就職後に困ります。代表的な誤解とNGを挙げます。
- 「老健にも終身で入れる」と思い込む → 老健は原則3~6か月。終のすみかには使いにくい
- 「特養は申し込めばすぐ入れる」と考える → 都市部では待機が出る。早めの申し込みが安心
- 「要介護1でも特養に入れる」と決めつける → 特養は原則要介護3以上。要介護1~2は特例入所のみ
- 「費用は特養も老健も同じ」と考える → 老健は医療・リハビリが手厚い分やや高めになりやすい
- (働く人)月給だけで求人を選ぶ → 夜勤手当・処遇改善加算込みの内訳を必ず確認
とくに多いのが、老健の入所期間を見落とすケースです。退所の見込み判定があることを前提に、自宅の環境整備や次の住まいを並行して進めてください。長期療養が目的なら、介護医療院も視野に入れて比べると失敗しにくくなります。
まとめ
特養と老健の違いは、目的に集約されます。特養は終身で暮らす生活の場、老健は在宅復帰を目指すリハビリ施設です。この軸から、対象の要介護度・入所期間・費用・医療体制・人員配置のすべての差が生まれます。
入居で選ぶなら「長く暮らすか、自宅へ戻るか」、働く場として選ぶなら「身につく経験」を軸にすると判断しやすくなります。費用や人員の最新基準は厚生労働省・WAM NETの一次情報で確認し、見学では必ず内訳の明細を取り寄せて比べてください。
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