2026年度の臨時改定で処遇改善加算が引き上げ|訪問介護で最大28.7%・算定の実務

※本記事は2026年6月19日時点の公開情報に基づきます。算定要件・率の詳細は必ず最新の厚労省通知でご確認ください。

2026年6月、介護報酬の臨時(期中)改定が施行され、介護職員等処遇改善加算が引き上げられました。報道では「訪問介護で最大28.7%」「訪問看護でも1.8%の加算を新設」と伝えられ、訪問系のサービスでとくに影響が大きい内容です。とはいえ「28.7%=うちの事業所が必ずもらえる率」ではありません。この記事では、誰が・いくら・どう算定するのかを、訪問系の管理者・事務・請求担当の目線で整理します。

まず結論(おさえておきたい3点)
  • 2026年6月施行の臨時(期中)改定で、介護職員等処遇改善加算の率が引き上げられました。全体改定率はプラス2.03%で、その大半(1.95%)が処遇改善分です。2027年度の通常改定とは別物です。
  • 訪問介護の「最大28.7%」は新設の加算I「ロ」の率で、追加の新要件を満たした事業所のみ。サービス種別・区分で率は大きく異なり、全員が28.7%になるわけではありません。
  • これまで対象外だった訪問看護・訪問リハビリ・居宅介護支援等が新たに加算の対象になりました(訪問看護1.8%、訪問リハ1.5%、居宅介護支援等2.1%)。算定には賃金改善・計画書提出などの要件があります。

そもそも今回の改定は何が違う?

介護報酬は原則として3年に一度見直されますが、今回はその途中で行われた臨時の改定です。「強い経済」を実現する総合経済対策(2025年11月21日閣議決定)を受け、人材流出を防ぐための緊急的対応として、改定の時期を待たずに賃上げ支援を行うものです。 厚生労働省の社会保障審議会・介護給付費分科会が令和8年度(2026年度)改定として取りまとめ、2026年6月に施行されました。

全体の改定率はプラス2.03%。内訳は、処遇改善分が+1.95%(2026年6月施行)、介護保険施設の食費の基準費用額の見直しが+0.09%(2026年8月施行)です。本記事で扱うのは前者の処遇改善加算の部分です。

何が変わったのか(3つの柱)

① 対象が「介護職員」から「介護従事者」全体へ

これまでの介護職員等処遇改善加算は、配分の中心が介護職員でした。今回の改定では、介護職員以外の介護従事者も広く対象に位置づけられ、月あたり1万円(3.3%相当)の賃上げをベースとする考え方が示されています。さらに生産性向上や協働化に取り組む事業所の介護職員には月7,000円(2.4%相当)が上乗せされ、事業所の定期昇給(例年2,000円程度)を含めて最大で月1万9,000円を目指す設計です。

② 訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援等が新たに対象に

これまで処遇改善加算の対象外だった訪問看護(介護予防含む)・訪問リハビリテーション(同)・居宅介護支援および介護予防支援が、新たに加算の対象になりました。加算率は次のとおりです。

  • 訪問看護・介護予防訪問看護:1.8%
  • 訪問リハビリテーション・介護予防訪問リハビリテーション:1.5%
  • 居宅介護支援・介護予防支援:2.1%

これらの新規対象サービスは、既存対象サービスとの均衡から、現行の加算IV取得に準ずる要件(キャリアパス要件I・II、職場環境等要件)が算定の前提とされています。要件整備に一定の期間がかかることを踏まえた配慮措置(2026年度中に実施する旨の誓約でも可とする取扱い)も設けられています。

③ 既存サービスは加算が6区分に細分化

従来の加算I~IVの4区分が、上位の加算I・IIで「イ」「ロ」に分かれ、合わせて6区分になりました。「ロ」は新要件を満たした場合の上乗せ区分です。新要件は、訪問・通所系では「ケアプランデータ連携システムの導入(または導入見込み)」、施設・居住系では「生産性向上推進体制加算の取得(または取得見込み)」とされています。

訪問系の加算率はいくらになる?

報道ベースの数値では、訪問系サービスの2026年6月以降の加算率はおおむね次のとおりとされています(正確な率・端数は必ず告示・通知の本文でご確認ください)。

  • 訪問介護:加算I「イ」27.0%/加算I「ロ」28.7%/加算II「イ」24.9%/加算II「ロ」26.6%/加算III 20.7%/加算IV 17.0%
  • 夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護:加算I「イ」26.7%/加算I「ロ」27.8%/加算II「イ」24.6%/加算II「ロ」25.7%/加算III 20.4%/加算IV 16.7%
  • 訪問入浴介護:加算I「イ」12.2%/加算I「ロ」13.3%/加算II「イ」11.6%/加算II「ロ」12.7%/加算III 10.1%/加算IV 8.5%

このように、「最大28.7%」は訪問介護の加算I「ロ」を取得した場合の率であり、同じ訪問系でもサービスや区分が違えば率はまったく異なります。「28.7%=どの事業所も一律」という理解は誤りなので注意してください。

算定の前提となる主な要件

加算は届け出れば自動で付くものではなく、賃金改善の実施と計画書・実績報告書の提出が前提です。区分ごとの主な要件は次のように整理されています(詳細は通知本文をご確認ください)。

  • 共通の土台:賃上げ(加算IV相当額の2分の1以上を月額賃金に配分など)、キャリアパス要件、職場環境等要件の実施。
  • 加算I・II「イ」:上記に加え、資格や勤続年数等に応じた昇給の仕組み、改善後賃金年額440万円以上の介護職員1人以上の配置など。
  • 加算I・II「ロ」(上乗せ):「イ」の要件に加えて、新要件(訪問・通所系=ケアプランデータ連携システムの導入・見込み/施設・居住系=生産性向上推進体制加算の取得・見込み)を満たすこと。
  • 新規対象サービス(訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援等):加算IV取得に準ずる要件(キャリアパス要件I・II、職場環境等要件)。配慮措置あり。

職場環境等要件は28項目のうち一定数以上の実施が求められます(上位区分ほど実施項目数の要件が厳しくなります)。自事業所がどの区分を取れるかは、これらの要件の充足状況で変わります。

事業者への影響と実務のポイント

断定的な助言は避けますが、議論や告示の方向からは次のような実務上の留意点が読み取れます。

  • 新規対象サービスの事業所(訪問看護・ケアマネ事業所など)は、申請の準備(計画書の作成・提出、要件整備)に時間がかかります。早めの確認が無難です。
  • 既存対象の訪問介護等は、上乗せの「ロ」を狙う場合、ケアプランデータ連携システムの導入状況が分かれ目になります。自事業所の現状と見込みを確認しておくと判断しやすくなります。
  • 賃金改善は実際に職員へ配分し、計画どおりに実施することが算定の前提です。要件を満たさない・実績報告ができないと返還等のリスクがあります。
  • 賃上げや区分の変更は、利用者・家族や職員への説明が必要になる場面もあります。社内での情報共有を早めに進めておくとスムーズです。

※具体的な届け出期限・様式・経過措置の取扱いは、自治体(保険者)の案内と厚労省の通知で必ずご確認ください。

上位「ロ区分」で上乗せを取る3つの条件

加算Ⅰロ・Ⅱロを取るには、もともとの加算Ⅰ・Ⅱの要件(賃上げ・キャリアパス要件・職場環境等要件など)を満たしたうえで、追加の「令和8年度特例要件」をクリアする必要があります。この特例要件は、次の3つのいずれか1つを満たせばよい仕組みです。すべてをそろえる必要はありません。

3つの選択肢(いずれか1つ)

  • ① ケアプランデータ連携システムの利用:主に訪問系・通所系・多機能系・短期入所系や新規対象サービス向けの選択肢です。比較的低コストで取り組みやすい一方、施設系では選びにくい点に注意が必要です。
  • ② 生産性向上推進体制加算(Ⅰ・Ⅱ)の算定:主に多機能系・短期入所系・施設系向けの選択肢です。見守り機器などの導入が前提になり準備の手間はありますが、それ自体が報酬(加算)になり、賃上げ以外のメリットも得やすいのが特徴です。
  • ③ 社会福祉連携推進法人への所属:所属する法人がこの連携法人に加わっていれば満たせますが、新たに設立・参画するハードルは高めです。

どの選択肢が適しているかは、提供するサービス種別によって異なります。たとえば施設サービス等では①のケアプランデータ連携システムは要件の対象になりにくく、②の生産性向上推進体制加算が中心的な選択肢になります。逆に訪問・通所系では①が取り組みやすい場合が多いです。なお、申請時点で要件を満たしていなくても、①や②については「加入・算定する旨の誓約」をすれば当面は満たしたものとして扱う配慮措置が設けられています(誓約した場合は、令和9年3月末までに実施し、実績報告が必要です)。費用・難易度は事業所の状況で変わるため、まずは自社のサービス種別でどの選択肢が現実的かを確認することが出発点になります。

最短ルート:生産性向上推進体制加算とは

「生産性向上推進体制加算」は、2024年度の介護報酬改定で新設された加算で、介護ロボットやICTなどのテクノロジー導入と業務改善を評価するものです。これを算定していると「ロ区分」の特例要件②を満たせるだけでなく、加算そのものの収入も得られます(区分はⅠとⅡの2段階で、Ⅰは1月あたり100単位、Ⅱは10単位が目安とされています)。テクノロジー導入の負担はありますが、賃上げと生産性向上を同時に進められる点で、特に施設・多機能系の事業所にとって有力な選択肢になります。

加算Ⅰ・Ⅱの算定要件

まず取り組みやすいのは加算(Ⅱ)です。主な要件は、(1)利用者の安全とケアの質の確保、職員の負担軽減を検討する委員会の開催と安全対策、(2)国の「生産性向上ガイドライン」に基づく継続的な業務改善、(3)見守り機器・インカム等のICT機器・介護記録ソフト等のテクノロジーを1つ以上導入、(4)1年以内ごとに1回、業務改善の効果を示すデータをオンライン提出すること、などです。加算(Ⅰ)はさらに上位で、(Ⅱ)の取り組みで成果が確認されていること、テクノロジーを複数導入していること、介護助手の活用など職員間の適切な役割分担を行っていることなどが求められます。原則として、まず(Ⅱ)から始め、一定期間の取り組みを経て(Ⅰ)へ移行する流れが想定されています。

導入の進め方

進め方の目安は次のとおりです。第1に、現場の課題を「見える化」し、どの業務にどのテクノロジーが有効かを整理します。第2に、見守り機器や記録ソフト、インカムなど、自社の課題に合った機器を選定・導入します。第3に、委員会を立ち上げ(3か月に1回以上の確認が目安)、ガイドラインに沿って業務改善を回します。第4に、業務時間や有給取得状況、利用者満足度などのデータを取得・提出できる体制を整えます。いきなり加算(Ⅰ)を狙うより、まず(Ⅱ)で土台をつくり、成果を確認してから(Ⅰ)へ進むのが現実的です。

補助金との合わせ技

テクノロジー導入の費用負担は、補助金で軽くできる場合があります。代表例が、都道府県が地域医療介護総合確保基金を使って実施する「介護テクノロジー導入支援事業」です。介護ロボット(見守り・移乗・移動・入浴・排せつ支援など)やICT機器の導入費の一部を補助する制度で、機器単体やパッケージ型など複数のメニューがあります。補助率や上限額、対象機器、募集時期は都道府県ごとに設定・運用されるため、内容は地域によって異なります。

このため、生産性向上推進体制加算で必要になる機器を、補助金を活用して導入できれば、初期費用を抑えながら「ロ区分」の要件も満たしやすくなります。ただし制度の有無・条件は自治体次第なので、お住まいの都道府県の最新の募集要項を必ず確認してください。詳細は管轄の自治体窓口や厚生労働省のページで確認するのが確実です。

今後のスケジュール

  • 2025年12月23日:介護給付費分科会が令和8年度改定の審議報告を取りまとめ
  • 2026年1月16日:具体的な見直し案(新単位数・加算率)を提示、答申
  • 2026年6月:処遇改善加算等の見直しを施行
  • 2026年8月:食費の基準費用額の見直しを施行
  • 2027年度(令和9年度):通常の介護報酬改定(今回の臨時改定とは別。今回の効果検証を踏まえて議論)

まとめ

2026年6月の臨時改定は、人材流出を防ぐための緊急的な処遇改善で、訪問系では訪問介護の最大28.7%(加算I「ロ」)が目を引きます。ただしこれは新要件を満たした場合の上位区分の率であり、サービス・区分で大きく異なります。訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援等は新たに対象となり、算定には賃金改善と計画書提出などの要件が前提です。自事業所がどの区分を算定できるか、最新の告示・通知と保険者の案内で確認することをおすすめします。本サイトでも続報を追っていきます。

出典